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都心のテナント劇場は“死ぬしかない”
2020年4月、全国の小規模映画館、いわゆる「ミニシアター」を守るためのクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」が立ち上がり、3億3,000万円以上を集めた。支援を受けた映画館は、全国118劇場・103団体にのぼる。
客足が減ったことによって、小さな映画館の経営が苦しくなる。これは容易に想像がつく。しかしA氏によれば、経営の苦しさは、必ずしも劇場の規模によらないという。
「たしかに、大きな映画会社の直営劇場であれば、自社で不動産を所有しているので、会社にある程度体力があれば劇場は維持できます。また、自社所有でなくても、親会社が不動産を所有していたり、グループ会社の不動産会社が関与していたりする物件の場合は、テナント家賃を一時的に下げるなどの措置もとってくれる。苦しいのは、そういうつながりがない劇場です」(興行会社・A氏)
つまり、中堅規模のシネコンチェーンであっても、苦しいところは苦しい。身内からの“思いやり家賃”を享受できないテナントの劇場は、すべて厳しいのだ。
テナント料すなわち家賃は固定費なので、たとえ劇場を休業して人件費や光熱費をカットしたとしても、毎月定額が出て行く。テナント料が高額の都心にスクリーンを持っているシネコンは、特に苦しい。
「劇場が入っている商業施設のデベロッパー側から乞われて入っている劇場は、まだ家賃交渉の余地がありますが、そうでない都心のテナント劇場は、誇張でなく“死ぬしかない”。新宿や池袋みたいな立地で、数スクリーンも持っていて、1日に客が100人とかって……。やりようがないという声が聞こえてきます」(配給会社・B氏)
新宿や池袋の目抜き通り沿い飲食店が、コロナ禍で軒並み閉店し、空きテナント地獄になっている──という報道は、昨年後半あたりからよく聞く。今のところ、都心のシネコンが即閉館という話は公に発表されていないが、今後、もしかして……という不安がよぎらないでもない。
消毒作業で上映回数が減る
この1年、A氏の興行会社が運営する劇場は、新型コロナ対策としてさまざまな施策を講じた。飛沫パーテーションや検温器の設置、間引きPOP(座席1席空けのため、座らせないよう座面に貼る紙)、ゴム手袋の着用、1時間ごとのアルコールによる拭き上げ、上映回ごとの座席アルコール消毒──。
当たり前だが、すべて設備導入・備品購入のための出費がかさむ。アルコールの拭き上げに至っては、スタッフを増員したために人件費も上乗せされた。なかでも痛かったのは、「上映回数が減った」ことだという。
「うちの大きい劇場は何百席もあるので、全席アルコール消毒するには、スタッフ総出でどんなに急いでも20分はかかる。最初は30分かかっていました。それによって上映と上映の間隔が空いてしまい、1日に上映できる回数が減ってしまうんですよ。これは痛いです」(興行会社・A氏)
ひとつのスクリーンで1日に上映できる回数は、映画の長さ(尺)で決まってくる。尺が長ければ3回、短ければ5回、といったように。入場料金はどの作品も基本的に同じなので、当然ながら、たくさんの回数を上映できたほうが動員数の最大値は上がる。「一般的に、長尺の映画は興収に不利」と言われるゆえんだ。
さらに、緊急事態宣言(2021年1月7日から/取材時点では継続中)下では厚労省ガイドラインに従い、20時以降にさしかかる上映をやめた。2時間の作品なら、18時以前に本編を開始しなければならない。これが、都心館にはかなりのダメージとなる。
「コロナ禍以前は、平日の都心館はレイトショーでの稼ぎも大きかったです。会社帰りに1本観て帰宅する、というお客さんの需要が高かったんですよ。ところが、リモートワークの方が増えたことに加え、出社していたとしても、18時台の最終回ではほとんどの方のほとんどの方の仕事が終わっていない。うちのある都心館は、オフィスビル街とターミナル駅との間にあるんですが、オフィスビルのサラリーマンを完全に取りこぼしています」(興行会社・A氏)
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