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ロシアによるウクライナ侵攻を背景に、岸田政権はロシアへの制裁を維持・強化している。日露関係は完全に冷え込んでいるが、これにより日本企業の間では脱ロシアの動きが広がっている。だが、大国間競争が激しくなる中、我々は今日のロシアだけでなく、最大の貿易相手国である中国との関係についても考える必要がある。最新動向を踏まえながら、今後の日中関係の行方、それによって経済にどう影響を与えるかについてみてきたい。
日本企業に迫る「撤退か」「継続か」の難しい選択
岸田政権はロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ロシア人外交官の日本からの国外通報、600万円以上の高級車といったいわゆるぜいたく品の輸出禁止など制裁を科しており、国内の企業活動にも影響が出ている。一方、ロシア側も対抗措置として日本人外交官の国外追放に踏み切り、6月に入っても7日、北方領土周辺で漁業活動を行う日本漁船を拿捕(だほ)しないことを約束した日露漁業協定(1998年に両国で締結)の履行を停止すると明らかにした。
こうした互いの国家による制裁は、日本企業による脱ロシアを加速させている。最近では、工作機械大手のDMG森精機が
ロシア事業から完全撤退したと明らかにした。DMG森精機によると、同社はロシア西部ウリヤノフスクの組立工場やモスクワにある販売店などを一斉に閉鎖し、現地従業員を300人近く解雇した。ロシアからの完全撤退が明らかになるのは大手メーカーでは初めてだという。
こうした日本企業がロシア事業の活動を鈍化させる現象は、このまま長期化する可能性が高い。少なくとも政治の領域で日露関係の明るい兆しが見えない限り、経済の領域でも活動が活発化する可能性はない。日露関係の冷え込みが長期化すればするほど、DMG森精機のように、ロシアからの完全撤退を決定する日本企業の数は増加することになろう。
また、日露間での新たな制裁が双方から発動されることは十分に考えられ、ロシア依存の少ない企業を中心に撤退の動きが強まることが考えられる。反対にロシア依存が強い企業ほど、継続か撤退かという難しいかじ取りが続くことになる。
中国に対立する「岸田政権の思惑」とは
しかし、今後の国際情勢を考えるのであれば、日本は今日のロシアリスクをチャイナリスクに照らす必要がある。岸田政権は、安倍政権や菅政権同様に対米重視の姿勢を貫いているが、それによって日中関係にどのような影響が及んでくるか。これについては気になる人が企業から増えていると思う。
岸田総理は5月下旬にバイデン大統領と強固な日米関係を改めて確認し、南シナ海や台湾などで侵攻しようとする試みに対する中国への懸念を共有した。また、その後開かれた日米豪印によるクアッド首脳会談では、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、今後5年間で6兆円規模のインフラ支援・投資を途上国へ実施する方針を明らかにした。
このインフラ支援・投資は、中国が長年実施する巨大経済圏構想「一帯一路」への対抗措置「対一帯一路」になることは間違いなく、中国側もそう受け止めていることだろう。
さらに、岸田総理は6月29日、30日にスペイン・マドリードで開催されたNATO(北大西洋条約機構)首脳会合に出席。日本の首脳がNATO首脳会合に参加するのは初めてのことだ。岸田総理の意図には、筆者としては「インド太平洋を超え、自由や法の支配など価値観を同じくする国々で構成されるNATOに接近することで、対中国をグローバルなレベルで進めていきたい」という狙いがあると考えている。
実際に、岸田総理はNATO首脳会合で「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と強い危機感を示した。一方、NATOもウクライナ侵攻を続けるロシアを「直接の脅威」と位置付けただけでなく、今回初めて台湾などへの侵攻を試みる中国についても言及した。
また、近年では英国やフランス、ドイツやオランダなど欧州各国がインド太平洋に軍事的プレゼンスを見せており、そういった国々をインド太平洋に関与させ続けたい思惑もある。
日本の(国家と経済の両面での)安全保障を考えるのであれば、一連の岸田政権の動きは十分に納得のいくもので、それは多くの市民も同じだろう。
しかし、経済安全保障の重要性が世論で指摘される今日では、岸田政権の対中国姿勢により、経済・貿易の領域に影響がどう及ぶかを考えることが極めて重要になる。筆者周辺の企業関係者からは、「岸田総理の安全保障路線は十分納得のいくものだが、それによって日中経済に悪影響が及ぶか不安視している」といった声が多く聞かれる。一連の動きは、中国にとっては自らに対立する動きとなる。
【次ページ】日中経済は今後どうなる?
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