- 2024/12/21 掲載
熱意だけでは動かせない…ユニクロがスタッフ数十万人を一気に変えた「仕組み」の力(2/2)
人は「What」だけでは動かない。重要なのは「Why」
まず、私たちが何をしたかというと「ユニクロの理念」を理解してもらうように努めました。「企業として何をやろうとしているか、その背景にはどうした考えがあるのか」を理解してもらえないと、スタッフの人たちの行動を変えられないからです。人は「What」だけでは動きません。重要なのは「Why」です。地域ごとに店舗スタッフを集めて、企業の方針を理解してもらうためのダイレクトミーティングを開催しました。
ユニクロが「店舗スタッフを主役にした地域に根ざした個店経営」をなぜ目指しているかや、企業としての理念を伝えました。その上でユニクロの店舗で働く意味を考えてもらい、ユニクロの理念を「自分事化」してもらうことで、ひとりひとりに経営者マインドを根づかせるように試みました。
もちろん、スタッフだけ変わっても店長が旧態依然の考え方では成果は上がりません。店長は店長だけで集めて、「究極の個店経営」の考え方、つまりスタッフが主役の店づくりの意味を理解してもらいました。
それから各店舗で具体的に店舗スタッフを主役にした店舗経営をどのようにしていくかの試行錯誤が始まりました。
大きな試みのひとつが、「部門担当制」です。地域のことを一番よく知っている店舗スタッフにある特定部門(たとえばウィメンズのアウター)を担当してもらい、商品構成、売り場づくりを含めその商品群の経営を任せることでした。店舗の特定部門とはいえ、そこに関してはスタッフがひとりの経営者として行動することを求めたのです。
本部がいろいろ言うと押しつけになってしまうので、あくまでもスタッフ本人に行動してもらいました。店長は店舗スタッフの自律性を重んじながら店舗スタッフの成功を後押しする支援をしてもらいました。
当然、スタッフはこれまでと全く違う動きになります。
ユニクロの店舗は「在庫を切らさない」が大原則としてあります。これは簡単に思われるかもしれませんがかなりハードルが高い仕事です。
「在庫を切らさない」を重視して、どのような商品でも大量に発注していたら、売れ残りの山になってしまいます。
ニーズを先読みしながら在庫の強弱をうまくつけて販売計画を考える。そこからひとりのスタッフが責任を持って判断しなければいけないのです。
もちろん過去のデータを分析するなど、これまでの延長線上で判断できる部分もありますが、それだけだと機会損失を防げません。過去のデータからAIがベースになる販売計画は出してくれますが、AIはデータにもともとない状況には対応できませんので味つけが必要になります。既存のデータだけでは「本当はお客さまが欲しているのに、商品がないから呼び込めていない」状況は防げないのです。
ひとりひとりのスタッフの役割は、自分の担当分野でそうした機会損失を最小限にしながら、売り上げや利益を最大化することになります。カバーする範囲は小さいにしても、やっている仕事はまさに経営者の仕事そのものです。
スタッフは、それまでは店長に言われるがままに機械的に仕事をこなしていただけだったので大きな変化を求められますが、ものすごく特別なことを求められるわけでもありません。
重要なのは考えられるか、想像力を発揮できるかどうかです。どんなお客さまにこの店舗に来ていただけているのか、なぜこの店に来ていただけるのか、シーズンごとにどんなニーズを持っているのかを、自分で考えてみる、想像してみるのがファーストステップになります。お客さまのニーズを自分なりに考えてみます。
たとえば、「来週はこの地域では運動会が多いから、運動会に参加する保護者用のニーズを取り込む品ぞろえにしてみよう」と仮説を立てて動いてみます。もちろん、店全体での陳列や見せ方もあるので、店長も交えてそこは調整、修正します。
社員全員が「経営者マインド」を持つ
ユニクロがすごいのは、一度仮説を立てて実行すると、ひたすらトライアンドエラーを繰り返し高度化できることです。これも仕組み化されています。ユニクロでは、毎週月曜日に全社や店舗ごとの前週の売り上げ実績が出ます。思っていたより売れなかった商品や他の店で売れている商品などが目に見える形で明らかになりますので、それらを参考に自分の売り場づくりにフィードバックして修正します。
仮説、実行、改善を繰り返すことで、知見がたまって、好循環のサイクルを自分で回せる店舗スタッフが明らかに増えます。自ずとスタッフひとりひとりの経営者マインドも育ちます。スタッフが次の課題を自分で見つけ、それをどんどん解決して、より大きな成果が出るようになります。成果が出ればそれはスタッフの大きな自信となり、モチベーションも上がります。ひとりひとりが育てば、店舗全体も成長するのです。
その結果、地域のイベントと連動しながら、 欲しいときに欲しいものがあり、買い物がしやすい売り場を生み出せるようになりました。お客さま満足の向上とともに、店舗スタッフも変わったのです。
言われたことを受け身でやるのではなく、自律的に考え行動するようになり、モチベーションが上がったり、やりがいを感じたりする人も増えました。うまくいっている店舗の事例は全社で共有され、学び合うことでさらなる質の向上にもつながりました。
おそらく、みなさんの中には「店長ならばともかく、店舗スタッフにしてみれば、『経営者マインドを持て』と言われるのは重荷では」と感じた人もいるかもしれません。
確かに、「究極の個店経営」は店舗スタッフが主役です。スタッフが主役といっても、スタッフにやる気がなければ実現しません。これまでお伝えしましたように、教育の仕組みなどで、モチベーションが高まり自律的に取り組んでいる人もいますが、一方で腰掛け的に働いている人がいないともいえません。「社員でない人にそこまで求めるのか」という声もあるでしょう。
社員ですら働くモチベーションはさまざまです。お金のための人もいれば、自分の夢のための人、スキルアップのための人もいるでしょう。非正規の方ならばさらに多様かもしれません。
もちろん、働くことを通じて自分の夢や理想を実現することが最も大切ですが、同時にユニクロの理念を「自分事化」してくれることが個人と組織が結びつきながら両輪で成長するには不可欠です。そのためにも「仕組み」が重要になります。
そのわかりやすい仕組みが教育であり、雇用体系です。店舗スタッフの正社員化を進めたのです。
これまで非正規雇用が大半だった店舗スタッフを、「地域(リージョナル)社員」として正社員化する試みです。
具体的には2014年に日本のユニクロの店舗スタッフ1万6000人を地域社員に2~3年で転換し、正社員を当時の3400人から約6倍の2万人に増やすという構想です。
地域に根ざした経営をするには、本当にお客さまと向き合う人でないとできない、正社員化によってコミットを高めたいと判断したわけです。
そのためには、待遇を高めて、人材の流出を防がなければいけません。すでにその時点で、少子高齢化で将来的に人材確保が難しくなるのは自明でした。当然、短期的には企業としてのコストは大きく増えますが、長期で考えれば、人材確保、採用・教育コストの抑制になり、メリットが上回ります。
この正社員の登用拡大によって、店舗のチームとしての一体感は非常に強まりました。
やる気のあるスタッフにしてみれば自分の担当する部門で「経営者」として、大きなやりがいを持ちながら、自らのキャリアの未来も開けます。
店長の「自分はこんな店にしたいんです!」という志と、店舗スタッフの「自分は(担当部門を)こんな売り場にしたいんです!」という志が、共鳴し合いながら、究極の個店経営実現のための「最強のチーム」がつくられる土壌が整ったのです。
「スタッフのモチベーション向上」というとどうしても精神論になりがちです。個別に相談に乗ったり、対応したりして解決する空気がまだありますが、一気に変えられるのは「仕組み」です。
そして、チームや組織の規模が大きくなればなるほど、「仕組み化」の効果もまた大きくなります。
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