• 2021/10/30 掲載

「同性婚」めぐる日本の行方は? フランスや台湾はどのような経緯で実現したのか(2/2)

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フランスの同性婚実現までの経緯。日本と重なる点も

 それでは、2013年から同性婚が認められているフランスの軌跡をたどることとする。フランスは、世界で13カ国目に同性婚を法制化した。日本からすると、LGBTの人権に関して先進的なイメージがあるかもしれないが、実際にはフランスは遅々とした不完全な経緯をたどった。

 フランスでは、1980年代に社会党内で「シビル・パートナーシップ」が提案されていたが、支持を受けず立法には至らなかった。

 次の一歩は、1995年に大西洋に面した中規模の町サン・ナゼールで始まった。サン・ナゼール市長は、1年以上同居している同性カップルに証明書を発行し始めたのである。この証明書は、前述の日本の自治体パートナーシップと似たもので、法律上の効果はないが、社会保険上は婚姻した異性カップルと同等に扱われたり、カップルの一方が借りた物件の賃借権について限定的な保護を受けられたり、自治体の提供できる範囲で一定のメリットを得られた。

 サン・ナゼールの例は急速に広がり、フランスの242都市で同様の制度が導入された。当時の状況は、現在の日本の自治体パートナーシップの広がりとよく似ている。

 1998年、PACS(pacte civil de solidarite民事連帯協約)法案が議会に提出されたが、否決された。同性のユニオンを認めることはフランス社会の崩壊を招くという強い反対を受けつつ、法案は翌年再度提出され、1999年11月に可決された。施行後、当初の想定とは異なり、PACSは広く同性カップルだけではなく異性カップルにも支持されるに至り、現在では同性カップルは、全PACSカップルの10%に満たない。

 フランスでは、結婚には煩雑な手続きが要求されるため、若者を中心に結婚離れ・事実婚が広まっていた。PACSは手続き上は日本の結婚と似て、両当事者が署名した文書を地方行政に届け出ればよい。異性カップルにとっては結婚の簡易バージョンともいえるPACSが支持を得たのである。PACSは、法的効果の面でも、下図の具体例など、婚姻より軽いものとなっている。具体例は下図に挙げられる。

結婚制度と比較したPACSの特徴
対象 同性カップルおよび異性カップル
手続き 両当事者が署名した文書を市町村(2017年より前は裁判所)に届け出る(婚姻には事前の公示や市長の面前で行われる儀式・宣誓などが必要)。
法的効果 一方当事者は他方当事者の姓を名乗ることはできない。
連帯債務を負う範囲が婚姻に比べ限定されている。
遺言がなければ相続人になることがない。
日本の離婚と同様、当事者の合意でいつでも終了可能(婚姻は離婚のための法的手続きが必要)。

 思いのほかポピュラーになったPACSではあったが、婚姻を必要とする同性カップルの要請を完全に満たすことはできなかった。婚姻に向けた動きは、1つは、周辺国の多くが同性婚を認めることとなり、フランスと他国の差によってもたらされた。

 有名な事案の1つは、2008年、すでに同性婚が認められていたオランダにおいてオランダ人とフランス人が結婚し、当事者のフランス人はオランダ国籍を取得した。ところが、仏法上二重国籍は婚姻の場合のみ認められるが、フランスでは彼らの関係を婚姻として認めていないため、このフランス人は仏国籍を失うこととなったのである。これは、欧州の中で取り残されたフランス人同性愛者だけの不利益を浮き彫りにした。

 他方、2004年にフランスのある市長が男性2人の結婚を執り行ったが、フランス最高裁はかかる婚姻が違法であるとの判断を示した。政府側の、政治的・社会的に重要な問題であり、司法権限を越えるとの主張が認められた形で、立法府による解決が期待されていた。

 2012年、共和党のオランド大統領候補は、同性婚の承認を公約に掲げ当選した。他方、同性婚反対派からは、多くの抗議運動や反対運動が行われた。反対派の主張は下記のように大別された。

反対派の主張
■子どもの問題
 ・同性カップルに育てられる子への精神的悪影響
 ・必然的にもたらされる生殖補助医療や代理母に対する反対
■「家族」とは必然的に男女である
 ・より法的効果の強いPACSなど新しいシビル・ユニオンの創設が望ましい
■伝統的なカトリックと結びついた宗教上の反対

 多くの反対運動を受けつつ、法案は同年11月に議会に提案され、2013年5月に可決された。可決された法案は、民法上の「父」「母」を「親1」「親2」に変更するという極めてシンプルな法律だ。

 2019年、フランスでは異性間の婚姻21万8468組、同性間の婚姻6722組、また、異性間のPACS 18万8014組、同性間のPACS 8356組が誕生した。婚姻とPACSを合わせると、同性のカップルは全体の3.5%を占める。

アジア初、台湾は同性婚をどう実現した?

 次に、2019年5月に同性婚を可能にする法案が可決され、アジアで最初に同性婚が認められる国となった台湾の道のりを追ってみたい。隣国であり、文化面・法制度面でも欧米に比して日本との親和性があるとも思われる台湾だが、どのような道を経て同性婚を実現させたのか。

 台湾では、2001年、2006年、2012年(2016年に再提出)、2013年の4回、同性カップルの婚姻を認める法案が提出されており、いずれも立法院の承認を得られずにいた。

 法改正が進まない中、2015年5月以降、各自治体による同性パートナーシップの登録制度が始まった。これは、前述のとおり日本の渋谷区で全国初のパートナーシップ制が成立したのと同時期である。同性カップルに実質的な権利を付与するものではない点もフランスや日本の制度と同様であるが、その拡大に伴い、同性カップルに対する法的承認の必要性に対する社会的認知を向上させていった点においてもフランス・日本と類似すると思われる。

 2016年1月には、同性婚支持を公言していた蔡英文氏が台湾初の女性総統に就任し、同性婚実現への機運は一層高まりを見せていた。そして2017年5月24日、台湾の最高裁判所である司法院大法官が同性婚を認めていない当時の民法の各規定を違憲とし、2年以内の法律改正または制定がなされなければならないとした(第748号解釈)。日本でも、このニュースを受け、アジア初の同性婚が実現したとして、希望と喜びの声があふれたことは記憶に新しい。

 ところが、この画期的な違憲判決から実際に台湾でアジア初の同性婚が認められるようになるまでは決して簡単ではなかった。同性婚を法制化するにあたって、もともと婚姻の規定を置く民法を改正するか、それとも同性婚を目的とした特別法を制定するかを巡り、同性婚推進派と反対派の対立が激化し、2018年11月それぞれの主張が国民投票に付される事態に発展したのである。

 一見テクニカルな問題にすぎないように見えるこの対立は、実は、「婚姻」とは何かという根本的な問いを国民に投げかけていた。

国民投票の概要
同性婚反対派の提案した内容 1)民法の婚姻規定は一男一女の結合に限定すべき
2)婚姻の定義が一男一女の結合であるという前提を改めることなく同性同士の共同生活は特別法で保障すべき
(出典:松井直之「台湾における司法院大法官の憲法解釈のあり方―司法院釈字第748号解釈施行法の制定過程に着目してー」)



 そして、この国民投票は、反対派の提案が可決、推進派の提案(民法改正)が否決されるという結果に終わったのである。

 第748号解釈と国民投票の結果を受けて板挟みになりつつも特別法の制定が進められたが、その過程でも「婚姻」の文言をめぐる対立は収まることはなく、特別法は、「同性婚姻法」ではなく「司法院釈字第748号解釈施行法」という名称で巧みに「婚姻」の文言を避けた形で可決された。同解釈に示された2年間の期限の1週間前のタイミングであった。

 現在も、同性カップルは、どちらかの連れ子と養子縁組をすることはできても、血縁関係にない子との養子縁組はできないなど、男女の婚姻カップルと異なる扱いも存在し、当事者団体はこれを課題としている

 波乱の末施行され、課題も残るとされる台湾の同性婚だが、施行後2年を経た政府の調査では、2021年4月末時点で5871組の同性カップルが結婚を登記しており、同性婚を承認する人の割合は2018年の37.4%から60.4%まで増加したとされる。

パズルのピースはそろいつつある日本、次の一歩は

 2013年、2019年にそれぞれ同性婚を実現させたフランスと台湾。政治的な解決が望まれたフランスに対し、台湾では裁判所の判断が重要な役割を果たしたが、いずれも、平たんな道のりではなく、同性婚を求める声と反対派の対立の末に法制化されたことがうかがえる。

 フランスも台湾も、地方自治体の取り組みから始まり、徐々に同性カップルに対する国民の認知と理解を一定程度広げた点は、日本の現状と重なる部分がある。

 司法判断や政権交代など、それぞれ重要な契機をとらえた法制化であった一方、成立時には根強い反対にあっている。地域や文化が異なる中、反対派の主張が、結局のところ、子どもの問題と、「家族は必然的に男女」「婚姻は一男一女」というある種の固定観念(反対派はこれを伝統的家族観というのであろう)の変更に対する拒絶反応に帰着している点は興味深い。

 日本でも、自治体からのボトムアップ、法案提出、近時の立憲民主党など野党による同性婚支持、同性婚を求める訴訟の提起、違憲裁判例など、パズルのピースはそろいつつある。

 何が次のピースを動かすかはわからない。しかし、動き出したとき、反対派が納得しない限り同性婚が実現できないというのは間違いだ。日本では、「時期尚早」「国民の理解を得てから」という声もある。

 しかし、フランス・台湾の例を見ても、反対派が納得するまで待っていたらいつまでたっても決着がつかないのは明らかだろう。新しい家族の形が今もうすでに存在しているのは、自治体パートナーシップの広がりが裏付けている。

 そこに法的裏付けを与えても、伝統的家族観を大切にしたい人が今大切にしているものを失うことはない。日本でも、反対派を待ち続けることなく、次の一歩が踏み出されることを期待したい。
〔参考文献〕
同性パートナーシップ・ネット「全国自治体パートナーシップ制度 検討・実施状況
フランス国立統計経済研究所(インセ)(INSEE(L’Institut National de la Statistique et des Études Économiques))「Mariages et pacs
LLAN「婚姻の平等に関する外国法調査報告書」
国立国会図書館 調査及び立法考査局「【台湾】同性婚の合法化
松井直之「台湾における司法院大法官の憲法解釈のあり方―司法院釈字第748号解釈施行法の制定過程に着目してー」
2021年5月21日フォーカス台湾「同性婚、「民法」で保障を=促進団体 特別法施行から2年/台湾
2021年5月26日Taiwan Today「同性婚合法化満2年、「同性婚を支持」が6割超える

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