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  • 2025/04/07 掲載

「管理職は罰ゲーム」の真因、日本の人事部門「企業の最底辺扱い」の愚かしさ

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日本企業では、人事異動が成長の機会とされる一方で、社員の意欲やキャリアの意志は軽視され、終身雇用を前提としたシステムの中で「適材適所」が歪められてきた。限界を迎えた「昭和型マネジメント」から脱するには、何が必要なのか。グッチグループやジョンソン・エンド・ジョンソンなど、外資系企業の人事に20年以上携わった安田 雅彦氏が解説する。
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日本経済の復活は、現場にいる中間管理職にかかっている?
(Photo/Shutterstock.com)
※本記事は『世界標準のフィードバック 部下の「本気」を引き出す外資流マネジメントの教科書』を再構成したものです。

人をコマのように動かしてきた日本企業のマネジメント

 日本企業の中間管理職が、とにかく「忙しい」──。

 マネジメントの定義が曖昧で、理解が圧倒的に不足している──。

 日本の企業がこのような状況に陥ってしまったのには、おもに2つの原因があると考えます。

 1つは、日本企業のマネジメントが、人を資源として捉え、会社として効率よく分配・配置していくという「リソース・アロケーション(経営資源配分)」を最優先していることです。

 会社にとって、人は事業を行うために必要な「リソース」の1つと捉えられている。そこでは、人が主体ではなく、会社が主体なのです。

 だから欠員が出たりしたら「この部署に1人余っているから動かそう」という発想で、人をコマのように動かし、人事異動をおこなってきた。そこには、人の成長やエンゲージメントで事業を成長させようとする中長期的な戦略などはありません。

 ときどき「社員の成長を図るためにも定期人事異動が必要」という名目で、ローテーションで人事異動を行う会社がありますが、それも私から言わせれば、まったく後付けのお題目です。

 「適材適所」などと言いますが、社員の自己実現意欲や成長実感を無視しての言葉であれば、これほど会社都合に立った言葉はないでしょう。

 リソース・アロケーションの概念を成立させ、維持してきたのは、終身雇用制による長期雇用です。私が新卒で就職したころの日本企業は、ほとんど終身雇用制でした。

 いったん新卒で入社したら長く働くことが前提で、若いうちは自分のやりたいことはできない。個人の意志を通すことは我がままとされ、人事異動を断ったらその会社には居られない。不本意な配属や長時間労働にも我慢することが求められました。

 その引き換えに、たとえモチベーションが低くても、エンゲージメントがなくても、ずっと働けば給料は上がり、退職金もたくさん出るという構造になっていました。

 しかし現在、その概念は通用しなくなりました。

 安定経済成長を前提とした長期雇用が崩れ、自己犠牲を求める滅私奉公的な働き方は過去のものと化しています。

 若い人で、今の会社で定年まで勤め上げようと思っている人は、おそらくほぼいないでしょう。

 「昭和型」の価値観は終わりを迎えたのです。

 その後に入社してきたのがいわゆるZ世代といわれる人たちで、しばしば、上の世代とのジェネレーション・ギャップが取り沙汰されています。

 これはしかし、無理もない話です。私が新卒だった1989年から1999年の10年間に起こった出来事と、2014年から2024年の10年間に起こったことはまったく違います。

 「メールの文末に句読点がつくのは威圧的だ」という彼らと、「会社を休むのにどうして電話をかけてこない」という我々とでは、まったく別の価値観をもっているのです。

 ここまで最大化されたギャップが、これから改善することはないと思います。ましてや昭和型のマネジメントでここを埋めるのは、不可能な話です。

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ここまで最大化されたジェネレーション・ギャップが今後改善することはないだろう…
(Photo/Shutterstock.com)

なぜか“最底辺”に位置づけられている人事部門

 2つ目の原因は、日本企業における「人事」の存在感が低いことです。

 ここで、とある企業の衝撃的な人事評価を例にあげます。
「部長、この評価は本気ですか?」

 とある日本企業の評価会議の現場に臨んでいた私は、部長とのプレゼンテーション中に思わず声を上げていました。

 目の前には、彼の部下である課長の人事評価シートが置かれています。

 それは5段階評価で「A」という高評価。

 理由欄には、

1年間で部下の半数が離職する中、自身の営業活動で損失の穴を埋め、売上目標を達成した

と記されていました。

 部下の大量離職という危機的状況を、課長個人の奮闘で数字的に取り繕ったわけです。

 ですが、1年間で部下が半分辞めるなんて、課長のマネジメントに問題があったからだと断言できます。グローバルカンパニーなら、「来年、同じことが起きたら役職を外すぞ」と強く指導されます。

 しかし、この企業ではそれどころか、最高評価を与えてしまっている……。
 これこそが、日本企業における人事の力が弱いために、マネジメントの質を問うシステムが機能していない典型といえます。

 外資系企業では、部署間の力関係はすべて平等です。人事も営業もマーケティングも経理も物流も、みな等しく発言権をもって円卓を囲んでいるイメージです。

 しかしなぜか日本企業では、数字を稼ぐ営業部門、またはモノづくりを司る製造部門がいちばん力をもっていて、後の部門はその下請けだというような文化があります。人事は「利益を出せない」間接部門としてヒエラルキーの最底辺に位置づけられています。

 人事の本来の役割の1つは、個々の中間管理職のマネジメントにまで踏み込んで、あるべきマネジメントのスタイルを提示し、それができるようになるために導いていく、そしてそのクオリティを維持することです。経営と従業員の間に挟まれて小さくなっていたり、「人が好きだからやっています」なんて情緒的になったりしているのは、まったくお門違いです。さらには「従業員が悪いことをしないように」と監視・監督する部門でもありません。

 人が「この会社で明日もがんばろう」と思えるのは、会社に求めていることや、今の仕事がもっている価値、会社が目指している世界観に対して、「自分も同じだ」「私もその世界を見たい」と共感できるから。つまりエンゲージメントを高くもっているからです。

 個人の伸びしろを示し、それが成長機会であると伝えること、つまりフィードバックすることで人は成長します。

 人事部は、それを仕組み化して、会社全体をリードしていく役割をもった機能なのです。 【次ページ】「管理職は罰ゲーム」と言わせてしまう原因は…
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