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安く安全な水が24時間手に入る時代が終わろうとしているのだろうか。地方自治体が埋設した水道管の老朽化が進み、破裂、漏水などの事故は年間1,000件を超す。耐用年数を過ぎた水道管を更新し、良質の水を提供し続けるには、多額の予算が必要で、人口減少時代を迎えた自治体にとって予算確保は難題だ。政府は水道法の改正案を国会に提出、施設の所有権を自治体に残しながら、運営権を民間企業に売却する民営化で苦境を乗り切ろうとしているが、海外では民営化した事業を再公営化する動きも出ている。立命館大政策科学部の仲上健一特任教授(水資源環境政策)は「民営化のリスクカバーは容易でない」とみている。
各地で相次ぐ老朽水道管の破裂事故
目の前にぽっかりと開いた直径5メートル、深さ1.3メートルの大穴。路面のアスファルトが崩れ落ち、近くの商店街に大量の水が流れ込む。2016年10月、大阪市東住吉区駒川の府道で発生した水道管破裂事故で、周辺の店舗や民家約10戸が水に浸かり、道路も丸1日、通行止めになった。
破裂した水道管は直径1メートル。61年前に埋設された老朽管で、法定耐用年数の40年を大きく上回る。これだけ古いといつ破裂してもおかしくないが、予算不足で放置されていた。
神戸市兵庫区石井町の市道でも同日、地下の水道管が破裂し、路上に水が噴き出した。この影響で周辺の民家42戸が断水したほか、5,000戸に水道管のさびがはがれて赤い水が出た。破裂した水道管は43年前に設置された老朽管だった。
水道管の事故は老朽管の増加とともに多くなり、珍しいものではなくなった。2015年には京都市山科区、2014年には北九州市のJR黒崎駅前、滋賀県大津市の市役所前などで発生、路面に水を吹き出した。
増える老朽管に更新が追いつかず
厚生労働省によると、全国に張り巡らされた水道管の総延長は約66万キロ。実に地球16周に及ぶ距離になる。その結果、国内の水道普及率は2014年度で97.8%に達した。事実上、どこに住んでいても安全な水が供給されているわけだ。
しかし、水道管の多くが高度経済成長期に整備された。2014年度で総延長の12.1%が法定耐用年数の40年を超えている。総延長に占める法定耐用年数を超えた水道管の割合を管路経年化率と呼ぶが、2006年度の6%から8年で2倍以上に増加した。最も老朽化が深刻な大阪市は全体の4割以上を老朽管が占めている。
これに対し、全国の更新率は年間0.76%ほど。厚労省は更新を急ぐよう指導しているが、自治体の財政難で追いつかない。このままではすべての水道管を更新するのに、130年もかかることになる。耐震化工事の進捗率も2014年度、基幹水道管36.0%、浄水施設23.4%、配水池49.7%しかなく、遅々として進んでいない。
工事が進まないのは予算難が原因だ。水道事業は主に市町村が担い、全国に1,400の事業者があるが、人口減少で収入が減り続けていることもあり、半数以上が赤字体質とされる。
やむなく水道料金を大幅に値上げする自治体も出てきた。4月には徳島県阿南市が平均23%、大津市が19%の水道料金値上げに踏み切った。新日本監査法人の推計では、2040年度までに値上げが必要な自治体は調査対象の98%に及ぶ。このままでは安い水も幻になるかもしれない。
青森県深浦町は2014年4月で20立方メートル当たりの月額水道料金が6,588円。日本水道協会によると、国内で2番目に高い料金を取る。水道施設が10カ所以上に点在し、維持費がかさむうえ、地形の起伏が激しく、ポンプで水を送らなければならないからだ。
深浦町水道課は「人口減少で減収が続く。町民に安い水を提供したいが、財政が厳しく、妙案が見つからない」と頭を抱えている。重くのしかかる施設管理、更新費と人口減少が自治体を苦しめ、長期展望を見いだせなくしている。
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