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「スタイル」に依拠しないライフスタイル・マガジン
──3号まで出してみて、読者からの反響はいかがですか?
辻本氏■おかげさまでご好評いただいているようで、ありがたいことです。最新号(Vol.03)を少し前に刊行したのですが、前号から実に1年半のブランクがありまして、正直「もう忘れられているかも……」と不安に思っていたのですが、ブログに告知を出したら「待ってました!」というメッセージを多数頂戴し、たいへん嬉しかったです。
──読者は『生活考察』のどの辺に面白さを感じていると思いますか?
辻本氏■うーん、いわゆる「ライフスタイル・マガジン」ってたくさん出ているわけですけど、意外とこれまでになかった視点を提供できていて、そこを面白がっていただいているのかもしれないですね。雑誌をあげて、独自の、理想とする「生活スタイル」を提案するのではなく、むしろ積極的にそれを「しない」。代わりに「いろいろな生活がありますよ」ということをシンプルに見せる、それだけなのに、なぜか面白い。これは私にとって、ささやかですが、すごく重要な発見でした。
結果として、対象読者を明確にした雑誌とはまた違った面白さが出せたんじゃないかなと。たぶん、明確なスタイルや対象を設けることでこぼれ落ちてしまうものもあると思うんです、良い悪いは別にして。そうしたものを拾い上げるような、そういう存在になれたら嬉しいですね。
──連載陣が非常に強力ですよね。
辻本氏■『WALK』時代からのお付き合いの方、初めて依頼した方、どちらもいらっしゃいます。あ、あと、お酒の席でお願いして本当に実現してしまった、なんてことも少なくなかったり(笑)。こんなすごいメンツに書いていただけていることが、時々自分でも信じられなくなります、本当にありがたいことで。海猫沢めろんさん、円城塔さん、福永信さんら小説家による書きもの暮らしエッセイ、栗原裕一郎さん、佐々木敦さんら評論家の日常や生活感が綴られたエッセイをはじめ、速水健朗さんの音楽と都市生活をテーマにしたものや、内海慶一さんによる考現学的なアプローチのものなど、たいへんバラエティ豊かな内容になっています。
連載以外にも、最新号では、その暮らしぶりが大きな波紋を呼んだ豊崎由美さんの衝撃エッセイ第2弾や、朝倉かすみさんがお母さまと東京で過ごした数日間を綴ったエッセイなどもご好評いただいています。また、円堂都司昭さんらによる、家事(皿洗い)とBGMの関係をテーマにした鼎談や、岸本佐知子さんに日々メモをつけていただく企画など、ちょっと他にない、愉快な企画が盛りだくさんです。
「考えようによっては得るところがある」かもしれない<何か>のために
──インディペンデントということで、何もかも1人でやらねばいけませんよね。その面白さや醍醐味、あるいは困難や大変さをお聞かせください。
辻本氏■大変さ、面白さ、共にありますね。今のところ、書店さんとは直取引のみでやらせていただいております。完成のメドがついた段階で、1軒1軒書店に連絡し、取り扱いのお願いをします。話がまとまれば、遠方のお店には郵送し、東京都内であればキャリアーにのせて直接納品に行きます。
──キャリアーを引いて!
辻本氏■行商人状態ですね(笑)。
──あと、通信販売もされていますよね。
辻本氏■はい。メールで注文いただいたら封入しラベルを貼って、1日1回まとめてコンビニに持っていくのです。必然的に最寄りにある同じ店舗を使うことになるんですが、3日目にもなると、店員に「また来たよ」的な目で見られるのが……(苦笑)。数がそこそこありますし、私もコンビニでバイトしたことありますから、郵便関係の処理が面倒なのはわかりますけども、「ごめんなさい。でも、そんな目で見ないでね」という気持ちになります。
──(笑)。
辻本氏■ま、それはともかく、実際に雑誌を売ってくれる書店員の方と直接お話ができるのはよいですね。お店の人に「売れていますよ」と言ってもらえたらやはり嬉しいですし、より面白く、かつきちんと売れるものを作らねばと気も引き締まりますし。反面、売れないとお店側の冷たい反応をダイレクトに受けねばならないので、しょぼんとすることもありますけども(苦笑)。なんでしょう、営業、編集という、会社であれば分業するところをどっちもできるのが、インディペンデント・マガジンの大変なところであり、面白いところかもしれませんね。でも、以前に比べて、こういう印刷物に対して、お店側が優しくなったなーというのは実感としてあります。良質なインディペンデント・マガジンが増えていることの顕れかもしれませんね。
──ちなみに最近の雑誌はどうご覧になっていますか? これは面白いな、というものなどございますか。
辻本氏■近年、雑誌って、「出たら必ず買う」ものから「特集によって買う」「(その号の)内容によって買う」になっているなぁと。あくまで傾向としての話ですが。そんな状況の中で、継続的に読んでもらえる雑誌を作るのは非常に大変なことだなと感じています。その打開策として、季刊雑誌、食などをテーマにしたワンテーマの大型ムック本などが増えているのかもしれませんね。後者では、エイ出版社の一連の食のムックは、内容の充実度とそのペースにいつも驚かされます。
また、最近増殖している「男の料理」雑誌も気になる存在ですね。自分が料理するから、というのもありますが。『男子食堂』(ベストセラーズ)とかは、料理をするモチベーションの1つである「モテ」や、「イベントとしての料理」的なところに寄り過ぎず、なんというか、生活者目線のようなものが感じられて好きです。あと、『Meets Regional 』(京阪神エルマガジン社)は月刊誌の方にも勢いがありますが、関東在住者としては、関東エリアをカバーした別冊のムック本に思わず買ってしまう訴求力を感じます。お店の紹介の仕方や見せ方がすごく魅力的なんですよね。お店紹介って「○○が載っているのに●●が載っていない」という「不足」にどうしても目が行きがちですが、それを感じさせないのは本当に見事だと思います。
他に最近だと、リニューアルした『POPEYE』(マガジンハウス)が、よりライフスタイル関連とコラムなどの読み物に力を入れていたのが興味深かったです。もともと『POPEYE』って、エッセイやコラムが充実していましたし、ファッションのみならずライフスタイル全般をカバーしている雑誌でしたけど、今その辺をより強化する方向で来たことに「おお!」となって。というのも、機会があれば「ライフスタイルと雑誌」「雑誌とエッセイ」みたいなテーマでお話を聞いてみたいなーとちょうど思っていたところだったので、個人的にすごくタイムリーで。リニューアルに伴い終わってしまったのが残念な連載もありますけども。……と、こうして考えると、なんのかんのけっこう面白いものがたくさん出てますね。
──今後やっていきたい企画などはございますか?
辻本氏■最近、「生活系編集者」などと名乗っていることもあり(笑)、生活まわりの物事を、ちょっと変わった視点から捉え直すような企画をどんどんやっていけたらと考えています。自分の雑誌においても、他の媒体においても。あとは自分の興味対象の大きな部分を占めているのが食にまつわるあれやこれやなので、もっとその辺にもアプローチしていけたらなぁと。
また、今はムック本と共に実用書のジャンルに非常に興味がありまして、ちゃんと実用的でありながらも実用一点張りでなく、即役立たないようなものであっても、後々「ある種の豊かさ」みたいなものに繋がっていくような、そんな「考えようによっては得るところがある」かもしれない“何か”まで視野に入れた実用書、そんなものが作れたらステキだなぁと思っています。
●辻本力(つじもと・ちから)
フリー編集者。『生活考察』編集発行人。共編著に『〈建築〉としてのブックガイド』(明月堂書店)がある。
ブログ:
「生活考察」編集日記
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