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2013年5月にガートナーが実施したユーザー調査によれば、現状では多くの企業がまだオンプレミス型のERPを使っているものの、約4割の企業がクラウドERPに高い関心を示しているという結果が得られたという。今やSAPやオラクルはもとより、富士通のGLOVIA、NECのEXPLANNERもクラウド対応する一方で、WorkdayやNetSuiteといったクラウドERP専業事業者も存在感を示してきている。そもそもクラウドERPとは何なのか、どんなタイプのものがあるのか、また実際の選定/導入をどのように進めていけばいいのか。ガートナー リサーチ部門 リサーチディレクターの本好宏次氏が解説した。
現在の日本企業で主流となっているクラウドERPの2つのタイプ
ガートナー エンタプライズ・アプリケーション&アーキテクチャ サミット 2014に登壇した本好氏は冒頭、プライベート・クラウド上のERPには39%、パブリック・クラウド上のERPには36%が関心を持っているという調査結果を発表した。同調査によれば、プライベート・クラウドを利用中・利用予定はそれぞれ13%と2%、パブリック・クラウドを利用中・利用予定はそれぞれ3%と1%で、利用率は低いものの高い関心があることが伺えたという。
この点について本好氏は「ユーザー企業には、従来のオンプレミス型のERPに対する課題認識あるいは不満があるのではないか」との見解を示した。オンプレミスERPに対しては、コスト削減や現場の生産性向上、あるいは全体最適への移行やデータの標準化といった期待がある一方、必ずしもそれらの期待に応えることができていない現状があるという。
「実際には初期費用がかかるし、10年といった長期の利用ではアップグレードや保守サポート料も非常にかさむ。またユーザーインタフェースが現場には使いにくいとか、インスタンスが乱立してしまっているなどの問題もある。そうした課題を解決するものとして、クラウドERPに対する関心が高まっていると考えられる」
クラウドサービスも長く使えば必ずしも使用料は安くないが、初期費用は大きく抑えることができる。サーバやデータセンターの運用要員も必要無く、洗練された使い勝手を実現しているベンダーもある。インスタンスの乱立に対しても、標準機能による“縛り”がかかることで、ガバナンスを効かせることが可能だ。
それでは具体的に、クラウドERPとはどのようなものなのか。
「ガートナーでは、“オフプレミス(構外)で稼働し、サービスとして提供されるもの”を、クラウドERPと定義している。ここでいうサービスとは、月額課金で一人当たりいくらというサブスクプリプションや、従量制課金で利用する形態を指す」
そして今の日本ではクラウドERPとして、大きく2つのタイプが主流になってきているという。1つめがプライベートクラウド上のERPで、ITベンダーのデータセンターでプライベートクラウド的に使うものも含む。そしてもう1つが、パブリッククラウドERPで、いわゆるSaaS型で提供されるものだ。
「前者では、たとえばベンダーのデータセンターの中でインフラ部分は仮想化するなどして共有化を図り、アプリケーションとミドルウェアについてはユーザー企業専用のものを使う。一方、後者は複数のユーザー企業で完全に共有化されるもので、いわゆるマルチテナント型が一般的になりつつある。ソフトウェアのアップグレードや変更管理についても、ベンダーが完全にコントロールする」
クラウドERPの特性を判断するための11の項目
大きく2つのタイプに分類されるクラウドERPだが、実際に世の中で提供されているサービスには、それぞれに異なった特徴がある。
「それを判断するために、ガートナーでは11個の切り口を設けた。はじめの5つが、ERPに限らないクラウドそのものの特徴を判断する要素、残りの6つがクラウドERPで重要だと考えられる要素だ」
まずクラウドそのものの特徴を判断する要素としては、インターネットベースであること、拡張性と弾力性が高いこと、従量制であること、テクノロジを共有すること、サービスベースであること、の5つが挙げられる。
次にクラウドERPで重要な要素としては、ライセンスタイプであること、管理サービスが提供されていること、データロケーションが固定されていないこと、切り替えやすいこと、アップグレードを意識しなくていいこと、ソフトウェアの修正などを意識しなくていいこと、の6つが挙げられる。この11個の切り口の各々で、クラウド的か、オンプレミス的かを5段階に分けたのが次の図だ。
たとえば“拡張性と弾力性”は、非常にクラウド的な項目だと本好氏はいう。サービスの利用停止や利用範囲の拡大を1か月前に申告しなければならないとか、1年単位の契約でなければならないなどの制約はなく、使いたい時に、使いたい分だけ、利用することができる。
これに対してオンプレミスでは指名ユーザー制で、このユーザーはこの機能が使えるという権利を永久ライセンスとして購入して、場合によってはユーザーを変更したり、解約したりできないものもある。
また“拡張性と弾力性”に非常に密接に関係するのが“ライセンスタイプ”で、一般的にオンプレミスERPでは永久ライセンスを購入して利用するが、クラウドERPではサブスクリプションというモデルで利用し、即時解約できるものもある。
「この表はベンダーのソリューションを評価する時、あるいはベンダーにヒアリングをして重要な項目を聞く時の参考にしていただければと思う。ただしその際には、自社はどの軸で、どのレベルを求めるのかを、あらかじめ意識しておく必要がある」
クラウドERPの選定と導入の3つのステップ
次に本好氏は、クラウドERPの選定と導入に当たって、具体的に抑えておくべき3つのステップについて言及した。
ステップ1が、ERPをモジュール単位や製品単位ではなく、機能単位で「仕分け」すること、ステップ2が、その上で先の11の判断項目に基づき、自社に最適なクラウドERPを選定すること、そしてステップ3が、きちんとした導入計画を立てることだ。
まずステップ1の機能単位の仕分けについてだが、ガートナーでは、アプリケーションを使用目的と変更の頻度で分類し、その分類ごとに異なる管理とガバナンスのプロセスを定義するというペース・レイヤ戦略を提唱しており、企業内のアプリケーションを、トランザクションの処理やマスタデータの管理を支援する“記録システム”、企業特有のプロセスや機能を支援する“差別化システム”、企業がイノベーションを起こすために必要となる“革新システム”という3つのレイヤに分類している。
「ERPの機能を、この3つのレイヤのうちの適切な層に配置していく」
たとえば、ERPでクラウド化が一番進んでいる人的資本管理の領域のアプリケーションを、まずモジュールに近いレベルで分解してみると、記録システムとしては、人事管理や給与計算などが相当する。次に差別化システムとしては、社内外の能力のある人材を確保し、後継者を育てていくという一連の人材育成ライフサイクルを管理するためタレントマネジメントツールなどが挙げられる。
「ここは新しく注目されてきている業務領域で、日々ベストプラクティスが変わっていく世界。クラウドを使って最新の機能をタイムリーに活用するという形態が受け入れられやすい」
そして革新システムとしては、ソーシャルソフトウェアを使って人材を採用するリクルーティングツールなどが挙げられる。
「この領域は使い方自体が非常に革新的で、まだ答えがない世界。アプリケーションも成熟していない。現段階では、使えそうなツールがあれば数か月単位で試験的に使ってみて、うまくいけば横展開し、ダメならまた別のツールを試してみるというのが一般的」
この3つのレイヤでの分類は、さらに細かく分けることができるが、本好氏は「ここでのポイントは、ERPの中にクラウドが前提になりつつある業務領域があることだ」と指摘し、「差別化システムや革新システムのレイヤにはクラウドが適しているものが多い。この分類はその際の判断の拠り所にしていただきたい」と強調した。
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