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ドライバー不足に悩むトラック業界は「自動運転技術」の実用化に期待している。一方、国内の貨物輸送をトラックと二分しながら船員不足に悩む内航海運業界は、自動運転の海洋版「自動運航船」の登場に期待している。自動運航船は衛星通信、AI、IoTなど、ハイテクの塊。その研究開発、実用化のプロジェクトは、政府が6月に発表した「未来投資戦略2017」でもとりあげられ、2025年を目標年に官民あげて推進中だ。日本のハイテクが満載の自動運航船は、遠くない将来、相当の規模で出航しそうだ。
国内物流のシェアをトラックと二分する「船」
アマゾン・ドットコムの配送をめぐる問題など、近ごろ話題の「トラック輸送」。貨物自動車は国内貨物輸送の50.2%を担う物流の主軸である。
では、第2位の担い手は何か? JR貨物の「貨物列車」だと思っている人が多そうだが、鉄道のシェアは5.3%にすぎない。航空便はわずか0.3%。正解は「内航海運」つまり船で、44.3%を占めて国内の輸送シェアをトラックとほぼ二分する(2015年度)。
石油製品の88.0%、セメントの86.0%、鉄鋼など金属製品の60.8%は、国内の港から港へ内航貨物船で運ばれている。他にも石灰石、製紙原料のパルプ、化学薬品、肥料など「産業基礎物資」の約8割は船で運ばれている。トラックや鉄道、貿易を担う外航貨物船と比べると地味で目立たないが、内航海運は日本の産業、国民生活を支えている。
暑中見舞いの絵はがきで、入道雲、青い海と一緒に描かれている船にはのんびりしたイメージがあるが、実際の貨物船は高速化、荷役の自動化が進んでいる。「タッチ・アンド・ゴー」と言い、入港して荷役を終えるとアッという間に出港する。地方自治体が徴収する港湾施設の使用料などのコストがかかる停泊(係留)時間を1時間でも節約するためで、効率化、コストダウンを厳しく追求している。
貨物輸送の統計では、運んだ重量にその距離を掛けた「トンキロ」という単位をよく使う。1トンの貨物を1キロメートル運べば「1トンキロ」。内航海運による貨物輸送トンキロは「リーマン・ショック」が起きた2008年度と翌2009年度に300億トンキロを割り込んだが、2010年度以降はコンスタントに300億トンキロを超えており、2014年度、2015年度は前年度比でプラスだった。
政府は「交通政策基本計画」(2015年2月閣議決定)の中で、東京五輪が開催される2020年の内航海運の輸送量として367億トンキロという目標値を掲げている。340億トンキロだった2015年度と比べると、5年で約8%増える計算になる。
「パリ協定」のために進める「船舶シフト」
なぜ、政府が内航海運にそんなに期待を寄せるのかというと、2015年12月の気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」に関わりがある。地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の排出を抑えるために、国内排出量の約2割を占める運輸部門でトラックから内航海運、鉄道への「モーダルシフト」を進めようとしているからだ。
貨物船の燃料もほとんどは軽油や重油など化石燃料だが、軽油やガソリンを燃料とするトラックに比べると、輸送トンキロあたりの二酸化炭素排出量がケタ違いに小さい。国土交通省発表のデータによれば、長距離トラックなど営業用貨物車(緑ナンバー)の5分の1以下である。
アメリカのトランプ政権は今年6月にパリ協定からの離脱を発表したが、日本政府はEU諸国などとともに、パリ協定を着実に実施していく姿勢を維持している。
環境行政上でもトラックから内航海運へのシフトを進めたい政府だが、そこには3つの大きな障害が立ちはだかっている。内航海運業の99.6%が中小企業規模という「ぜい弱な産業構造」、船齢14年以上の船が全体の72%を占めている「船舶の高齢化」、そして50歳以上の船員が全体の55%を占める「船員の高齢化」という3つの壁である。
トラックから船へのモーダルシフトを進めたいが、内航海運は古い中・小型船が多く、船会社に新しい大型船を建造できる財務基盤が乏しい。建造できたとしても、それを動かす船員が不足し、先細り。このままでは、海運国ニッポンの世界トップレベルの航海技術の継承すら、ままならない。
そんな壁を乗り越える手段はないのか?
一つの解決策として、国土交通省では「自動運航船(オート・シッピング)」の開発・普及をいま、推進している。
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