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- 2016/09/30 掲載
なぜ探偵はクライアントを満足させる「情報収集」ができるのか
取り込み詐欺のケーススタディ
阿部泰尚 氏が代表を務めるT.I.U.総合探偵社は2003年に設立。浮気調査をはじめ、企業のトラブル解決のための取引調査や不正調査といったコンサルティングも行っている。オプンラボ主催イベントに登壇した阿部氏は、フジテレビ「探偵の探偵」の監修を手掛けたり、NHK「クローズアップ現代」において当事者録音の技術が取り上げられたりとメディアにも登場する人物だ。同氏が話題に挙げたのが、代金後払いで引き渡した商品の代金を支払わずに詐取する詐欺手法「取り込み詐欺」についてだ。
父親から譲り受けた食品加工業会社を営むAさんは、新規開拓にも成功し、売上を順調に伸ばしていた。特に新規開拓先である、社歴20年以上の中小企業・B社とのカニ加工食品の売り上げが順調だった。そのB社と取引を始めた3か月後、B社から「大手ファミリーレストランとの契約が決まり、商品の発注量が多くなるため、現金払いから掛売に変えてほしい」と打診される。
B社とは取引実績があり、大手ファミリーレストランの運営会社との覚書も提示したため、Aさんはビジネスチャンスと考え、取引に応じる。カニ加工品の販売はおよそ5倍程度になり、売掛金の規模も膨らんだ。ファミリーレストランに足を運んでみると、よく売れているように思えた。
2か月後、支払日が来る。しかし、入金はなく、B社を訪問するも、すでに閉鎖された後だった。Aさんはファミリーレストランの運営会社を訪ねる。しかし、運営会社の担当者は「取引はしていない」と告げる。
Aさんは担当者から「法人登記簿にB社社長の自宅が表記しているはずだ」と教えてもらい、会社に電話し、保管してある登記簿にある住所を聞き、社長宅へと向かった。住所はマンションだが登記簿に部屋番号はなく、表札を見てもわからない。管理室で尋ねたが「個人情報だから教えられない」と言われる。
Aさんが顧問弁護士に相談すると、「これは取り込み詐欺だ」と知らされる。B社は先代の創業社長に跡継ぎがいなかったため、従業員であった現社長が、B社を引き継いだということだったが、実はここにワナがあった。このB社は、(詐欺グループが)休眠会社を買ってきたものだったのだ。それを役員を変更して自分のものにしていた。代表取締役は名義貸し。調べてみると多重債務者だった。
「『商品を扱っていないから、小売りはしていないから大丈夫だ』という経営者もいます。実際、これまで食品は詐欺にあわなかった業界でした。食品は腐るから狙われていなかったんです。詐欺グループの多くはパソコンなどを狙っていました。パソコンは腐らないですし、賞味期限もないですから。ところが詐欺師は、食品会社があまり狙われないために、取引先に対する与信判断が甘くなることに目をつけ、食品会社を狙いはじめたわけです」(阿部氏)
あなたの会社の取引先が休眠会社だったら…?
一般的には、休眠会社を買うことで、創業年数を長く見せられることや、不動産や建設免許などの事業許可を取得できるというメリットがある。だが、社歴によっては金融機関との取引が困難になるというデメリットもある。
しかし現状、休眠会社は取り込み詐欺や闇金融、出会い系サイトなどの違法・脱法行為のために売買されるケースがあとを絶たない。新規取引をする会社の実態が、詐欺グループが休眠会社を買っただけの、架空の会社だったという可能性もある。
狙われないと思っていたところに狙いを定めてくるのが、詐欺師の常套手段である。決して「自分は大丈夫」とは限らないのだ。「飲食店をやりませんか?」「カフェをやりませんか」といったものから、「上場しませんか?」といったことまで、様々な手口がある。企業や個人にとって、いつ被害にあうのかわからない状態だといえる。
「詐欺師の仕事はなんだと思いますか? 多くの人は『だますこと』と考えますが、実は、『信用させること』なんです」と語る阿部氏。詐欺の怖いところは、いつの間にか詐欺師を信用してしまい、被害にあうことだ。事実、詐欺師の多くは「話すと社交的で、すごくいいやつ」なのだという。
法人を設立すると、必ず法人登記をする。調査する場合はこの登記簿を取り寄せ、代表者の住所から不動産登記簿を取り寄せる。移転や名称の変更もあれば、過去の登記簿もすべて取り寄せる。「資料を取り寄せて追跡する」ことから阿部氏は「ペーパーチェイス」と名付けている。
これらの情報は、登記情報提供サービスで調べることができる。
「休眠会社のなかには転売が繰り返され、大型詐欺グループが使いまわした会社もあります」(阿部氏)
多くの企業では取引を始めるときに、登記簿を認識することがあまりない。登記簿に社長の住所が乗っていることを知らなかったという人は多い。阿部氏は「登記簿を見るという機会はあまりないと思いますが、少額で手に入るものです。基本の資料として、改めて認識してほしい」と注意を喚起する。
情報獲得を一定レベル以上にするための工夫
営業担当は、訪問先の企業の報告書を、事実でなくカンや印象で書くことがある。特に営業は売りたいと思うので、チェックが甘くなりやすい。営業の主観的意見で終わらせず、客観的にするために、チェック表を作成することも大切だ。登記簿と事実上の所在地が違う場合もある。その場所が、テナントなのか、持ち家なのか、もチェック項目となる。その他、デスクの数、パソコンの数、従業員の数など。チェック表は企業によって独自のものを作る必要がある。
阿部氏「最近ではバーチャルオフィスが多い。でも、オフィスがないと仕事にならない場合もあります。『ここ大丈夫かな?』と思えば、現地に行って話を聞いて、どういう仕事の形態をしているのかを確認します。それで納得すればOKですが、納得いかなければ問題視します。そのためにチェック表を作ります」
T.I.U.総合探偵社では、企業の取引調査や不正調査を行う場合、情報収集を行う。その方法は、ネットで所在地、氏名、電話番号、Webサイトのドメイン取得者を検索する。氏名などは漢字やひらがな、ローマ字など、あらゆる形で調べる。
もちろん、ネット以外でも情報収集を行う。例えば、法人登記簿、不動産登記簿、官報、大手興信所による調査レポートなどを取り寄せ、異様な記述がないかを調査し、分析する。また、政府の機関紙である官報には破産者の情報が掲載されている。
クライアントの満足度を高める「情報収集」のポイント
情報収集をうまく行うために何を意識すればいいのか。阿部氏が挙げるのは「クライアントのニーズを聞き出すための、面談・打ち合わせの重要性」だ。クライアントは報告書を見て、自分が要求するニーズを満たしているかどうかだけを判断する。現場がどうだったかは関係はない。つまり、クライアントのニーズを把握しないことにはすべてはうまくいかないのだ。「調査結果と情報の価値は、クライアントの価値観で決まる」ということだ。
「打ち合わせから、実現するための期間や人員、機材が出て調査計画が決まります。もちろん、『そのためにはこういうアプローチをしたほうがいい』と提案もします。しかし、契約以外のことはやりません。重要なのは、打ち合わせでちゃんと戦略を立てること。でないと、戦術がうまくいかないんです。どんなに現場が優れていても戦略がちゃんとしてないと上手くいかないと、僕らは考えています」(阿部氏)
阿部氏はクライアントに報告する際に、集めた情報のレベルを以下のように区分けしている。ポイントとなるのは、収集情報と確定情報を意識することだ。
対象に関する情報は、直接関係のないことでも、とにかく集めることが基本。
【確定情報】
情報をそのまま報告はしない。間違いやいらないものも多い。収集情報で裏付けが取れた情報だけを確定情報として報告書に反映させる。裏付けは、クロスさせた3つの証言が取れたら、裏付けが取れたとする。
【有益情報】
密接な関係があるのではないかと思われる情報は、有益情報として分析時の参考にする。ただし、あくまでも参考であり、報告書には書かない。
【次ページ】探偵が教える「情報収集」の極意
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