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KPIはビジネスの“今”を把握するうえで非常に有益だ。それを基に、将来に向けた判断が適切にできるからだ。ただし、KPIを活用できていない企業は意外に多い。デジタル化が進み、より多くのデータが利用できるようになる中、KPIの見直しを放置したままでは他社に先行を許しかねない。ガートナーのアナリスト ポール・プロクター氏が、KPIの活用促進に向けた方策をかみ砕いて解説する。
プロセスを可視化するKPIに多くの社員は無関心?
ビジネスのデジタル変革が進む中、企業の目標達成度を示す指標である「主要業績評価指標(key performance indicator:KPI) 」の重要性は高まるばかりだ。
人手で処理していたため、従来では把握が困難だった多様な局面が、データによって可視化できるようになったためだ。新たに有効なKPIを設定できれば、迅速かつ的確な判断につながり、業績向上が期待できる。
しかし、「企業の現状を概観すると、その道のりは険しいと言わざるを得ません」とプロクター氏は述べる。KPIと自身の業務についての関係性に、多くの従業員が「未だに気づいていない」ためだという。
それは仕方のない面もある。企業では部門や役職ごとに異なるミッションが与えられ、その達成に無関係なデータには無関心になりがちだ。
「ただし問題なのは、多くの従業員が業務の『IT依存度合い』や問題点について、理解していないことです。このため、たとえば不適切なパッチ適用が生じた場合でも、『単なるITの問題』と捉え、対応する機会をみすみす逃しています。それが原因でアプリに不具合が発生し、サプライチェーン全体の遅延リスクが高まってしまうにも関わらずです」(プロクター氏)
KPI策定は社員へのデータの「翻訳作業」
こうした状況の改善を抜きに、今後のKPIの活用は困難だ。プロクター氏は、「その対応で責を負うのは、システムと業務の関係に精通したIT部門、中でも経営に資するIT活用を指揮するCIOにほかなりません」と強調する。
そして、改善の柱となる作業が「適切なKPIの設定」だ。
そのためにプロクター氏が必要性を強調するのが、「ビジネス成果との因果関係が明確に定義されている」「先行指標としての役割を果たす」「対象者が具体的である」などの7つの条件を、できる限り多く満たした“良いKPI”の策定である。
●良い評価指標の特性
・ビジネス成果との因果関係を正当化でき、明確に定義されている
・先行指標としての役割を果たす
・対象者が具体的で明確である
・対象者がビジネス決定を下す際に役立つ
・ITを専門としない対象者も理解できる
・緑から黄、赤へと変化し、アクションを促せる
・評価指標にビジネス環境がかかわるとき、対象者の関心の度合いが高まる
「数値での厳密な提示が困難なリスクなどは、信号のように『安全』『注意』『危険』といった具合に伝えても構いません。そのうえで、自身の業務にどう影響が出るのかについて、社員の職位や業務などを基に分かりやすく伝えねばなりません。これが疎かでは従来のように無視されてしまいます。そして何より大切なのは、なぜそうなるかとの問いに論理立てて説明できることです」(プロクター氏)
たとえばメーカーであれば、アプリの不具合に起因する影響、つまり「生産できなくなった量」「結果として失われる売り上げ」などを営業部門や経営層に報告する。
金融機関であれば、組織のIT化の遅れについて、社内での業務速度や売買処理の遅れといった具合に、道筋立てて部門ごとに言い換えるわけである。
ガートナー流KPI策定法とは?
もっとも、企業ごとに置かれた状況や、管理データの種類と量も異なり、適切なKPIの設定は一筋縄ではいかない作業である。
特にデジタルビジネスの「デジタル化進捗度」に関するKPIつまり、「デジタル・ビジネスKPI」となると、経験の浅さなどから、企業の約半数がいまだ指標を持ち得ていない。
そうした企業に対する参考材料としてプロクター氏が紹介したのが、ガートナーが実施するデジタル・ビジネスKPIの策定サービスでの具体的な策定手法である。
ガートナーではデジタル・ビジネスKPIについて、まず、ビジネス目標の達成に最も有効と判断される「測定対象」を定める。
さらにその対象について「現在の段階」「目指す目標」「目標達成された際の企業としての成果」「自社の調整点」の4つの観点から見ていく。
たとえば、遠隔診療の利用者拡大に取り組む医療機関の場合は、ヒアリングを基に「仮想/デジタルインタラクションの割合」を測定対象に定め、「現在の割合」「目指すべき割合」、目標達成された際の企業としての成果として「顧客満足度の20~50%の向上」を、自社の調整点に「顧客満足度の低下」をそれぞれ設定した。
「この5つの観点のうち、分かりにくいのが調整点でしょう。これは、成果が上がることで生じてしまう不具合です。たとえば、遠隔診療が広がることで、対面での診療を改めて求められる患者が増えてしまい、患者の不満が増すといったことが該当します」(プロクター氏)
【次ページ】8つの企業KPIでデジタルビジネスの成熟度を明らかに
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