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- 2013/01/15 掲載
三菱重工業 元副社長 青木素直氏が語る、低収益性から脱するモノづくりイノベーション
低収益という“悪魔のサイクル”からの脱却
「いまやグローバル競争は避けて通れない課題の1つだが、その対応が遅れてしまったことが低収益になった理由の1つだ。」(青木氏)
円高による利益減、価格の下落、競争力の低下、製品寿命の短命化、新興国の追い上げなど、日本の製造業を取り巻く環境の厳しさが収益を圧迫している。グローバル市場はニーズも多様化し、利益を出しずらく、その変化も速い。対応の遅れは企業にとって大きな打撃になる。
もう1つの理由として、青木氏はこれまで日本の製造業が性能・機能至上主義だった点を挙げる。顧客や利益に焦点を置かなかったため、成熟市場では低利益となり、新興市場ではオーバースペックで競争力のない製品を産んだ。
「良い製品とは何かという点について見直し、真の顧客思考へのパラダイムチェンジが必要だ。」(青木氏)
技術者・作業者の「暗黙知」を重視してきたことも問題だ。知識が言語化されないために共有化しずらく、標準化やIT化に遅れをとった。それが技術・製品開発や製造作業の低生産性につながった。さらに全体最適化の不足も大きな問題だという。これは外部サプライチェーンやサービスの軽視をもたらした。結果としてリードタイムが長くなり、低利益で高価格な製品になった。
「低収益という“悪魔のサイクル”から脱却が求められている。そのためには売上至上主義から、顧客志向の収益優先への転換を図らなければならない。」(青木氏)
具体的には、不採算製品・事業から撤退し、競争に勝てる領域のみを残して、シェアの大きな高収益事業を目指すことだ。より大きな新しい価値を創出する“ものづくりのイノベーション”によって低収益の原因を克服する。
また青木氏は「日本の製造業は、慢性的な低利益のため一部の非製造業と比べ、年収が低くなる傾向にある。これは新卒者の理工系離れを加速し、優秀な人材が離れてしまうことを意味する。そうなると人材不足で製造業の崩壊が始まる。低収益からの脱却は、この点からも喫緊の課題だ」と警鐘を鳴らす。
では、どうやって新しいイノベーションを生み出せばよいのだろうか?
イノベーションというと、どうしても革新的な技術を生み出す開発に視点が向きがちだが、実はそれだけではないと青木氏は指摘する。
「たとえばグローバル市場のニーズを正確に把握し、生産性や収益率を高めることもイノベーションだ。より大きな価値と新しい価値を産むバリューチェーンを設計することもイノベーションの1つだろう。」(青木氏)
いま日本の製造業にとって必要なことは、革新的な技術というよりも、まさに生産性や収益率を高める現実的なイノベーションのほうだ。
【次ページ】日本企業がグローバル競争で勝ち抜くための条件
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