Cygames Research所長 倉林修一氏インタビュー(前編)
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楽天、サイバーエージェント、メルカリ、スタートトゥデイテクノロジーズなど、先進的なIT企業が独自に研究所を設置するケースが増えている。ゲーム会社のCygamesも同様だ。2016年、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)から倉林修一氏を所長に迎え、ゲーム開発の基礎技術開発拠点となる研究所として「Cygames Research」を設立した。なぜ、ゲーム会社に研究所が必要なのか? 企業がxTech時代を生き残るヒントを同氏に聞いた。
イノベーションの場は大学から企業に
あらゆる産業において、持続的な成長を実現するためには、優れた研究開発とそれによるイノベーションが必要不可欠である。デジタルゲーム産業においても例外ではなく、これまでにないゲームを開発するためには、研究により新しい知識を創造し、その知識を活用するという、“知識創造とイノベーションの相互作用”を実現することが重要だ。
倉林氏とCygamesの縁が生まれたのは2014年で、まったく偶然のことだった。当時、慶應義塾大学 SFCの専任講師であった倉林氏はCygamesでアルバイトをしていた指導学生から、同社取締役CTOの芦原氏の紹介を受けた。その時、xTech時代になって生じた「技術リーダーのポジションの変化」を感じたという。
「大学から企業に移った大きな理由は、技術のイノベーションが起こる現場が大学の研究所から大企業、大企業からベンチャー企業というように、xTechの先端にいる企業に移ってきていると思ったからです。ユーザー企業にイノベーションの軸が移行しつつあると感じていました」と倉林氏は語る。
“知識創造とイノベーションの相互作用”は、デジタル技術を取り込み新たなサービスを生み出そうという現場にこそある。その流れは、ゲーム業界だけではない。たとえば、IT(Technology)と融合した新たな金融(Finance)サービスである「フィンテック(FinTech)」や、広告配信の基盤としてITを活用する「アドテック(AdTech)」、不動産とデジタル技術の「プロップテック(PropTech)」、農業のデジタル化を進める「アグリテック(AgriTech)」など、さまざまな分野に起きている。
xTech時代と呼ばれるこうした流れは、新たな技術が生まれる場所、技術革新を担うテクノロジーリーダーの在り処を変えた。デジタル技術は社会をグローバル化し、ものごとのスピードを加速させた。そうした状況下では「大学の基礎研究が新たな発見をして、それを大きな企業の研究機関が実用化し、製品化して、その製品を小売りで売る」という従来の手法は機能しない。それでは、世の中のスピードについていけないからだ。となると、技術開発の主体は必然的にITを活用するユーザー企業となる。「このxTech時代にイノベーションの主体となるユーザー企業にいること」に意味があると倉林氏は考えたのだ。
イノベーションを起こす「研究」の在り方
知識創造とイノベーションの両面の価値を持つ研究開発を実施するためには、実際にデジタルゲーム企業が抱える課題を明らかにすることと、その課題の解決が、普遍的な価値を持つことの両方が求められる。特定の目的を実現するために普遍的な科学的知見を得ることが重要なのだ。
米国プリンストン大学のDonald E. Stokes教授は、「普遍的な理解を志向するか否か」という基準と「実用化を志向するか否か」という基準、この2つの軸で研究を4つのタイプに分類。そのうえで、普遍的な理解を志向し、かつ実用化を志向する研究のことを「パスツール型研究」と名付けた(
表1)。
ここで、普遍的な理解と実用化の違いは、飛行機のジェットエンジンの研究に例えるとわかりやすい。飛行機という巨大な物体を飛ばすほどの推進力を得ることを志向して燃焼という現象を追及していくのが「実用化志向の研究」であり、燃焼という物理現象のメカニズムを解明することを志向するのが「普遍的な理解を志向した研究」である。
燃焼という現象を理解しないまま推進力を得ることはできず、また、現象の理解だけではジェットエンジンは作れないため、どちらが欠けても飛行機は空を飛ぶことができない。
つまり、燃焼という普遍的な現象の理解と、ジェットエンジンの推進力を得るという実用指向の両方の視点が重要になる。アメリカ国防総省 国防高等研究計画局(DARPA)では、イノベーションを促進するために、このパスツール型研究を推進している(文献[2])。
倉林氏は、Cygames Researchという新しい企業内研究所の体制を整えるうえで、この研究戦略を大いに参考にしたという。
【次ページ】大学と企業の「いいところ」を融合する方法
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