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今やビジネストレンドの中心とも言えるDX(デジタルトランスフォーメーション。大手企業を中心にDX化が進められているが、中には一足早く行動を始め、成果を出す企業も現れた。調味料や栄養ケア食品を提供している味の素も世に先駆けてDXに取り組んだ企業の1つだ。味の素はどのようにデジタル変革を進めたのか。代表執行役 副社長執行役員CDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者) 福士博司氏が取り組みを振り返った。
本記事は2021年6月10日開催「AI EXPERIENCE(主催:DataRobot)」の講演を基に再構成したものです。
DXにおけるKGIは「パーパス経営への転換」
なぜ味の素はDXに取り組んだのか。その背景には株価の下落があった。2016年に2,800円台を記録した同社の株価は、2017年からは下落傾向になり、2019年には1,600円台へと移行している。
これに対応する形で、経営陣は「働き方改革・人事諸制度の変更」などを推進したが、株価には変化がなかった。2018年には抜本的な組織変革が求められ、DXを推進するために福士氏がCDOに任命されている。味の素はDX化にあたり、どのようなKGI(重要目標達成指標)を掲げたのだろうか。
「DXにおけるKGIは『パーパス経営への転換』です。我々は2010年代まで経営規模の拡大に努めましたが、資本効率が悪くなり株価が低下しました。これを反省してサステナブルな企業へと生まれ変わるため、『食と健康の課題解決をする企業』として再出発することを決めました」(福士氏)
消費者から支持される企業になるために、同社は2030年までに「10億人の健康寿命を延伸する」「事業を成長させながら環境負荷を50%改善する」という2つの目標を掲げた。
この方針を実現するために福士氏は社内にDX準備委員会を発足。数年かけて委員会を専門部署に成長させながら、DX1.0~4.0まで4つのステップに分けてDXを推し進めた。
DX1.0:全社オペレーションの変革
先ほど述べたDX1.0~4.0とはどのような概念なのだろうか? 福士氏は「DXとは社会全体のデジタル変容を指します。自社だけで完結するものではないので、変革を社会全体へと広げていく計画を立てました」と話す。
具体的には「DX1.0:全社のオペレーション変革」「DX2.0:エコシステム変革」「DX3.0:事業モデル変革」「DX4.0:社会変革」の4つのステップを経てDXが推進されている。
まずDX1.0では、オペレーション変革の最初の一手として、デジタルリテラシーの向上を目指した。
同時に「企業命題の浸透」を進めるために、同社ではトップが率先して動いている。CEOの西井孝明氏は「DXを推進しなければ、味の素は衰退してしまう」「味の素は『食と健康の課題解決企業』へと生まれ変わる」など、目指すべき姿をメッセージとして打ち出した。
とはいえ、トップがコミットするだけでは変革は進まない。各部署の社員1人ひとりに「自分ごと」として捉えてもらわなければ、変革行動は生まれないからだ。
自分ごと化を進めるため、福士氏は全社の意識改革プログラムを組んでいる。各本部長に方針を共有した後、社員が目標を設定。成果が出れば賞を与え、出なければ原因をつきとめ、個人・組織・事業を共成長させるサイクルを回し続けた。
意識改革と並行して、同時に研修型のDX人材育成プログラムを開始。各部署のデジタル化も推進した。こうして同社のオペレーションが少しずつ変化し始める。
DX2.0:事業エコシステムの変革
続くDX2.0で、同社は事業のエコシステムを変革している。変革前の味の素はいわゆる縦割り型の組織で、各部門に人とデータが張り付き流動していなかった。この状況を変えるため、組織体制にメスを入れたのだ。
「枠組みが固着している組織にいきなりDXを入れてもワークしません。そのため、個人や組織を解き放つイメージで、データを活用できる組織を目指しました」(福士)
取り組んだのは、組織のスマートネットワーク化だ。各部門にDXを浸透させて円滑にデータをやり取りできるようにした上で、部門同士が連結することを目指した。
さらに味の素は、提携するパートナー企業や研究開発機関を事業エコシステムの一部と捉え、提携体制にもメスを入れている。
その一例として紹介されたのが物流でのAI活用だ。味の素は製品を配送するために物流会社とパートナーシップを結んでいるが、各社の通信手段やデータ方式はバラバラで、効率よく連携ができていなかったという。情報を統合してスムーズな物流を実現するため、パートナー企業と組んでAIで情報整理を行うプロジェクトを進めている。
【次ページ】DX3.0と4.0、そしてDXの結果味の素に起きたこと
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