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  • 2024/12/27 掲載

「高すぎる」シンガポール、インフレ低下も「GDP」は大幅増のスゴさ

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シンガポールの経済に好調の兆しが表れている。10月の総合インフレ率は1.4%と、9月の2.0%から大幅に低下し、2021年3月以来の低水準を記録。一方、第3四半期のGDP成長率は前年同期比5.4%増と、2021年第4四半期以来の高水準となった。政府は2024年の経済成長率予測を「3.5%前後」に引き上げている。この動きは、不動産価格や賃金にも影響。インフレを抑えながらも、GDP好調を維持するシンガポール経済についてみていこう。
執筆:細谷 元  構成:ビジネス+IT編集部
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シンガポールの「高すぎる物価」に変化の兆しが表れている
(Photo:Kadagan / Shutterstock.com)

シンガポール、インフレ減速、GDPは好調

 シンガポールの2024年10月の総合インフレ率は1.4%と、9月の2.0%から大幅に低下した。この水準は2021年3月の1.3%以来の低水準であり、CNBCが伝えたロイター通信のエコノミスト調査による予想1.8%をも下回る結果となった。

 住宅費と民間交通費を除いたコアインフレ率も、10月は2.1%まで低下。9月の2.8%から大幅に改善し、予想の2.5%も下回った。シンガポール金融当局(MAS:中央銀行に相当)によると、この背景にはサービス価格の上昇率低下に加え、電気・ガス料金、医薬品、衣料品などの価格上昇率が鈍化したことが影響しているという。この傾向は、第4四半期にかけても続く見込みとのこと。

 一方、GDP成長率は、2024年第3四半期に前年同期比5.4%増を記録。速報値の4.1%を大きく上回り、2021年第4四半期の6.1%以来の高水準となった。これを受けて政府は2024年の経済成長率予測を「2.0~3.0%」から「3.5%前後」へと上方修正している。

 MASの10月の四半期金融政策会合では、シンガポールドル名目実効為替レート(S$NEER)の現行の上昇率を6会合連続で維持することを決定。市場予想通りの結果となった。この決定の背景には、コアインフレ率が7~8月期に2.6%まで低下したこと、そしてGDP成長率が予想以上の伸びを示したことがある。さらに、コアインフレ率の一段の低下が見込まれること、経済成長率が今後数カ月から2025年にかけて潜在成長率に近づくと予想されることも、現行の金融政策維持を支持する要因となった。

 シンガポールの金融政策は、他国とは異なりベンチマーク金利ではなく為替レートを通じて物価の安定と健全な成長を目指す、という特徴を持つ。MASは、シンガポールドルの為替レートを主要貿易相手国の通貨に対して管理しており、非公表の政策バンド内で変動させている。具体的には、シンガポールドルの価値を、主要貿易相手国の通貨に対して緩やかに上昇させることで、インフレを抑制する手法だ。

 市場では、2025年からの金融緩和サイクル開始を予想する声が出始めている。Focus Economicsによると、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行のアナリスト、ジェスター・コー氏は、2025年1月か4月の金融政策会合でS$NEERの傾きを50ベーシスポイント引き下げる可能性を指摘している。

 現在の為替レート上昇ペースを緩める(0.5%引き下げる)ことで、金融政策を平常時の水準に戻すことができる。これは、インフレ率が政府目標の水準に落ち着きつつあることを反映した動きとなる。

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インフレ抑制と経済成長の両立は非常に難しいテーマだ
(Photo/Shutterstock.com)

不動産賃貸市場、冷え込みの兆候、借り手優位の展開へ

 インフレ率の低下は、加熱している不動産市場でも反映されつつある。

 コロナ禍以降、過熱していたシンガポール賃貸市場では、新規供給の増加によりポストパンデミック需要を上回る状況が続いている。2025年の展望はまだ不透明だが、市場は借り手優位の方向に傾きつつあるという見方が有力となっている。

 数字で見ると、この3年間で約60%も上昇した島内全域の賃貸指数は、直近4四半期で4%の下落を記録。この下落幅は、7~9月期に小幅な反発があったことで、やや抑制された形となった。特に中心部の高級コンドミニアムが、手の届きやすい価格帯への移行を先導しているという。

 2025年の賃貸市場の動向は、新規物件の供給量と新規外国人居住者の数に左右される見込みだ。開発業者は今年に入り、供給に慎重な姿勢を見せていたが、状況は変化の兆しを見せている。10月の新規民間住宅販売戸数は738戸と、前月比84%増を記録。これは、2023年11月以来の高水準となる値だ。

 ただし、この新規物件の供給量は、賃貸市場の需要に対して十分ではないとされる。理由の1つとして、公営住宅(政府が提供する比較的安価な集合住宅)から、より快適な民間のコンドミニアムへの住み替えを目指すシンガポール人が多いことが挙げられる。このような「アップグレード需要」は現在も強く、賃貸物件への需要を押し上げている状況だ。

 一方で、賃貸物件の空室率は上昇傾向にある。シンガポールでは、物件のオーナーは入居者がいない場合でも、その物件に対して政府へ財産税を支払う必要がある。以前は空室物件に対する税金還付制度があったが、この制度は約10年前に廃止された。そのため、オーナーにとっては空室期間が長引くと経済的な負担が大きくなる仕組みとなっている。

 最近の雇用動向も、賃貸市場に影響を与えている。第2四半期と第3四半期における非居住者雇用の増加は、主に建設、製造、警備サービス、造園分野におけるワークパーミット保持者によるもの。これらの労働者は主に寮や公営住宅に居住する傾向がある。Savills Researchは、企業のコスト削減に伴う人員削減により、より給与水準の高い就労パス保持者の減少が予想され、特に中~高級物件において新規外国人テナントの需要が低下する可能性を指摘している。

 また、2025年11月までに実施される総選挙も市場に影響を与える要因となりそうだ。外国人の数を抑制する政策は、有権者にとって常に重要な問題となっており、さらなる規制強化により賃貸市場が影響を受ける可能性も高い。 【次ページ】インフレ減速で給料はどう変わる?
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