- 2025/04/24 掲載
アングル:揺らぐFRBの世界経済安定化機能、トランプ氏の「口撃」も一因
[ワシントン 23日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)こそが世界経済安定の源泉だと考えてきた世界の中央銀行当局者は今、予測不能な局面を迎えようとしている。FRBはインフレと景気悪化という、相反する2つのリスクが綱引きする中で金融政策を決めなければならない上に、FRBの独立性が危険にさらされているからだ。
今後FRBがどんな政策を選択するかは、幾つかの問題を生み出す。例えば他の中銀が景気減速に対応して利下げする一方、米国は関税に起因するインフレを抑えるため利上げを迫られ、そうした金融政策の方向性の乖離は、ドルの資金調達市場を圧迫し、特に途上国の借り入れコストが割高になる可能性がある。
もう1つはより根本的な問題で、トランプ米大統領がパウエルFRB議長とFRBの政策運営に不満を募らせ、批判を繰り返す事態にあって、FRBが政治的影響から超越した地位を保ち続けられるのかどうかだ。
FRBの独立性が失われれば、1980年代以降の緩やかな物価上昇と適度な金利水準の環境に貢献し、2007─09年の金融危機や新型コロナウイルスのパンデミックなどの危機において世界経済にお金が出回り続ける状態を確保してきたFRBの機能が低下してしまうだろう。
国際通貨基金(IMF)チーフエコノミスト、ピエール・オリビエ・グランシャ氏は「中銀が予想物価を安定させるために必要な措置を実施し、人々からの信頼に応える態勢を確保することが重要になる。中銀の信頼性は絶対的に必要で、その重要な要素の1つが中銀の独立性だ」と訴えた。
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁も先週、FRBの独立性がなくなる可能性について聞かれると、FRBとECBの協力関係が適切に稼働することが強固な金融システムの確立に決定的な意味を持つと説明。「これまでわれわれは協議と金融リスクへの理解に基づいて政策運営が可能になると証明してきた。これからもきっと何の妨げもなく、従来と同じようにそれを続けていく」と語った。
<パウエル氏後継者巡る不安>
トランプ氏が、利下げをしないとの理由でパウエル氏解任を試みても実際にできるかどうかは分からない。さらに22日にトランプ氏は、パウエル氏を解任するつもりはないとトーンダウンしている。
ただ解任の可能性が言及されただけでも、既にトランプ氏の関税政策によって引き起こされていた市場の動揺はより激しさを増した。
またパウエル氏が2026年5月までの任期を全うしたとしても、トランプ氏が次のFRB議長に誰を起用するかという問題は残る。
コロンビア・スレッドニードルのシニア金利アナリスト、エド・アルフセイニ氏は「歴代のFRB議長はその職責にふさわしい人物が続いてきた。最善の見方では次期議長人事も同じコースをたどることだが、実際の結果はより極端な形になりかねないのは間違いない」と述べた。
TSロンバードのグローバル・マクロ・アナリストのダリオ・パーキンス氏も、26年に誰が任命されても不信感を持たずにはいられないと語り、「トランプ氏は自らの『代理人』に金融政策を運営させたがっているのは明らかだ。歴史は、政治圧力に屈するのではなく、抵抗する中銀当局者を祝福している」と強調した。
パウエル氏自身は、FRBの独立性は法律で保障されており、議会で超党派の支持を得ている点こそが重要だと話している。大統領が指名したFRB議長の人事は上院の承認を得る必要がある。
金融政策の決定に関してFRBの政策担当者は、国内経済状況に基づいて判断すると説明している。ただそうした判断には、米国の金融政策が国際金融資本市場に及ぼす影響が、国内の成長や雇用、物価に跳ね返ってくることも考慮される。
しかしトランプ氏は、米国と他の世界の経済に格差を設けたいようで、この姿勢がパウエル氏の後任人事に影を落とす恐れがあり、既に世界の金融市場ではそうした展開を織り込みつつあるのかもしれない。
実体経済との関係で見ると、米経済の勢いが鈍っている中でもFRBはインフレによって身動きできなくなることも考えられる。物価上昇圧力が自律的に解消されるかどうかの難しい判断を求められるだろう。
IMFのゲオルギエワ専務理事は先週、パンデミックやインフレ抑制で足並みをそろえてきた世界の金融政策が岐路を迎える可能性に言及。「誰にとっても同じ環境にならない地点にわれわれは入ってきた。ある国は成長鈍化に覆われ、別の国はモノの価格が上がったり供給が減ったりして、インフレが高進するのではないか」と語った。
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