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- 2016/08/04 掲載
IoTの「4つの産業別ユースケース」と「5段階の活用レベル」をIDC鳥巣 悠太氏が解説
革新技術としてIoTを活用するファナック、クボタ、セコム
従来における企業ITの役割は、例えば基幹系のシステムなどをIT部門が導入、運用し、フロントエンドの事業部門のビジネスを間接的に支えるというものでした。そうした中、クラウド、あるいはアナリティクスといった「第3のプラットフォーム」が登場し、ITというものをこれまで以上に簡単且つ柔軟に低コストで使えるようになりました。これによりITは、もはや企業のIT部門だけのものではなく、事業部門を含め企業全体としてビジネスを革新するためのツールへと変化してきています。
この第3のプラットフォームは、一言でいうと、競合と戦うために最低限必要なツール、いわば「基盤技術」であるともいえます。ただこの基盤技術は今後コモディティ化し、誰でも簡単に利用できるようになっていきます。ですからそうした基盤技術に対し、IoTをはじめとする「革新技術」をいかにうまく組み合わせるかというビジネス戦略の優劣がこれから企業の勝敗を分けると考えられます。
こうした基盤技術としての第3のプラットフォームと、革新技術としてのIoTを有効に組み合わせて活用しているのが、ファナック、クボタ、セコムといった企業です。これらは、IoTを社内業務の効率化のような単純な用途で使うのではなく、IoTを使って競合他社とのビジネスの差別化を実現している企業です。
こういった企業が増えることで、色々な産業分野にIoTの支出が急速に伸びていきます。もともと農業機械の製造・販売をビジネスの主軸としていたクボタは、最近では農業機械にIoTを組み合わせることでエンドユーザーである農協や農家向けにIoTソリューションを提供しはじめています。また、竹中工務店のようなゼネコンが建設したビルにIoTを組み合わせることで、エンドユーザーであるさまざまな産業分野のビルオーナーのIoT支出が増えていくでしょう。
IoTに積極的に投資する4つの産業分野
こうした中、IDCでは、IoTのユーザー支出額は現在の約6.2兆円から2020年までに約13.8兆円へと成長すると予測しています。今回は、IoTに積極的に投資をしていくと考えられる以下の4つの産業セクター別に、その支出額や詳細について見ていきたいと思います。(2)流通・サービスセクター
(3)公共・インフラ・金融セクター
(4)個人消費者・クロスインダストリーセクター
まず1つ目が、製造・資源セクターと呼ばれる製造業や土木建設業、農林水産業によるIoTの支出です。
この製造・資源セクターにおいては、製造機械の予知保全といった「製造アセット管理」、製品の品質・在庫管理といった「製造オペレーション」への支出が多くを占めています。
中小の製造業の経営者の多くは、IoTを使って経営を最適化したい、という意向はもちろん強く持っていますが、資本力の観点からIoTのような新しい技術には費用対効果に対して必要以上に慎重になるケースが多く見られます。ただこれからは中小製造業向けにIoT導入に関する補助金が拡大するなどといった、追い風要素があることも確かです。したがってITベンダーとしては、初期コストが殆どかけずにスモールスタートで始められるクラウドIoTソリューションなどを中心に中小の製造業に徐々にアプローチしていくことが重要になります。
一方、IDCでは相対的にIoTで先行する大手の製造業のIoT利用企業のみを対象としたアンケートを実施しています。ここではIoTのクラウドプラットフォームの活用度合い、IoTを利用したデータアナリティクスといった、第3のプラットフォームのIT技術を、IoTに対してどの程度活用していますかという質問をしています。
それによると、例えばIoTのクラウドプラットフォームの利用率について、本番運用で本格的に使い始めているのはまだ30%程度。同様にデータアナリティクスについても、有効に活用できているのは4分の1程度であるという結果になっています。
ということで、大手製造業のIoTの活用について、利用率という面では、中小の製造業よりも先行していますが、その中身をみてみると、実際の用途というのは、製造機械の稼動状態の見える化のような、単純な用途がまだまだ多いということが明らかになっています。
ただこれはクラウドベンダー、ソフトウェアベンダーにとっては、非常に大きなチャンスと捉えることもできます。つまり、IoTをこれから本格的に使っていこうという大手製造業のデータ基盤や製造管理システムなどの更改時期に合わせ、クラウドベースの分析ソリューションなどを提案していくことで、こうした製造業企業のワレットシェア、つまり企業のIoT支出の中の、自社製品の割合をITベンダーは伸ばしていくことが可能といえます。
2つ目の流通サービスセクターは、貨物輸送とか旅客輸送、または小売業、こういった企業におけるIoT支出が該当します。このセクターの企業は、流通量自体の減少に加えて労働人口減によるドライバー不足、ECの浸透による物流構造の複雑化やコンプライアンス厳格化といったさまざまな課題を抱えています。そうした課題を解決する上で、輸送貨物管理、フリート管理、オムニチャネルオペレーションといった用途でのIoTへの支出額が今後も継続的に拡大すると考えられます。
一方、この流通・サービスセクターにおいて今後高い成長性が期待できる新たな事例として、エンドユーザーとしての航空会社がIoTに支出するユースケースがあります(下図の「その他のユースケース」に分類)。
具体的には、GEやロールスロイスといった航空エンジンのメーカーが、左側のITベンダーとのパートナーリングにより、エンドユーザーである航空会社に対して航空エンジンを単純に販売するのではなく、月額課金ベースで航空機サービスの運航最適化を実現するソリューションを提供するというものです。具体的には例えば、エンジンが収集したデータを分析して航空機の異常の予兆を検知し故障する前にメンテナンスを行ったり、あるいは航空機の離発着の時間を正確にしたりにするといったソリューションです。
これにより、たとえばLCCのような資本力がそれほど大きくない航空会社では、高額な航空エンジンをわざわざ購入せずとも月額課金ベースで航空機エンジンを利用できるようになり、結果としてオペレーションの品質を維持しつつ、大幅なコスト削減を実現できます。これから先はLCCと大手航空会社の競争構造なども、こういったソリューションによって大きく変わっていくと予測されます。
ここでの重要なポイントは、従来はITベンダーにとって「顧客」であった航空エンジンメーカーが、エンドユーザーにB2B2Bの形態でIoTソリューションを提供する上でITベンダーの「パートナー」に変化したということです。 IoTのソリューションの実現に向けては、ITベンダー単体では各産業分野のビジネスオペレーションを深くカバーすることは難しいため、こうしたパートナリングは今後あらゆる産業分野に拡大すると考えられます。
3つ目の公共インフラ金融セクターは、政府・自治体、電力会社、病院・保険などが該当します。
多くの割合を占めているのが公共インフラ管理、公共安全システム、公共交通/情報システムといった用途における官公庁のIoT支出額です。そして、今後成長性が高い分野はスマートグリッドで、電力会社のITベンダーに対する支出(スマートメーターの設置や電力利用情報を管理するインフラ構築に伴う支出など)です。
しかしこの分野には、実はもう特定の大手のITベンダーが入ってしまっており、他のITベンダーがこれから参入することはなかなか難しい状況です。
ではその他多くのITベンダーにとって、スマートグリッドのビジネスチャンスはどこにあるのでしょうか。電力小売自由化によって、電力会社以外の企業も個人の電力利用状況を把握することができるようになります。このデータを活用することで、例えば運輸サービス業の企業は個人が在宅している時間帯にピンポイントで荷物を配達し、荷物の再配達のコストを減らすといったことも可能になります。
また病院の医師が在宅の高齢者の見守りを目的としてスマートメーターのデータを利用するようなケースも考えられます。ITベンダーの立場としてはこうした運輸サービスや医療に関わる企業とのパートナリングを通じ、新しいIoTビジネスを見出すことが可能といえます。
4つ目は、個人消費者、クロスインダストリーという産業セクターです。クロスインダストリーについて、カーナビのシステムを例に挙げて説明します。カーナビというのは、個人所有者にもバスやタクシーのような商用車にも使われます。さまざまな産業分野にまたがって使われるIoTのユースケースを、IDCではクロスインダストリーという産業分野に含めています。
個人消費者とクロスインダストリーのIoT支出額として多くを占めているのが、ビルの空調管理、照明の管理、またはエレベーター、エスカレーターの遠隔監視といったコネクテッドビルディングです。
一方で、個人消費者のIoT支出は2015年時点で約1,000億円とそれほど大きい金額にはなっておりません。この理由として、スマート家電などの分野における技術の標準化や法整備が遅れており、多くのメーカーがまだ様子見の段階であることが挙げられます。
ただここまで述べてきたとおり、IoTソリューションの実現に向けて、ITベンダーと各産業分野の企業がパートナリングが加速することで、B2B2BだけでなくB2B2CのIoTビジネスも今後加速すると見込まれます。具体的にはホームオートメーション、ホームセキュリティ、スマートアプライアンス(スマート家電)といった用途における個人消費者の支出額が急速に成長すると見込まれます。
【次ページ】企業のIoT活用レベルを5つに分類
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