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2021年3月期の決算発表では純利益、株価、時価総額のすべてで商社首位に立った伊藤忠商事。同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)のキーワードは「ビジネスありき」「収益性重視」「内製化」だった。2020年6月に開催されたイベントに同社のデジタル戦略室長と情報・通信部門長代行が登壇し、その取り組みを語った。
本記事は2021年6月16日開催「DOORS-BrainPad DX Conference-(主催:ブレインパッド)」の講演を基に再構成したものです。
生活者と共にある伊藤忠商事の共通語は「マーケットイン」
「Dear LIFE 生活って宇宙だ。」これは今、伊藤忠商事が企業ブランディングにおいて掲げているビジョンだ。
他の総合商社と比べると、同社には生活商品分野のビジネスが多い。このフレーズは、生活する人と共にいる総合商社でありたい伊藤忠商事の思いを表現したものだ。そこには「お客さま目線」「マーケットイン」という志が秘められているという。伊藤忠商事 IT・デジタル戦略部 デジタル戦略室長 関川潔氏は次のように語る。
「お客さま起点でビジネスを紡いでいこうと、当社のトップ自ら『マーケットイン』を発信するようになりました。市場ニーズを的確に捉えて変化対応するには、お客さま目線で考える必要があります。今では『マーケットイン』は伊藤忠グループ社員全員が共有し、胸に秘めているキーワードです」(関川氏)
2017年、中期経営計画策定時の焦燥感からDXへ
伊藤忠商事のDXスタートは、2018年4月発表の中期経営計画「Brand-new Deal 2020」にさかのぼる。計画を策定していた2017年当時、GAFAを筆頭にデジタルプラットフォーマーが台頭、中国でもテンセントが小売業に参入するなど、リテールビジネスは大きなうねりを見せていた。
経営戦略会議で議論の俎上に上っていたのは、グループ会社ファミリーマートの存在だ。消費者がリアルからオンラインへショッピングの軸足を移しつつある中、大きな決断が迫られていた。
そんな折、アマゾンが食料品スーパーマーケット企業であるホールフーズ・マーケットを買収するというニュースが飛び込んできた。このような中で、リアル小売の価値を再認識した同社は追加投資を決断、2018年8月にファミリーマートを連結子会社化した。
これは同社にとってデジタルデータエコノミーに本格参入や構造変化への対応を意味し、「Brand-new Deal 2020」の基本方針で掲げた「商いの次世代化」を象徴する案件だった。同セッションのモデレータを務めたブレインパッド 取締役 ビジネス統括本部長 関口朋宏氏が“次世代化”という強い表現を使った背景を尋ねると、関川氏はこう答えた。
「われわれが持っているビジネスをさらに磨く、進化させる、あるいはディスラプトして変革させることが求められていました。これらを追求するためにデジタルという方法はあるかもしれませんが、目的ではありません。そのため、中計の大標題はデジタルという言葉を使ってはいけない、ビジネスモデルを磨く、進化させる=次世代化とした経緯がありました」(関川氏)
一方で、伊藤忠商事のグループITを担う立場にある堀内 真人氏は、こう補足した。
「当時、ITに関わるわれわれ自身が次世代化できていないという焦りもありました。当グループのシステムインテグレータ(SIer)業は収益のほとんどがオンプレミス開発、ウォーターフォール型開発にあるという状態で、LoB(Line of Business)、クラウド、アジャイル開発へと移行できていませんでした。われわれは、半歩先を行ってマーケットの変化に対応できるようにならないと、という思いでした」(堀内氏)
【次ページ】伊藤忠商事グループのDXは、地に足をつけたDX
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