• 2024/12/21 掲載

熱意だけでは動かせない…ユニクロがスタッフ数十万人を一気に変えた「仕組み」の力

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数十万人に及ぶ世界中の店舗スタッフが一斉に変革したユニクロ。数十人を変えることさえ難しいにも関わらず、ひとりひとりに経営者マインドを持たせる「究極の個店経営」は、どのようにして伝わったのか。元ファーストリテイリングの執行役員で、『ユニクロの仕組み化』を上梓した宇佐美氏が解説する。
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ユニクロはどうやって数十万人の店舗スタッフ全員を変えた?
(Photo:HJBC / Shutterstock.com)
※本記事は『ユニクロの仕組み化』を再構成したものです。

スタッフひとりひとりまで変える「究極の個店経営」

 大きな成長を遂げようと思ったら、組織のメンバー全員に変わってもらうしかありません。ひとりひとりに変革の意識を持ってもらうしかないのです。

 ただ、当然ですが、これは簡単ではありません。数十人の会社でも難しいはずです。それどころか、自分が所属している部署やチームの5人、10人を変えるのもハードルは低くありません。ですから、数千人、数万人、数十万人の組織になればなおさらです。

 人を変えるには確かに熱意は重要です。ただ、大きな規模の組織になれば、メンバーひとりひとりに訴えかけて、個別に変わってもらおうとするのは現実的ではありません。

 そもそも熱意は必要ですが、熱意だけでは人は変えられません。数十万人のメンバーを一気に変えられるのは、「仕組み」しかないのです。そして、ユニクロで世界中の店舗スタッフひとりひとりまで変える仕組みが、「究極の個店経営」です。

 近年、小売業では、消費者のニーズが非常に多様化しています。同じ性別で同じ年代のお客さまが対象でも、地域ごと、店舗ごとに全く売れ筋が違うことも珍しくありません。

 本社からの指示をただただ実行しているだけでは、ニーズを十分にとらえ切れないのです。メンバーひとりひとりが変革を意識する重要性は業態としても必要になっているわけです。

 確かに、かつては違いました。店舗スタッフはそこまで考える必要はありませんでした。チェーンストアとして目標を掲げて号令をかけ、それを各地域、店舗で実行することで変革が起き、均質なオペレーションが生み出されていました。

 このチェーンストア経営によりユニクロは順調に成長をとげていました。しかし、一方で、「これは本当にお客さまのためなのか」という議論がありました。全世界で均質のサービスは不可欠ですが、東京に限定しても、都心の店舗と郊外の店舗で同じものが求められているのかと考えると、やはり違いました。都心と地方でしたらなおさらですね。生活スタイルも違えば気候も違うわけですから、当たり前です。

 そこでつくった新しい仕組みが2014年3月に打ち出された「究極の個店経営」です。全世界共通のチェーンストアオペレーションの土台の強みを生かしつつも、各店舗が地域に根ざして地域のお客さまに愛される一番店を目指します。ほかのどこにもない「個店」をつくるのです。

 少子高齢化の成熟市場日本で店舗数を拡大するのが現実的でない中、売り上げを伸ばすには一店舗当たりの売り上げを伸ばすしかありません。そのためには、地域ごとのニーズを深掘りした店に変えていかないと、お客さまの本当の意味での支持を得られない危機感がありました。

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ユニクロもかつては「チェーンストア経営」で順調に成長していたが…
(Photo:Wongsakorn Napaeng / Shutterstock.com)

「究極の個店経営」の主役は店舗スタッフ

 柳井さんは、「究極の個店経営」の主役は店舗スタッフと位置づけています。

 地域に根ざした店舗を目指すとなると、店長のみならずスタッフひとりひとりが地域に深く入り込まなければいけません。ただ本部から言われたことをきっちり実行するだけでは実現できないからです。

 自分の頭で「より地域に合った売り場とは何か」「お客さまの期待に応える、あるいはそれを超えるためにはどんなことをするべきか」を経営者のマインドを持って考えなければいけません。

 自分の働いている地域に合わせて、考える。究極の個店経営とは単なるお店の売り場の方針転換ではなく、働いている人たちに変革を促す、マインドを変化させる仕組みなのです。

 もちろん、会社として方針を大きく転換させて、「これからは自分で究極の個店を目指してください」と言われてもそれですぐに実行に移せるわけではありません。戸惑う人も少なくないでしょう。

 そもそも「個店経営」自体は珍しい発想ではありません。

 コンビニや総合スーパー(GMS)の一部にも2010年代中ごろから「個店経営」を目指す動きがありました。本部主導で、標準化された店舗を多店舗展開し、企業として成長を図る──そうしたチェーンストアの考え方をベースにしながらも店舗の役割を重視した組織運営を目指しています。

 本部は企画立案機能を担って店舗がそれを実行する役割を担いますが、店舗は本部の指示通りにひたすら実行するのではなく、あくまでも店舗それぞれの商圏や顧客の特性、競合状況などに応じて、店舗ごとに動的に品ぞろえや売り場づくりを行う。ユニクロの「究極の個店経営」と重なります。

 ただ、私の目にはGMSが個店経営をうまく実践できているようには映りません。既存の多くの店舗を大上段の方針(仕組み)を変えただけでガラッと一変させるのは簡単ではないからです。

 ユニクロが特筆すべきは、「究極の個店経営」を実践するためにいくつかの仕組みを用意して、うまく機能させているところにあります。

 ユニクロが体制を一気に変えられた理由は、スタッフの教育の仕組みと雇用の仕組みを見直したところにあります。

 店舗スタッフの教育はそれまでは店長に一任されていました。本部はノータッチで完全に店長任せなので、当然、教育にはバラつきが生まれます。教育に熱心な店長もいれば、ほとんど関心を示さない店長もいます。熱心でも教え方や内容は千差万別です。

 そもそも、店舗スタッフは店長に言われたことを忠実にこなすことが仕事で、自分で考えることは求められていませんでした。店長が最前線である売り場に立ち、指揮官として、本部とコミュニケーションをとり、知恵を絞る。その施策を忠実に履行するのが店舗スタッフの役割でした。本部としても、スタッフ教育にそれほどコストをかける必要もなかったわけです。

 「究極の個店経営」になっても組織図は一見変わりません。本部があって、店舗があります。スーパーバイザーやブロックリーダーと呼ばれる本部社員が、各店舗を支援する体制も変わりません。

 ですが、誰が「主役」となり、どこを向いて働くのかが変わります。地域にいる店舗スタッフならではの独自の発想で、地域の顧客を呼び込み、その心をつかむことが成長のエンジンになります。

 当然、店舗スタッフにしてみればマインドも行動も180度変わることになりますが、そうしたマインドや行動を教えられる店長はあまり多くいません。これまで現場教育に会社としてそこまで力を入れてこなかったのでこれは当然です。

 そこで、現場に任せ切りにするのをやめて、本部で仕組みをつくることになったのです。 【次ページ】人は「What」だけでは動かない。重要なのは「Why」
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