• 2011/10/07 掲載

【小松島六合氏インタビュー】決断がそれぞれの運命を分かつ――現代にも通じる関ヶ原の戦いにおける群雄の思惑と振る舞い(2/2)

『関ヶ原銘々伝』 小松島六合氏インタビュー

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日本各地で謀略と駆け引きが渦巻いた!

――関ヶ原の本戦以外の東北から関西までさまざまな場所で、合戦や駆け引き、謀略が行われていたことが本書を読むと分かりますね。とくに重要だと思われる動きはどのエリアのものだとお考えですか?

 小松島氏■関ヶ原の戦いは、朝鮮出兵からの数年にわたる内圧の高まりが爆発したようなものですから、中心となるのはやはり関ヶ原決戦に先立つ大坂城での2年間でしょう。奥州や中部・近畿各地で盛んに行なわれた戦闘や調略はすべてそこからの派生的なものですから、重要度はどれも高く、その点では変わらないと思います。

 しかし、変わらないとはいいましたが、会津の上杉氏・常陸の佐竹氏・上田の真田氏による家康挟撃策が上方(かみがた)にいる西軍と連動して実行に移されていたら、と想像したり、小山会議で家康が一挙に東軍を組織したことなどを思うと、最終的な勝利の分かれ目は関東方面にあったのかな、とも思います。

――この本では武将だけではなく、武将の妻、僧侶や商人なども登場しています。この時代の合戦や謀略などにおいてもそのような人々は重要な役割を果たしていたと見ていいでしょうか?

 小松島氏■局地的な小競り合いではありませんから、それぞれの大名家の命運がかかった総力戦として、当然重要な役割を果たしたのに間違いありません。武将の妻たちも実際の戦闘に加わった者もいれば城内の女たちをまとめて後方支援する者もあり、交渉や連絡で重要な役割を担ったりしました。

 それは、僧侶や商人も同様でしたが、商人はとくに戦後も見越して戦略物資を調達・運搬しています。それぞれの立場で戦況に重要なエポックを生み出しました。ほかに、明日はどうやって生き延びようかと思案していた多くの浪人たちにとっても、これには当事者として参加せざるを得ない、そんな空前の規模の戦いだったと思います。

――現代から見れば、どちらが勝ったのかという結果をわかっていますが、当然関ヶ原の戦いの前の時点では勝敗がわからず、多くの人物が自身や家のためにどのような決断をすべきか悩んだのではないかと思います。このあたりは現代のビジネスマンも多かれ少なかれ直面するものではないでしょうか?

 小松島氏■そうですね。子供のころにはただ贔屓目で見ていただけですから、福島正則などには乱暴者ですが好感を持っていたので、なぜ家康なんかに味方するのだろう、と不満でした。勝ちそうなほうに味方したのかな、とか。結局、正則は家康に勝利と天下人への大飛躍をもたらし、自分は滅びていくわけです。「一将功なって万骨枯る」というか、「狡兎死して走狗煮らる」というか、そういうことになってしまいますが、どうも三成への私怨を公憤に偽装してしまった末の悲劇という風に見えます。

 もっと世渡りが上手く、冷静に勝者と見込んだ方につく、といった生き方をしようとした小川祐忠などは、関ヶ原の戦いの途中で西軍から東軍へ寝返りますが、そんなことを過去にもたびたびやっていたために家康から忌避され、感謝されるどころか7万石の領地を没収されるという憂き目を見ます。

 自分なりによくよく考えて決断したんだ、といっても結果がどう出るか、人智では計り知れないものがあるのも本当でしょう。家康はツイていた、と本文中にも書きましたが、家康は武田信玄との三方ヶ原の戦いでもそうだったように、負けるかもしれない、多分負けるだろう、という戦いにも突っ込んで行くところがあります。大切に握りしめていたものをパッと掌(てのひら)を開いて捨ててしまう覚悟ができる。禅で「放てば手に満つ」といいますが、かたく握りしめた手の上には何も乗らないが大きく開いた手の上にはたくさんのものが乗る、といったことのようです。家康はそういうことができる人物でしたが、やっかいなことに三成もまた、そうでした。敗れてもなお三成を慕う人があるのはそのためです。

 結果がどう出ようが自分には恥じるところはない、そう思う目で見れば勝敗を超越した進むべき道筋が見えるでしょう。そうしたので、家康も三成も現代に生き続けているのだと思います。

●小松島六合(こまつしま・ろくごう)
歴史エッセイスト。日々、歴史上の人物に思いを馳せて定説を疑い、時のかなたに躍動する有名無名の群像の真剣かつ波瀾に富んだ人生に触れることを喜ぶ。



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