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  • 2017/08/03 掲載

Amazon Effect(アマゾンエフェクト)とは何か?伊藤洋一氏が解説する

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ネットコマースの影響が経済や政治にも大きな影響を及ぼし始めた。三井住友トラスト基礎研究所の伊藤洋一氏は「政府がいくら物価浮揚策を講じても、いま日本も米国もインフレが起きない現象が続いている。その背景にはITやクラウドの進展があり、それが一般物価の上昇を抑えている」と説明。中でも、アマゾンはその影響力が世界経済全般におよび、「Amazon Effect(アマゾン効果、アマゾンエフェクト)」と呼ばれるに至っていると指摘した。

なぜ日本も米国も物価上昇が抑えられてしまったのか?

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三井住友トラスト基礎研究所
主席研究員
伊藤 洋一氏
 最近の米国はトランプ政権に交代してから機能不全を起こしている。オバマケアの代替法案を共和党が放棄する中で、ダウ平均も下がる傾向が続いている。その一方でIT関連企業に目を向けてみると、その株価は上昇しており、ある種のIT株ブームが到来しているともいえる。

 実は、いまIT関連企業に大きな変化が生まれている。NASDAQのなかで、流動性が高く、時価総額が大きい代表株がアマゾンというわけだ。2015年の米国株式市場で流行語になった「FANG」(ファング)というキーワードをご存じかもしれない。これはフェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグルという、巨大ネット(ハイテク)銘柄群の頭文字を取った造語だ。

 「JAIPA Cloud Conference2017」に登壇した伊藤氏は「実はこのFANGが現在の米国経済を牽引しているといってもよい」と説明する。「トランプ氏がいくら政治に失敗しても、FANGのパワーがあるため、経済は上昇気流を示している。そのなかでもアマゾンは最も重要な企業として注目している。なぜなら世界経済の形を変えている企業だからだ」。

 日本でもアマゾンを利用したことのないユーザーは少ないだろう。アマゾンは現在、マクロ経済的にも大きな変化をもたらしているのだ。

「いま日本でも米国でもインフレ(物価の上昇)が起きない現象が起きている。これは一見すると良いことのようにも思えるが、デフレ(物価の下落)の一歩手前ともいえる。そこで日銀は懸命になって、インフレ率を2%以上に押し上げようとしている。そのために超金融緩和を行い、長期国債を買い支え、金利が上がらないようにしている。しかし、それでも物価が上がらず困っている状況だ」(伊藤氏)

 では、なぜ政府の努力にもかかわらず、物価が思った通りに上がらないのか? ビックカメラなどの家電量販店では、価格競争が激化しており、「他社より一円でも商品が高ければお知らせください」という看板を掲げているのを見た方も多いだろう。こういった売り方をグローバルで展開しているのがアマゾンなのだ。同社は、その膨大な小売量ゆえに、地域社会の特徴や小売りサービスを除外して、世界レベルで価格を平準化している。

「そうなるとアマゾンと競争する企業は、同社に負けないために価格を下げようという連鎖が働く。そこで日本だけでなく、米国でも一般物価が上がらないという現象になる。実際にFRBも日銀と同様に、物価を上げられずに困惑しており、2回の利上げを実施した。しかし今年はもう利上げできない状況に追い込まれている。金融緩和を徐々に引き締めたいのに、その裏づけとなる物価上昇が起きないのだ」(伊藤氏)

 もちろんそれだけではなく、ミャンマーやバングラディシュのように、輸出の外貨収入で経済を立て直している新興国も多く、そういうグローバル経済の広がりを、物価が上がらない一因に挙げる人もいる。またシェールなどの影響で原油が安いことを、デフレの一因に挙げる人もいる。

 しかし伊藤氏は「アマゾンなどのネット社会が持つモノの販売力が、一般物価の上昇を抑えていると感じている」と説く。

すべてを飲み込むアマゾンの脅威、新たに登場した2つの新語

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 最近では、アマゾンに関連する2つの新語まで米国で登場した。それが「Amazonification of Main St.(アマゾン化)」と「Amazon Effect(アマゾン効果)」という言葉だ。

 前者は、モノを売るメインストリートがアマゾンに飲み込まれ、アマゾン化していることを示す。その結果、米国ではモールがバタバタと倒産している。そして後者は、証券や金融など、あらゆるものを含めて、アマゾンが経済を飲み込んでいる状況を指している言葉だ。

「今後は、Amazon Effectというキーワードが浸透していくだろう。Amazon Effectは、マクロ経済に大きなインパクトがあり、将来的な経済動向にも影響を与える。実店舗には商品を並べるコストがかかる。ところがECでは何百、何千と商品を並べられる。種類や色などの選択肢が圧倒的に多い。しかも世界中どこでも同じ値段で買える。つまりネットやITやクラウド社会の進化によって、一物一価の状況が生まれてしまった」(伊藤氏)

 このAmazon Effectにより、米国では小売業の崩壊が始まっている。J.C.ペニーやメイシーズ、シアーズといった大手の百貨店、小売店が軒並み100店舗以上も閉店したことも連日のように報道されている。同様の現象が日本のデパートでも起き始めている。たとえば伊勢丹と三越の経営統合などは、昔ならば想像もつかなかった。

 また米国では、デパートのみならず、スーパーマーケットまでもアマゾン化してきたといえる。いまアマゾンは、生鮮食料品の分野にも触手を広げようとしているのだ。

「アマゾンはスーパーマーケット大手のホールフーズを買収するという戦略に出た。生鮮食品は、宅配便だと受け取りに困ることがある。そこで同社は実店舗を手に入れ、生鮮食料品を近くの店舗で受け取れるようにした。アマゾンは米国の経済そのものを変えている。中国のアリババも同様にスーパーを買収している。日本はこれからだろう」(伊藤氏)

 すると今度は別の産業にもその影響が波及する。モールやスーパーマーケットがつぶれ、物流の配達が急増しているのだ。これは、ある意味で日本も同じ状況だ。ご存知の通り、クロネコヤマトも人手が足りず危機的な状況だ。そのためアマゾンでは、次に小規模配送者を囲い込んで、配達しようとしている。

【次ページ】世界どこでも同一価格のインパクト

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