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米IT大手アマゾン・ドットコムは、1994年の創業から一貫して本社を置いてきた西部ワシントン州シアトル市の施設が手狭になったため、今後20年間で50億ドル(約5,400億円)を投じ、北米にある100万人規模の都市に新たな事業拠点となる「第2本社(HQ2)」の建設地を公募する。年収1100万円超えクラスの正社員を5万人も新規採用することから、莫大な経済効果が見込まれ、多くの魅力的な候補地が競って手を挙げている。一方で、これを「ただ乗りだ」とする批判も強まっている。巨大企業を誘致することで起きる問題とはいったい何なのか。
過熱化する「HQ2」誘致合戦
アマゾンは
HQ2公募サイト上で、「シアトル本社における2010~17年の設備投資額は37億ドル(約4,102億円)、従業員に支払った報酬総額は257億ドル(約2兆8490億円)。さらに年間23万3000人を超える本社来訪者のホテル需要など地域経済にもたらした間接経済効果は380億ドル(約4兆2124億円)に上った」と、HQ2候補地への想定経済効果を大いにアピールする。
事実、シアトルでは失業率が低下する一方、人件費が高騰する正の効果が生まれている。新本社建設でコスト節減やリスク回避を目指すジェフ・ベゾスCEOは、HQ2がシアトル本社と「完全に同等になる」と語った。
アマゾンがHQ2建設地の条件とするのは、「人口100万人以上のメトロ都市圏」「優秀な技術人材を惹きつけ、保持することができる都市やその周辺」「本社拠点開発の場所があること」「アマゾンの計画に沿って対応してもらえること」「税制優遇措置があること」などだ。
誘致は、何としても誘致を実現させたい都市を競わせるアマゾン優位で進む。首都ワシントンのミュリエル・バウザー市長は、アマゾンのスマートスピーカー「Echo」で、同社の人工知能(AI)アシスタント「Alexa」に、「どの都市が一番HQ2にふさわしいの」と尋ねるプロモーションビデオを早速作成し、
Webで公開している。この動画ではAlexaが市長に対し、「明らかに、首都ワシントンでしょう」と回答する設定になっている。
首都ワシントンは、アマゾン傘下の高級紙ワシントン・ポストの所在地でもあり、同社との親和性は高いと見られている。
最有力候補はボストンかデンバーか
こうしたなか、米ブルームバーグは「アマゾンの複数の経営幹部が、HQ2を東部マサチューセッツ州のボストン市に置くことを主張している」と
報じた。
同記事によると、ボストンはハーバード大学やマサチューセッツ工科大学(MIT)といった優秀な技術人材を擁するトップレベルの大学に近く、「第1本社」所在地シアトルや首都ワシントンへの直行便を持つ空港があり、しかも多くの大都市に比べて生活コストが低いことが理由に挙げられているという。
また、
米ニューヨーク・タイムズ紙は、ボストンをはじめ、中西部イリノイ州シカゴ市・東部ペンシルベニア州ピッツバーグ市、南部ノースカロライナ州ローリー市(隣接のダーラム市とチャペルヒル市を含む)・西部オレゴン州ポートランド市・中西部ミシガン州デトロイト市・南部テキサス州オースティン市など、優劣つけがたい50の候補都市から「雇用市場の成長」「技術者が豊富」「生活の質」「交通機関」などの条件に合致しないものを振り落とし、最終的にボストン・首都ワシントン・西部コロラド州デンバー市の3都市に絞り込んだ。
その上で、ボストン市長が「誘致合戦に参加しない」と言明していること、首都ワシントンの生活費が高いことなどから、「アマゾンには、デンバーを勧める」とした。建設用地が豊富で、生活費も比較的安く、多くのIT系企業がすでに進出しているなど、条件がぴったり合うのだという。
このほか、その他のメディアでは西部アリゾナ州ツーソン市、西部カリフォルニア州サンフランシスコ市、南部テネシー州ナッシュビル市、中西部ミネソタ州ミネアポリス市、南部テキサス州ヒューストン市などが有力候補に挙げられている。
こうしたなか、「大物」であるニューヨーク州ニューヨーク市が誘致合戦に
名乗りをあげ、HQ2の決定は混戦模様になってきた。また、一部に「アマゾンはシアトル市の施設をさらに拡充すればよいだけだ」との論調も見られる。
一方、注目されるのはカナダ東部トロント市や西部バンクーバー市が取り沙汰されていることだ。1月に就任したトランプ米大統領が、「アマゾンは独占禁止法違反の疑いがある」などと、同社を敵視しているともとれる発言を繰り返しているため、HQ2候補地を米国に限定せず、カナダを含む北米全体に広げたのではないかという見解も出されている。
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