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- 2018/10/12 掲載
Cygames Research所長に聞いてみた「企業研究所のオシゴト」
Cygames Research所長 倉林修一氏インタビュー(後編)
前編はこちら(※この記事は後編です)
重点的に取り組むテーマは、AI、UI、そして低レイヤー技術
倉林氏は、Cygames Researchについて、以下のように語る。また、この3つの領域が、前編で紹介した、知識創造とイノベーションの両面の価値を持つという。
「この3つの領域は、ゲーム分野における『パスツール型研究』に該当すると考えています。つまり、新しく面白いゲームを安定的に開発するために必要で、かつ、コンピューターサイエンス分野における本質的な価値を追求できる分野ということです」(倉林氏)
このように研究のターゲットを設定することにより、Cygames Researchでは、研究テーマが実用化される割合が高く、80%を占める。残り20%は萌芽的な研究で、1年~2年後の実用化を見込んでいるとのことだ。
リサーチャーの6か条
Cygames Researchでは、リサーチャーが常に心がけるべき6か条があるという。それは次のようなものだ。(1)Be informative, always.
(常に有益な情報をもたらす存在であれ)(2)Be observant, always.
(常に注意深く観察する存在であれ)(3)Be insistent on the essence, always.
(常に本質にこだわる存在であれ)(4)Finish it at first, and then improve it.
(まず完成させろ。それから改善しろ)(5)Think deeply, do quickly.
(深く考え、素早く実行しろ)(6)Do what you should do, rather than what you can do.
(できることよりも、やるべきことをやれ)
「リサーチャーに求められる能力は高いものですが、しかし、グローバル企業のリサーチャーは優秀であることが当たり前です。国際会議に論文を通したり、国際的に通用するレベルの特許を取得したりするためには、この6つを日常的な振る舞いとして習得していることが重要です」(倉林氏)
この中でも、最後に挙げられている「Do what you should do, rather than what you can do.(できることよりも、やるべきことをやれ)」は特に重要だという。
「一般論として、自分にはできないからという理由で研究テーマを曲げてしまうリサーチャーが散見されます。それは本当に良くない研究の進め方です。たとえば、ログデータを集めて、それを見て『よく分からない』『意味がない』という結論は簡単に出せますが、それは、「自分にはわからない。自分には意味が見いだせない」という場合と、「全人類が分析してもわからないし、意味が見いだせない」という2つの場合がある。リサーチャーに求められる資質は、この2つを区別できることです」(倉林氏)
自分の能力の限界で意味がわからない、という場合であれば、恥ずかしがる必要はまったくなく、むしろ、新しい研究テーマのチャンスだという。
「コンピューターサイエンスの専門家である自分ですら、難しいと思うことがあるのば、そこには技術開発の余地があるということ。その“余地”が本質的な価値を持っているならば、それは素晴らしい研究です。リサーチャーは、自分にできることによりも、できないことにフォーカスした方が、面白く役に立つ研究ができます」(倉林氏)
研究事例1:コンテナ制御システム
クラウドサーバーなどで活用されている「コンテナ」という仮想化技術があるが、その制御技術を新たに開発・実用化したシステムだ。
具体的には、クラウドサーバー上のサーバー1台で100台分の仮想スマートフォンを、それぞれ相互干渉することなく起動できるようになる。さらに、そのクラウドサーバーを必要に応じて追加できるため、スタートしてから数分以内に数万台~理論上は数十万台の仮想スマートフォンを起動可能だという。
スマートフォンを一度に数万台を起動できると、何に使えるだろうか?
「たとえばゲームプランナーは、ゲームを作成する段階で、各種のキャラクターの能力などのパラメータ値を設定していきます。このパラメータの配分が重要で、強すぎても弱すぎてもいけない。そのキャラクターの個性や立ち位置にあったバランスが要求されます。このようなバランス設定は、ゲームプランナーの腕の見せ所ですが、キャラクターの数が増えると、本当にバランスが取れているかどうかを検証することが難しくなってきます。そのときに、この数万台の仮想スマートフォンを用いて、一斉にゲームプレイのシミュレーションをするのです」(倉林氏)
つまり、数万人の仮想的なユーザーにゲームをプレイしてもらうわけだ。そのシミュレーションにより、バランスが崩れていないかどうかを定量的に把握できるようになるという。
倉林氏はこの仮想化技術を論文にまとめ、IEEE International Conference on Cloud Computing (IEEE CLOUD) という、クラウドコンピューティング技術に関するトップレベルの難関国際会議において発表し、特許も出願しているとのこと。
「この大規模な仮想スマートフォンの運用技術は、日々進化を続けています。数万台の仮想スマートフォンにAIを搭載し、数万人のプレイヤーの挙動を予測したりシミュレーションしたりする実験を進めています」(倉林氏)
【次ページ】研究事例2:ビジュアルチェックインシステム
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