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SaaSをはじめとするクラウド・アプリケーションの活用は現在では珍しくなくなっているが、自社の競争力の源泉となるビジネス・アプリケーションをクラウド上で開発する動きはまだそれほど活発ではない。しかし今後、クラウド・アプリケーション開発は一気に加速することが予想され、すでに先行して取り組む日本企業も存在する。これからクラウド・アプリケーション開発に着手しようとする企業が学ぶべき知見について、ガートナーリサーチの片山治利氏が語った。
※本記事は「Gartner Symposium/ITxpo 2017」の講演内容をもとに再構成したものです。
調査結果に見るクラウド・アプリケーション開発の動向
日本企業におけるクラウド・アプリケーション開発はどのような状況にあるのか。2017年5月にガートナーのITデマンド・リサーチが実施した調査によると、従業員数2,000人以上の規模の企業の関心が高く、取り組みが先行している。
ただ、クラウド・アプリケーション開発に期待することは、2,000人以上の企業もそれ以下の企業もトップ5は同じである。「開発のスピード」「開発のコスト削減」「他システムとの連携」「開発環境の維持負担の軽減」「開発の生産性向上」で共通している(
図1)。
ただし注意しなければならないのは、それでもクラウド・アプリケーション開発を実施しない企業の「実施しない理由」を見ると、「必要性を感じない」という意見が多数(63.8%)を占めていることだ(図2)。そもそもクラウドを検討さえしていないのではないだろうか。メリットはないと最初から考えること自体を放棄しているのではないだろうか。
クラウド・アプリケーション開発を推進している企業の中にも「必要性を感じない」という意見は必ず存在するが、常に議論を続けている点で大きな違いがある。いまやどんな企業にとってもクラウドは他人事ではない。クラウド・アプリケーション開発について「どんなことが期待できるのか」「その成果を得るためには何が必要か」「自社なりの基準をどのように持つべきか」といった議論から逃げないことが重要だ。
クラウドで先行する日本企業の取り組み(1)ソニー銀行、ローソン
上記の論点を踏まえた上で先進企業の取り組みを紹介したい。
まずはインターネットを活用した個人向け資産運用サービスで成長を続けているソニー銀行の取り組みだ。同行がクラウド・アプリケーション開発を始めた理由は、それが創造的ビジネスの推進を支える技術となるからにほかならない。また、アプリケーションに求められるQCD(Quality、Cost、Delivery)を達成する観点からもクラウドに着目した。
その上で実際にクラウドにどのアプリケーションを実装するかを検討。基本的に新規および周辺系のアプリケーション、パッケージから順次AWSのAmazon VPC(仮想プライベートクラウド)への展開を進めてきた。その結果、QCDについても高いレベルで目標を達成できたと評価し、現在は基幹系(勘定系)のアプリケーションについても採用可否の検討に着手している。
もちろん課題もある。それはAWSのサービス内容が激しく変化していくことだ。次々に登場する新機能、デザイン・パターンの変更を把握し、自分たちの開発方針を満たしていく必要がある。AWSの変化に対応できる体制を確立すべく、クラウド・インフラを理解した人材の確保および育成を最重点課題として取り組んでいる。
2社目の事例はコンビニ大手のローソンだ。同社がクラウド・アプリケーション開発を始めた理由はビジネス変化に対応するスピードの向上である。2013年にAWSと出会ったことが契機となり、店舗システムや本部システム、ECサイトなどを次々にクラウド上に展開していった。
しかしながら2015~2016年にかけては、クラウドに実装するのは基本的に新規アプリケーションとし、同時に設計をAWSに最適化するという方向にマインドを転換。さらに2017年には監視・保守・運用も含めてAWSに最適化するという方針を打ち出している。背景にあるのは、クラウドといえども「業務を止めない設計」が必須という考え方だ。その観点から開発標準化を進め、現在では100を超えるチェックポイントを策定している。
課題はやはりソニー銀行と同じで、AWSの変化が激しいことだ。そこでローソンはAWSのスタッフと毎週2時間の打ち合わせを行い、そこでヒアリングした内容をクラウド・アプリケーションの設計標準や開発標準に反映しているという。
【次ページ】クラウド先行企業の取り組みをさらに紹介。事例から学ぶ成功ポイントも
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