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- 2019/11/18 掲載
量子イジング型コンピューター開発動向を解説、日立やNTT、富士通、東芝と世界の差
量子アニーリングコンピューターとユーザーを隔てる「ギャップ」
いくつかの企業で、実際の運用が始まっている「量子アニーリングコンピューター」だが、導入すれば、誰でも使えるものなのだろうか。早稲田大学理工学術院の戸川 望教授は「現状、物理学を使って問題を解く量子アニーリングマシンを使うには、情報科学(IT)の言葉で書かれた問題を、物理の言葉で書き直す必要があり、一般ユーザーが使うには『ギャップ』がある」と語る。
量子アニーリングは「イジングモデル(量子アニーリングをつかうための物理学のモデル)」と0と1の重ね合わせ状態を取れる「量子ビット(量子コンピューターの情報単位)」を利用して問題を解く方式である。イジングモデルの形を模して量子ビットを並べたプロセッサで、量子力学を働かせて問題を解く方式とも言える。
つまり、量子アニーリングコンピューターで解きたい問題があるときは、その問題を「イジングモデル」の形で書き直す必要があるのだ。従来のコンピューターに習熟した人は情報科学には慣れているが、物理学、しかも量子力学となると、どのようなものか見当も付かないという人が多いだろう。
戸川教授が指摘する量子アニーリングマシンとユーザーを隔てる「ギャップ」とは、「問題をイジングモデルの形で表現するための、物理学の知識」である。
ギャップを埋める「共通ソフトウェア基盤」を構築へ
1つ目は、現実の問題を表現するに当たって理想的なイジングモデルを構築すること。2つ目は、理想的なイジングモデルを、量子アニーリングマシンが実際に採用しているイジングモデルを変換するソフトウェアを開発することだ。
つまり、ここで言う「理想的なイジングモデル」を、量子アニーリングコンピューターのハードウェアを抽象化した、共通プログラミング言語のような位置付けとし、そのモデルからハードウェアの実装によってそれぞれ異なるイジングモデルに変換するコンパイラ(人が理解可能な言語で書かれるプログラムをコンピューター向けの“機械語”に訳するプログラム)のようなソフトウェアを開発するということだ。
加えて、ハードウェアのイジングモデルから、「理想的なイジングモデル」に変換するソフトウェアも開発することで、処理結果を人間が簡単に読み取れるようにすることも狙っている。
こうして、現実に存在する問題と、量子アニーリングコンピューターのハードウェアに間にある大きなギャップを埋めようということだ。
さらに、共通ソフトウェア基盤の構築と並行して、各種量子アニーリングマシンで、実際にどのような問題を解けるのか、つまり量子アニーリングコンピューターの有効な用途を探索する活動も続けているという。
そのために、量子アニーリングコンピューターを先行導入して評価を続けている企業と、各種量子アニーリングコンピューターのメーカーの間を橋渡しして、さまざまな問題を、各社の量子アニーリングコンピューターで解けるように支援するとしている。
【次ページ】ハードウェアの開発は「戦国時代」に
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