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2016年11月8日、あとから振り返ってみても、おそらく歴史的な一日となったことは間違いないでしょう。その日、米国の大統領選挙で共和党候補のドナルド・トランプ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏を破って、米国次期大統領として当選。今年1月20日に正式就任します。今回の世界ハイテクウォッチは、特別編としてトランプ政策による日米のIT企業への影響を探っていきたいと思います。
「メキシコとの国境に壁を作る」、「イスラム教徒の入国禁止」など歯に衣着せぬ発言を繰り返すトランプ氏の当選が伝わると、米国ならびに世界の政治・経済に対する不透明感から株価は急落、11月9日の日経平均は前日比5.36%安の1万6251円で引けました。
とはいえ、その後は同氏が国内の景気刺激のために積極的な財政再策を実施するという姿勢が伝わり、株価は急反発。結局のところ、2017年1月5日の最高値は19,615円、結果的に日経平均は3,000円以上の上昇となりました。
そして、2017年1月20日、トランプ氏が大統領に就任します。彼の施策はどう経済や株価に影響を及ぼすのでしょうか。
トランプ氏とITリーダーとのミーティング
トランプ氏が米国のIT企業に対してどう対峙するか、現時点では、それほど資料はありません。ただし、唯一といっていいほどの手がかりが、2016年12月に同氏のキャンペーンサイトに掲載されたエントリ「
トランプ氏とITリーダーとのミーティング 」です。
トランプ氏にとって重要なのは、ブログエントリに「create more jobs in the U.S., particularly for working Americans.(特に米国民のために雇用を創出する)」ことであり、このお眼鏡にかなったアマゾン、オラクル、アップル、インテル、テスラ、マイクロソフト、グーグル、シスコ、IBM、フェイスブックのトップを集めて会談を実施しました。
詳細は非公開ながら以下について話し合われ、これらのトピックが今後のトランプ政策の方向性になりそうです。
アメリカのためにより多くの雇用者を創出する
アメリカ企業が他国のビジネスに参入した際は、そのビジネス障壁を軽減する
アメリカの競争力を維持し、中国にも同じようにアクセスする
税金を減らす
物理的あるいはデジタルでのインフラを強化する
知的財産権を保護する
アメリカのサイバーセキュリティを向上する
政府のソフトウェアシステムを更新する
学校にテクノロジーをもたらす
トランプ政策は“ファイアウォール”か
では、こうした方針がどう個別のテクノロジー企業に影響するのでしょうか。
筆者の理解では、IT企業への影響は「ファイアウォール」に近いのではないかと考えています。ファイアウォールとは、ITのセキュリテイに欠かすことができない機器です。そして、ファイアウォールの役割は、(1)Webなどの一部アクセスを除いて外部からのアクセスをブロックし(インバウンドアクセス)、一方で(2)内部から外部へのアクセスは原則として自由です(アウトバウンドアクセス)。
このファイヤーウォールの考え方をトランプ政策に当てはめることはできないでしょうか。つまり、インバウンドアクセスは、外部から米国へアクセスする海外企業、アウトバウンドアクセスは米国から海外へアクセスする米国国内企業です。
そして、インバウンドアクセスについて、米国の雇用を奪うような海外企業からのアクセスをブロックし、米国からグローバル展開する企業については、ファイアウォール同様アクセスは自由、ただし、そのアクセスを阻害するのであれば軽減する、というわけです。
とくに、アクセスの阻害という点では、後述するアップル、グーグル、フェイスブック、ネットフリックスと米国を代表するIT企業が進出するも、何らかのアクセス阻害を受けているとされており、この是正が論点になりそうです。
トランプ政策を米国内・外企業×ハード・ソフトで区分
では、こうしたトランプ政策がIT企業にどう影響をもたらすのでしょうか? ITと一言にいっても広く、大まかにソフト・サービスならびにハードに分けることができます。そして、本稿では、“ファイアウォール的”な米国内企業と米国外企業を縦軸、ソフト・サービス、ハードを横軸として、どう影響があるのか見ていきます。
まず、全般的に言えることは、財政政策が与える影響です。米国で大規模な財政政策、加えてFRB(米国連邦準備銀行)による利上げを実施することは、対日本であれば円安ドル高になります。
つまり、低い貸し出し金利の日本において日本円でおカネを借りて、ドルに換金(円を売って、ドルを買う)し、相対的に金利が高いドルで運用すれば、その金利差分だけ儲かります。したがって、円を売って、ドルを買う、円安ドル高の動きになります。
こうした円安ドル高は日本企業にとってメリットになります。すなわち、1ドル80円であった為替レートが1ドル100円まで円安になれば、米国側にとっては1万円だったものが、8,000円で買えてしまいます。自動車など海外向け製造業が多い日本にとって「円安」が至上命題であるのもこの所以によるものです。
では実際に為替はどのような動きをしたでしょうか。トランプ氏が次期大統領候補として当選してから、将来的な円安ドル高を見込んで、円安が加速、16年8月26日の高値1ドル101.84円から17年1月6日には1ドル117円まで16円ほど円安が進みました。
一方、米国企業にとって、このドル高はまったくの逆の影響を及ぼします。ドル高となれば、米国企業の製品やサービスを、日本の消費者が従来は100ドル=8,000円で買えたものが、100ドル=1万円と値上がりするわけです。
米国IT企業の場合、米国内をはじめとして欧州、アジア、南米、オセアニア、アフリカなど世界各国に展開しているので、このドル高による影響は米国内企業の海外売り上げを押し下げるインパクトを持ちます。したがって、財政政策等で国内雇用を創出する企業に対しては補助金などの優遇措置を提供するとみられています。
トランプ政策によって影響を受ける中国
そして、トランプ氏による政策で、もっとも影響を受けそうなのが、中国です。日本同様に中国元安ドル高が進み、2014年初の1ドル6元(1元=16.8円)から2017年1月6日まで6.92元まで急上昇しました。
トランプ氏は、「Currency Manipulation(為替操作)」、すなわち中国政府が何らかの為替操作をしているのではと主張しています。この真偽のほどは確かではありませんが、少なくとも中国企業にとっては、米国に進出してビジネスを展開すれば、より安いコストで提供できることは間違いありません。
そして、こうした流れを“ファイアウォール”のごとく例外を除いて排除して、米国企業に有利なように財政政策などを展開する、これがトランプ氏の政策によるIT企業へのインパクトと言えるでしょう。
ただし、どこまで中国企業をフィルターするかは難しいところです。たとえば、アマゾンが開発した音声アシスタント対応スピーカー「Amazon Echo」が注目を集めています。Amazon Echoは、家電と連携し、音声認識でテレビの電源を入れるといった機能を提供します。
こうした音声アシスタントにおけるシェア獲得で重要な点がエコシステムです。テレビ、オーディオ、家庭用ロボット、あらゆる機器がAmazon Echoとつながることがシェア獲得につながり、米家電見本市のCES2017では、多くの企業がAmazon Echoに対応した機器を発表し、音声アシスタントを提供しているグーグル等に比べて一歩リードしました。
こうしたAmazon Echoに対応する製品は当然中国製にもあります。たとえば、通信機器大手ファーウェイは、Amazon Echo対応のスマホを発売しましたし、コンシューマ家電メーカーのレノボはAmazon Echo搭載のスピーカーを発売しました。ファーウェイ、レノボいずれも中国企業です、そして、中国企業ということでフィルターしてしまっては、エコシステムという点では劣後してしまいます。このファイアウォールという仕組みにおいて、どこまで許容して、どこまで排除するか、こうした点が今後トランプ氏の大統領就任以降、明らかになると考えられます。
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