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本連載では、ITトレンドから毎回ホットなキーワードを取り上げ、その最新動向ととともに筆者なりのインサイト(洞察)や見解を述べたい。第11回に取り上げるキーワードは「SAPの2025年問題」。この分野に詳しいガートナージャパン アナリストに話を聞く機会があったので、その内容を基に考察してみたい。
「SAPの2025年問題」とは?
大手企業向けを中心とした業務ソフトウェア市場をリードするSAP。とりわけ同社のERPパッケージで基幹系システムを構築している企業は多く、日本国内だけでも2000社程度あると言われている。
それらの企業が今、「SAPの2025年問題」に直面している。
SAPの2025年問題とは、SAP ERPの保守サポートが2025年で終了するため、ユーザー企業は新製品である「SAP S/4HANA」へ移行するか、別の基幹系システムを再構築するか、選択を迫られていることだ。
長期間にわたって使用する基幹系システムだけに、企業にとっては重要な判断となる。
「SAP S/4HANA」へ移行か、別の基幹系システムを再構築か
ガートナージャパンが先頃開催した「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャサミット2019」では、このSAPの2025年問題をテーマに、同社バイスプレジデント兼アナリストの本好宏次氏が課題と対処策を語った。今回はその内容を基に考察してみたい。
本好氏はまず、S/4HANAについて次のように位置付けている。
- SAPの長期戦略に基づく最重要かつ戦略的なソリューションである
- SAPの新たなビジョン「インテリジェントエンタープライズ」構想では、「インテリジェントスイート」の中核を成す「デジタルコア」と位置付けられている
- SAPの考える「リアルタイム経営」を実現するため、インメモリ・コンピューティング専用のデータ・アーキテクチャや機能を活用し、新たなコードラインで開発された
- SAP HANA上でのみ稼働し、新製品としてライセンス供与されるが、追加ライセンスの料金は比較的少額である(既存のユーザーライセンスは引き継がれる)
- オンプレミス版とクラウド版があり、クラウド版にはマルチテナント、シングルテナント、プライベート・マネージド・クラウドなど複数の形態がある
そして、この問題の背景として、現行のSAP ERPを十分に使いこなせていないことや、今回は単純なテクニカル・アップデートでは済まないこと、この問題に対応できる人材が不足していることを挙げた。
このように「人材不足」である一方、SAPはERPの保守サポートが2025年で終了することを2014年に発表、それから既に5年がたち、あと6年となった。基幹系システムの刷新に6年というのは決して悠長に構えていられる期間ではない。
そこで、何から手を付けるべきかフローチャートで考えてみよう。
ガートナーが示す課題と対処策の「診断フローチャート」
ここからがSAPの2025年問題における課題と対処策の説明である。本好氏は課題を明確にするため、次のような5つの質問を挙げた。
- 今のSAP環境に対して「深刻」な課題や経営層/エンドユーザーからの大きな不満はあるか?
- (上記の質問に「はい」と答えた人へ)S/4HANAで課題・不満が解消される可能性はあるか?
- S/4HANAのメリットを理解しており、十分な導入効果が見込めるか?
- 業務プロセス、機能、ユーザーインターフェース(UI)の変更に対して、エンドユーザーから賛同が得られているか?
- そのまま再利用したいカスタマイズ(アドオン、モディフィケーション)が多くあるか?
そして、これらの質問それぞれの「はい」と「いいえ」の場合の対処策を「診断フローチャート」の形で示したのが、図1である。
図の見方は、青い矢印に沿って進んでいくのがS/4HANAへのメインストリームで、青地に白抜きの文字のハコが対処策である。
この図には上記の番号が付記されていないが、以下の対処策における捕足説明では番号を示すので、質問の内容と照らし合わせていただきたい。
まず、(2)の質問に「いいえ」と答えた場合の対処策は「他のERPへの乗り換え」となっているが、本好氏は「乗り換えの動機を点検し、その妥当性を吟味した上で、最後の手段とすべき」と慎重な対応を促した。
また、(3)の質問に「いいえ」と答えた場合の対処策に「サードパーティ・サポート」とあるが、同氏は「S/4HANAに移行しないと決断した上で、今のSAP環境を長期間利用したい場合は、サードパーティ・サポートの活用を慎重に検討する」ことを推奨している。
もう1つ捕足説明として、(5)の質問への対処策として同氏は「カスタマイズやクラウドに対する自社の方針を踏まえ、適切な移行アプローチと展開モデルを選択する」ことを推奨している。
その適切なアプローチの選択が、新規実装を意味する「グリーン・フィールド」、あるいはシステム・コンバージョンを意味する「ブラウン・フィールド」のいずれかということだ。
【次ページ】「適切な展開モデル」はどう選択すべきか?
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