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工具通販で知られるMonotaRO(以下、モノタロウ)は、製造業や工事業現場の人間にとってなくてはならない存在となっているが、同社はいかにして現在のポジションにまで登り詰めたのだろうか。同社の歴史を紐解くと、市場課題をしっかり見極めた先の“優れた事業選択”があった。
モノタロウのビジネスの成り立ちや、「リードタイム短縮」を重視する理由について、同社 代表執行役社長の鈴木雅哉氏に話を聞いた。
モノタロウ誕生の起源
──創業メンバーの鈴木さんにお聞きします。MonotaRO(以下、モノタロウ)は間接資材を扱う米国グレンジャー社との合弁会社からスタートしましたが、当時のプランとして、グレンジャー社のビジネスモデルを日本に輸入しようという狙いがあったりしたのでしょうか?
鈴木雅哉氏(以下、鈴木氏):創業時のプランを理解いただくには、私のキャリアを含めた背景をご説明する必要があるかと思います。
1998年に新卒で入社した住商(住友商事)で、私は鉄鋼部門に配属されました。そこには新卒が配属される鉄鋼業務部という部署があり、通常はそこで1年間、業界動向や資料作成などの基礎を学び、2年目で営業などの現場に出るのですが、私の場合は2年目で当時の部長の推薦もありシステムチームへ異動となりました。
商社とメーカーをつなぐEDIなどを構築していたのですが、ちょうどその年にインターネットビジネスが日本のBtoBマーケットにおいても盛り上がりを見せていました。「商社機能もネットに置き換えられるのではないか」という危機感から、住友商事でも各部門においてeコマースのチームが立ち上げられました。
そんな中、(現モノタロウ会長である)当時のチームリーダーの瀬戸は、会社からのミッションで、鉄鋼におけるECの可能性を模索しておりました。
彼は米国でアマゾンの躍進を目の当たりにしていましたから、産業資材においてECの強みである“検索性”が生かせて、かつ顧客にとって不便・不満のある領域は、サプライヤーが無数にあり購買にも手間がかかっている「間接材(MRO)」のであると考えました。
この間接材に関する新規事業を始めるため、社内で人材を募集していた中、入社3年目の私に声がかかった、というのが私とモノタロウの原点です。
入社が1年遅れても、早まっても出会えなかった、運命なんだと思います(笑)。
グレンジャーは100年近い歴史のあるMRO販売の老舗であり、オンラインだけでなく、リアルな営業も活用したビジネスを展開していました。そのグレンジャーが、日本向けのパートナーを探しており、またオンライン強化という文脈も我々の意向と合致したため、一緒に進めようとなったわけです。なので、グレンジャー社のビジネスモデルをそのまま日本で適用しようという意図で始まったわけではありません。
なぜ「間接材市場のEC」を選んだのか?
──モノタロウはその後、急成長を遂げていきましたが、創設当初から事業が軌道に乗るまでの流れをお聞かせください。
鈴木氏:モノタロウのビジネスにおけるもともとのプランAは購買システムであり、当初のターゲットは大手企業でした。しかし、大手企業にはすでに地場の販売会社の営業が入り込んでおり、新規参入の我々を選ぶメリットがありませんでした。そのため、1年くらいでピボット(事業転換)を余儀なくされました。
このように、大手企業には販売会社の営業が、まるでサザエさんにおける三河屋のサブちゃんのように御用聞きを行っている一方、中小企業にまでは、販売会社の営業も手が回らず、中小企業が置き去りにされている状況がありました。
また、価格面でも中小企業は厳しい状況に置かれていました。たとえば、見積もりは案件ごとの需給のバランスに応じて価格が変わるのですが、そうなると購買ボリュームの多い大手企業は価格メリットを享受できるものの、中小企業はそうもいかない。
つまり、この市場では中小企業に不利益が偏る構造があると分かったのです。そこで、この間接資材における中小企業にフォーカスして進めることとしました。
中小企業の実態に着目すると、まだまだECで間接材を購入するような流れはなく、電話やFAXで商品を注文するのが主流でした。本来の我々のミッションは、“EC”だったのですが、顧客の実態に合わせて、我々もFAXや電話で購入できる業務に変更して進めました。顧客リストを購入し、DMやチラシを巻いていく泥臭い営業を地道に続けていったわけです。
当初、売上のほとんどはFAXや電話を通じた商品購入であり、スマホやECが浸透していくにつれて、徐々にECの割合が高まっていきました。
大手企業にモノタロウを使ってもらえるようになってきたのは、創設から10年くらいたってからになります。「みんな、モノタロウで買っているんだね」という認識ができてきてからです。周り道をして、やっと当初のターゲットである大企業にたどり着いたのです。
ECの成否を決める、「ターゲット」「取扱商材」の選び方
──当初は思い通りにいかず、ピボットにより今の事業の原点を作り上げたのですね。その後、軌道に乗り始めた事業を、加速度的に成長させた戦略について、お聞かせください。
鈴木氏:当時、我々の商材を購入する可能性のある事業者の方々に、DMやチラシを送り続ける日々の中で、反応が大きかったのは金属加工業者でした。
成長を目指すならば、新規顧客を獲得していくより、既存顧客にクロスセルした方が効率は高い。実際、金属加工業者は、さまざまな間接材を多く使いますので、そのウォレットシェア(顧客内シェア)を高めていく方が効率は高い。だから、彼ら彼女らが利用する間接材を徹底的に調査し、商材を広げていき、クロスセルできるようにしていきました。
商材の中には、他業種にも利用される「共通する商材」が含まれており、たとえば「板金」という作業は金属加工業者以外でも実施する作業なので、そこで扱う商材は他業種の方でも利用が多い商材となる。
そうなると、現場の口コミで別の業種の作業員が、共通する商材を中心に、モノタロウで購入するようになる。金属加工業者に対する品揃えを徹底する中で、徐々に顧客が広がっていったので、今後は別の業種の品揃えを伸ばしていこうという話になりました。
そこで、顧客リストを分析し、顧客の多い業種が工事業だったため、今度は工事業に対する品揃えを徹底的に深めていった。この繰り返しで、顧客も品揃えも広がっていったという流れなのですが、こうして振り返ると、すべてきれいなストーリーに聞こえますが、当然ながら実際にはやりながら気づいて、変えていった部分も多かったですね。
中小企業に絞り、さらに業種を絞り、品揃えを深めていく。その中で周辺に広がった顧客に対し、品揃えを深めていく。これを繰り返していくと、自然と商材が広がっていったのです。
こうして出来上がった基盤を基に、大企業にも利用が広がっていきました。大企業も中小企業も使う商材は同じなので、品揃えが充実していれば使ってもらえるということですね。大企業には自社の購買システムがあることが多いので、そこにつなぎ購買できる仕組み(パンチアウト)も展開しています。
【次ページ】リードタイム短縮の絶大な効果とは?
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