ゲーム『ヱヴァンゲリヲン新劇場版-サウンドインパクト-』クリエイター 飯田和敏氏インタビュー
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自分の限界、思い込みを突破するということ
――飯田さんは今回、『サウンドインパクト』について「第三の音ゲー」っていう言い方をされていますが、「第三の」というのはどのあたりを指して?
飯田氏■アプローチとしては水口さん
(注1)と似てるんだけど、ぼくの中では、音と映像をインタラクションするのがビデオゲームだ、っていう哲学があるんです。ビデオゲームって何かって言ったら、映像があって、そこに音がある。それ以外ないじゃないですか。音と映像ってもともと不可分なものだし、だったら音ゲーっていう切り取り方はちょっと違うなと。だってそうじゃん、みたいな。
※注1: 水口哲也氏。『スペースチャンネル5』、『Child of Eden』など、映像と音楽の融合にテーマを追いた作品を多く生み出している。飯田さん曰く、「ぼくの永遠のライバル」
――音ゲーに限らず、どんなゲームも音と映像で成り立ってると。
飯田氏■最初はぼくも音ゲーのつもりで始めたんだけど、突き詰めていくうちに音ゲーじゃなくなってたんですよ。
――『サウンドインパクト』では、新劇場版のいろんなシーンが6種類のゲームに落とし込まれていますけど、飯田さんのお気に入りはありますか。
飯田氏■一番苦労したけど、手応えがあったと思うのは、「Number5」と「Beastie Girl」。マリがエヴァに乗って戦うヤツね。分かりやすいけど、あれは譜面の作り方によってはものすごくアタマを混乱させることができるし、それがビートと紐付いたときの感じもいい。これ特許とっとこうみたいな(笑)。
――譜面が2本あるので、脳がぐちゃぐちゃにかき回されるような感覚がありますね。
飯田氏■あとはやっぱり「AT」かな。今までの音ゲーって、演奏中はどうしても映像に目がいかなくなりがちだったんだけど、これは見る、聞く、演奏するが全部いっぺんにできる。
――一番映像とキレイにリンクしていましたよね。ボタンを押した時に、音だけじゃなく名シーンのカットインが入るのも良かった。
飯田氏■いいよね。あれは途中で思いついて入れたんですよ。
――6本のゲームは、どのようにして作っていったんですか?
飯田氏■6本どころか、1,000本くらい考えたんですよ。けっこうデカいホワイトボードがあって、そこに毎日、みんなで思いついたものを書いていった。で、それを眺めながら、これは面白そうだなとか、これは断片的すぎるな、これはただの言葉遊びだな、これとこれは組み合わせられるなとか考えていって、最後は100個くらいに絞った。
――それでも100個ですか。
飯田氏■そこからはFlashを使って、動く企画書をいっぱい作った。もちろんそれはバンダイナムコゲームスやカラーに見せるためでもあったんだけど、それは2番目の話で、一番は自分が作りたいのは何なのかを自分で理解するための作業だった。中にはヒドいのもありましたよ。零号機が実験中に暴走して、ヘッドバンキングするシーンがあるじゃないですか。
――壁にガンガン頭を打ち付けるところですよね。
飯田氏■あれはいいシーンだからぜひゲームにしたいと思って。それもCGじゃなくて、フィギュアを使ってストップモーションでやりたかった。だけど実際作ってみたら、「ウォレスとグルミット」でさえ1本作るのに3年かかるのに、そんな素人の思いつきで、ストップモーションアニメなんて作れるわけがなかった。ぼくらはインバースキネマティックとか、そういう技術に頼って、間接の動きをコンピュータに計算してもらってるんだけど、なんか違うんですよ。それで早々に撤退しましたけど、一応そういうものも作ったには作った(笑)。
――遊んでみたかったなあ。
飯田氏■最終的には6種類のゲームに落とし込んだんだけど、これはバラバラに存在してるものではなくて、1つの使徒とどういうふうに決着を付けていくか、っていうのをなぞっているんです。そういう構成も含めてぜひ楽しんでほしい。
――今回もう1つ、全体のテーマとして「すべてのA.T.フィールドを突破せよ」というのを打ち出していましたが、これは飯田さんの考えですか。
飯田氏■みんなで考えたスローガンのようなものですね。震災前の日本って、すごく圧が高かったじゃないですか。ワーキングプアの問題とか、若い人たちが社会参画できる機会がなくなってきてるとか、目に見えないギスギスした感じがあって。同時にぼくら自身も、ソーシャルゲームっていう新しいスタイルのゲームが誕生しつつあって、うまくそっちへ発想を転換できるか試されてる。
ここでのA.T.フィールドっていうのは、別の言葉で言えば思い込みだとか、自分自身の限界とかですよ。みんなすぐに諦めて、そんな無茶なことはやめようって言うんだけど、ぼくは夢想家だから、そういうことを言う人は信用できないし、面白いからやろうよっていつも思ってる。それをまあ、キツくない言い方で「A.T.フィールドを突破せよ」って言葉に込めたんです。
――今回入っている6種類のゲームって、どれも何らかの形でA.T.フィールドが組み込まれていますよね。で、最後はA.T.フィールドを突破して、使徒のコアを直接ブン殴ってグシャっと崩壊させる。
飯田氏■「AT」の一番最後のところね。あそこはかなりこだわったし、なかなかオッケーを出せなかった部分。音楽から切り離して、初めてアクションゲームとしてモノに触れる感じを出したかった。あれなんかはまさに、音ゲーってところに凝り固まってたらできなかった演出だと思う。
大丈夫なんて簡単には言えないけど、きっと大丈夫
――ソーシャルゲームの話題がちょっと出ましたが、今のゲームをとりまく状況についてはどう考えていますか。
飯田氏■ほんとにねえ、そういう時代が来ちゃいましたね。せっかくぼくがコンシューマーゲームに帰ってきたと思ったら、アプリですかみたいな。
でもそれってゲームに限った話じゃないんですよ。この間ビョークが新作の音源をアプリで発表したように、これからはゲームクリエイターに限らず、表現者はみんなアプリケーションというものを意識しなければならない。そもそもビデオゲームなんて、パッと思いついたものをパッと作って、BASICですぐに組んで、それをカセットテープで仲間内に流通させて、面白いと思ったらどんどん改造して……っていう、ソーシャルな面をもともと持っていた。そういうカルチャーの原点に立ち返ると思えば、自然な流れのような気もする。
で、ぼく個人としては今までと別にブレはないというか、それこそビョークみたいに、好きにやっていけばいいと思ってる。作りたいものがある、歌いたい歌がある、届けたい遊びがある。で、それを届けるためのメディアが時代に応じて変わっていくのなら、ぼくらもそれに応じてロックンロールすればいい。少し前に須田がモバゲーへの参入を発表してましたけど、だから今はすごくワクワクしてますよ。ソーシャルに行くからといって今までやってきたことを捨てるわけじゃないし、今のソーシャルゲームがもっとよくなるためのアイデアもいっぱい持ってる。須田もきっとそう考えていると思います。
――パッケージに固執し続けるつもりはないと。
飯田氏■クリエイターとしては、本当はプラットフォームなんて何でもいいんだけど、やっぱりお客のいない場所でやるのはイヤですよ。大勢のお客さんが注目している、ホットな状況のところへ乗り込んでいくから楽しい。でなければただのオナニーと変わらないし、そういうのは隠れてこっそりやっていきます。
――大勢のお客さんが注目しているという意味では、ヱヴァはまさにそれですね。
飯田氏■ほんとにね。だから今回は売れなかったら負けだと思ってる。それはお金もうけがしたいとかそういうことじゃなくて、せっかくヱヴァっていうすばらしいIPを使わせていただいて、ぼくもそれに対して誠実に取り組んできたから、その結果はやっぱり数で実証したい。具体的な数字で言うと、ミリオン!ミリオンセラーになりたいです!
――飯田さんからそういう生々しい数字が出てくるなんて!
飯田氏■意外だよね。ぼくも意外でした。
――次に作りたいゲームや、次にやりたいことの構想についてはもうあるんですか?
飯田氏■今一番やりたいのはね、『サウンドインパクト』を持って、「Q」が公開されるときに徹夜で並ぶこと。かつてガンダムの「めぐりあい宇宙」を誰よりも早く見たくて、当時千葉の栄町にあった映画館に徹夜で並んだんだけど、そのときPSPがあって、そこでゲームができたら超アガったよなと思って。それはこのゲームを作るにあたって、ぜひ実現したかった光景の1つ。
――それはテンション上がりそうですね。
飯田氏■いろいろ言ったけど、結局それをやりたくて作ったゲームなんですよ。これイイ話だよね! そうでもないか。
――イイ話かなあ(笑)。次回作という部分ではどうですか?
飯田氏■今はいっぱい企画を考えているところですよ。あと『サウンドインパクト』では「第三の音ゲー」っていう新しい体験を作れたと思ってるので、これはなんらかの形で掘り下げたいですね。あとはクリエイターとして2周目に入ったことを自覚し、さらにアツい現場を追求していきたいと思っています。みなさん、よろしく!
――では最後に、ゲームを購入したユーザー、これから購入するユーザーに向けてメッセージをお願いします。
飯田氏■自分で関わってみてわかったんだけど、やっぱりヱヴァって人が想像しうる最高のイマジネーションの1つですよ。そこまで言ってしまっていいと思う。それを音ゲーとして、きわめて敷居の低い形で楽しめる、っていうのが、ぼくらが作ろうとしたものです。
これから日本は大変じゃないですか。「でももう大丈夫!」なんて簡単には言えないくらい大変だけど、神様はイマジネーションっていう力をぼくらに与えてくれたんだから、きっと大丈夫。人間にはそれくらいの想像力があるんだってことを、このゲームから感じとってもらえたらと思います。
――ありがとうございました。
(取材・構成:池谷勇人)
●飯田和敏(いいだ・かずとし)
ゲームクリエイター。
代表作に『アクアノートの休日』『巨人のドシン』『ディシプリン*帝国の誕生』など。「ゲームはアートの場として成立し得る」という信念を持ち、既存の枠にとらわれない、ユニークな作品を多く生み出してきた。グラスホッパー・マニファクチュアに所属。
Twitter:@iidakazutoshi
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