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米GE社が「インダストリアル・インターネット」のコンセプトを打ち出し、経営戦略の中核に据えたのは2012年11月のことだ。ドイツが国家を挙げて推進する「インダストリアル4.0」と共に、この動きはデジタル・トランスフォーメーションによる“第4次産業革命”を呼び起こすと、製造業をはじめとする産業界に大きなインパクトを与えた。そして現在、インダストリアル・インターネットはどのような進捗の過程にあるのだろうか。GEデジタル社のCEOに就任したビル・ルー氏が「今」と「将来」を語った。
アップルもUberもAirbnbも「アセットの生産性」を重視する
米GE社は2015年10月、それまで全社横断的に点在していたデジタル関連機能を1つに集約し、プレミア・デジタル・インダストリー・カンパニーへの変革を推進するためにGEデジタル社を発足させた。
同社のCEOに就任したビル・ルー氏は、まず現在の産業界が学ぶべきコンシューマー・インターネットの動向として、自社で自動車を1台も保有することなく世界最大のタクシー会社となったUber、自社で不動産を持つことなく世界最大のホテル業となったAirbnb、自社ではほとんどアプリ開発を行わないにもかかわらず膨大なソフトウェア販売で稼ぐアップルなどの例を挙げる。
まったく資産を持たないベンチャー企業が、大規模な資産を持つ伝統的な企業を追い落とし、株式の時価総額でも上回るという“下剋上”が頻繁に起こっているのが、近年のコンシューマー・インターネットの世界なのだ。
こうした変革の延長線上に、インダストリアル・インターネットも成り立っていくことになる。もちろん、企業が資産を持つこと自体が時代遅れになると言いたいわけではない。「デジタル産業のリーダーは、『アセットの生産性』を重視している。所有する資産の効率性を究極的に高めることでこそ、企業は市場で最も価値の高いプレイヤーになることができる」とルー氏は示唆する。
そして、「優れたユーザー・エクスペリエンスの提供」と「強固なエコシステムの開発」という2つの成功要因を挙げると共に、「ソフトウェアは価値を創造するためのビークルになる」と語る。
IoTがインダストリーの世界を変えた
しかしながら、コンシューマー・インターネットの世界に起こった変革が、なぜこれまで産業界に起こらなかったのか。なぜ10年前にインダストリアル・インターネットが出現しなかったのだろうか。
答えは単純だ。PCやスマートフォンの普及により、世界中のコンシューマーが一気にインターネットに接続された。これに対して製造業を中心とする産業界のほとんどの装置や機器はスタンドアロンもしくは閉鎖的なネットワークで運用されており、外界との“つながり”を持たなかった。
この状況を大きく変えたのが言うまでもないIoTで、「2020年までに約500億台のデバイスがインターネットにつながる」という予測が示されている。「GEにおいても、すでに1日あたり1TB級のデータを工場の各設備から集めている」とルー氏は語る。
IoTをベースとしたインダストリアル・インターネットは、実際に産業界にどんな効果をもたらすのか。たとえば、世界中のジェット機のエンジンの効率性を仮に1%高めることができれば、それだけでも300億ドル相当のコスト削減効果を航空産業にもたらすことができるという。「こうした可能性を持ったインダストリーの市場が、世界には数えきれないほどある。これこそが私たちの勝機なのだ」とルー氏は強調する。
裏を返せば、現在の産業界には“停滞感”が漂っているということだ。米国を中心とした世界の製造業は1991年から2010年にかけて4%の生産性向上を続けてきたが、2011年以降の生産性の向上率は1%にまで下がっている。先進諸国の市場の成熟化はもとより、右肩上がりの2桁成長を続けてきた新興国の市場にも陰りが見え始めた。
いずれにしても大量にモノを作って売るだけのビジネスモデルは成り立たなくなりつつあり、従来とはまったく異なる価値を打ち出した“起死回生”の策が求められているのだ。
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