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- 2020/01/29 掲載
なぜ海運業界は「排ガス洗浄装置」スクラバーに注目するのか
連載:海運業界トレンド
スクラバーとは何か
国際海事機関(以下、IMO)による燃料油の硫黄分規制は、2020年から一層厳しさを増す。低硫黄と高硫黄で燃料油の価格差が広がる中、コンテナ船運航業者はスクラバー装備の方向に舵を切っている。スクラバーはいわゆる排ガス洗浄装置で、スクラバーを装備している船舶は価格の高い低硫黄燃料を使わずとも、IMOの規制を満たした上で運行できる。硫黄分規制にともなう運営コスト増の軽減に、競合他社に先駆けて成功した業者は、市場シェアを急拡大できる可能性もある。
しかし、スクラバー装備に向けた業界の方向転換は、高硫黄の燃料油価格を低硫黄より大幅に低い水準に留めることになる。さらに、洗浄処理で使用した水を海に排出するスクラバーに対し、環境保護主義者が警鐘を鳴らす状況の中で、規制当局がこれ以上スクラバーを搭載させない方向に向かう可能性も秘めている。この動きは、環境保護規制の厳格化だけでなく、エネルギーコストの対応にも大きく影響を及ぼす。
マッキンゼーアンドカンパニーで海運港湾分野を担当するパートナー、スティーブ・サクソン氏は、「(超低硫黄燃料油の)価格上乗せ分が100ドル~150ドルだとすると、スクラバー装備率が高い海運会社のコスト競争力は、全体的に10%~15%高くなると考えられる。こうした海運会社は、そのコスト競争優位性を市場シェア獲得に活用できる。さらに、業界全体が望むように、高い燃料コストをやり過ごせなくなるリスクもはらんでいる」と指摘する。
スクラバー装備で得られるメリットは
過去において海運会社は、スクラバー発注に慎重姿勢を見せていた。しかし、新船へ装備すると200万ドル~300万ドルかかると言われるスクラバー投資が、実はコスト面で優位であることがわかり、装備に踏み切る新船が増えている。低硫黄と高硫黄の間にある価格差が、1トンあたり約250ドルへと上昇する中、スクラバー装備の船舶のみがビジネス的に改善傾向にあることが明らかになった。この結果は、IHS マークイット傘下でJOC.comの関連会社 Oil Price Transportation Serviceの価格分析データを基にしたものだ。
2019年11月12日時点で、ロッテルダム港の低硫黄燃料油販売価格は、1トンあたり500ドル。一方で、高硫黄燃料油販売価格は、1トンあたり約253ドルだった。海運協会BIMCOのチーフ海運アナリストであるピーター・サンド氏は、シンガポールでの低硫黄燃料油と高硫黄燃料油間の価格差は、1トンあたり273ドルと過去最高記録を更新したことを指摘している。
【次ページ】日本のONEはスクラバー発注をしていない?
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