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世の中は新型コロナの影響で厳しい局面を迎える中、無人棚搬送ロボットや自動梱包機など、自動化・省力化のための最新鋭設備を導入すべく、総額90億円を超える最新型倉庫の稼働に踏み切った企業がいる。コロナでも成長の手を緩めない、その企業の名はMonotaRO(以下、モノタロウ)だ。工具のアマゾンとも呼ばれ、急成長を遂げている企業である。なぜ、コロナ禍でも成長し続けることができるのだろうか。モノタロウの成長のワケを探ると、そこには、優れた「ズラシ戦略」があった。図表を使って、同社の強さの秘密を解説する。
製造業における「直接材」と「間接材」
モノタロウの戦略の優れた点を理解するために、まずは製造業のビジネスを簡単におさらいしておきたい。
通常、製造業は原料・原材料を仕入れ、製造・加工し、製品として出荷するプロセスをとる。この際、直接製品に変わっていく原料・原材料を「直接材」と呼ぶ。一方、製造およびその周辺に付随する形で生じる商材を「間接材」(MRO:Maintenance Repair and Operationとも呼ぶ)という。
たとえば、おにぎりを製造する食品工場であれば、お米や鮭(具)はおにぎりに変っていくので「直接材」となる。おにぎりの品質や価格に直接的な影響を与えるため、メーカーは必死になってより良い原材料を探し、またサプライヤーに相見積もりなどの商談をギリギリまで行う。
しかし、おにぎりを生産するためには、お米や鮭以外にも必要なものがあり、たとえば事務所で扱う文房具や電球のほか、製造現場でも機械のメンテナンス部品や清掃具など、幅広い「間接材」を使いながら、企業は活動を行っている。
直接材とは異なり、間接材は本業の製品品質に直接的な影響を与えないため、(本音として)企業の関心は薄い。さらに、間接材は、(1)種類が豊富、(2)利用者が幅広い(ゆえに利用場所も点在)、という特徴を有しており、一括管理が困難である。
こうした事情から、一般的に企業の購買部と言えば、直接材の調達・管理をミッションとしており、間接材にまでは手に負えないのが実態である。
間接材市場の「不便・不満」…しわ寄せが中小企業に集まるワケ
その結果、各企業の間接材の調達は担当者に任せきりとなり、定期的なコストカットも行うこともなく、“おざなり”になりがちである(本業で数%の営業利益を上げるよりも、簡単かつ迅速に効果が出る領域なので、実はコストカットの余地が高い、というのもよくある話)。
企業内に散在し、コストカット余地のある間接材だが、大企業にもなるとチリツモで、調達額も大規模となる。そこで、間接材を販売する企業の営業員は、「御用聞き」として大企業に派遣され、丁寧に受注・補充を行っている。
しかし、規模で劣る中小企業となると、間接材を売り込みたい販売会社側もそれほど営業に力を入れることはないため、“丁寧な御用聞き”とはいかない。そのため、場合によっては中小企業の担当者が自分たちで間接材を仕入れなければならなくなり、四苦八苦することも多いという。
さらに間接材のもう1つの特徴は、価格がオープンにされていない、いわゆる「一物多価」なことである。そのため、都度、見積もりが取られるが、このときもボリュームで劣る中小企業は大企業よりも、高値を掴まされることが多いのである。
つまり、間接材市場における不便・不利益・不満という「不」は、中小企業に偏在していたのである。
モノタロウの通販ビジネスの特徴
間接資材を扱う米グレンジャー社との合弁会社としてスタートしたモノタロウ。間接材の市場規模が10~20兆である中、文具ではアスクル、アッセンブリーではミスミといったプレイヤーが、中小企業をターゲットに事業展開をしていたが、“工具”に関しては誰も手をつけていなかった。
そこに着目したモノタロウは検討を重ね、まず金属加工業者を対象に通販ビジネスとしてスタートさせることになった。
一般的に通販ビジネスは、品揃えの広さと顧客の多さが事業をスケールさせるための肝であると言われるため、モノタロウもそうした方向性に向きかけた。しかし、ここでモノタロウは「狭く深く」をコンセプトとした成長を志向する。
モノタロウは、無暗に顧客の幅を広げ、扱う商品を広げていくことを避け、ターゲット顧客を金属加工業者に絞り、商品も彼ら彼女らが欲しい商材に絞り込み、徹底的に品揃えの「深さ」を追求したのである。
ただ、間接材の中から扱う領域を工具に絞り込んだとはいえ、それでもSKU(ストック・キーピング・ユニット)レベルで見れば、数知れない商品点数となる。そのため、これらを品揃えに加えていくと、在庫リスクが高まるが、それだけでなくさらに在庫リスクが高い、いわゆる“ロングテール商品”も扱わなくては、顧客にとって真のワンストップたりえない。
ロングテール商品も取り扱いつつ、在庫リスクを減らすために、モノタロウはどのような対応をしたのだろうか。
【次ページ】ロングテール商品なのに「よく売れる」、その仕組みとは
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