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  • 2020/06/23 掲載

コロナ・ショックで落ちたアマゾン、伸びたウォルマート

米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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新型コロナウイルス大流行による前例のない米経済活動の急停止や、白人警察官による丸腰黒人の殺害に端を発する全米規模の暴動の広がりなど次々と襲い掛かる事態に、米eコマース大手は即時の柔軟な対応を迫られている。そうした中、ロジスティックス、労務管理、オムニチャネル展開、品ぞろえなどの分野において企業の対応力の差が明確に現れ始めている。本稿では主に、一連の危機でオンライン売り上げのシェアを落としたアマゾンと、逆にシェアを伸ばしたウォルマートの事例を分析し、ポストコロナ時代の危機対応の要点を整理する。
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ウォルマートは1~3月期、大きく売上を伸ばした。EC競合のアマゾンと明暗を分けたものは
(Photo/Getty Images)


アマゾンのシェアは8%低下、課題は物流インフラ

 パンデミックによる前代未聞の都市封鎖(ロックダウン)が全米規模で実施される中、食料品を除く実店舗の営業が休止・規制され、米eコマース各社のオンライン売り上げは急増した。しかし、好調の中にも明暗が分かれたのが、eコマースの王者アマゾンと、それを急追するウォルマートだ。

 アマゾンの1~3月期のオンライン売り上げは前年同期比24%増と堅調な伸びを見せ、決して悪い数字ではなかった。しかし、ウォルマートの1~3月期のオンライン売り上げは前年同期比74%も増加し、その伸びの主要因が食料品によるものであった。

 最も重要なのは、アマゾンがオンライン市場におけるシェアをこの需要急増期に落としたことだ。楽天インテリジェンスの調べでは、コロナ危機以前のアマゾンのシェアが42%に上っていたのに対し、全米が最も深くロックダウンモードに入った4月中旬には、これが34%にまで低下したのである。

 この一時的なシェア低下の原因には、大きく分けて、(1)コロナ禍以前から兵站(へいたん)が伸び切っていたアマゾンの配送網が需要爆発に対応できなくなった、(2)ウォルマートの食品中心のビジネスモデルが巣ごもり消費にジャストヒットした、(3)ウォルマートの売れ筋の読みが的確であった、などが挙げられる。

 まず、アマゾンの配送インフラから分析しよう。3月中旬のロックダウンで食料品や医療品、生活必需品の需要が急増した際にアマゾンではそれらの品切れが続出し、待機リスト扱い急増によってプライム会員への約束である「翌日配達」が多くのケースで守れなくなった。生鮮の同日配達も多くの場合に不可能となった。

 この背景にあるのが、同社のジャスト・イン・タイムのサプライチェーンだ。商品の在庫数を最低限の水準に保っていたため品不足に陥りやすく、予期できなかったとはいえ、コロナ特需による商機の多くをみすみす逃してしまうことになった。

 また、中国のサプライヤーへの過度な依存による在庫補充の遅れ、便乗値上げをする出品者の商品を数百万点も削除したことなども、注文に応えられない要因となった。

 一方、激増する生鮮や食品、生活必需品のデマンドに対応するため、アマゾンが不要不急品に区分した商品やサードパーティー商品の配送が後回しにされ、最大1カ月もの遅れが生じたため、プライム会員の不興を買った。このため、多くの顧客がライバルのウォルマートやターゲットに流れ、アマゾンがシェアを落としたと推測できる。

 こうしたサプライ面での問題に加え、能力以上の配送拡大を行っていたことで、危機時にアマゾンの処理能力が低下した。この物流拡大路線は、米物流大手のフェデックスやUPSへの過度な依存を減らし、自前の配送網を築くことで逆にフェデックスやUPSから顧客を奪おうという壮大な構想に基づくもので、コロナ禍以前は高く評価されていたものである。

 米モルガン・スタンレーのアナリストであるラビ・シャンカー氏は2019年12月、「アマゾンは今後、自社サイトの荷物以外の一般の荷物も取り扱い始める」「2020年には米国内でのアマゾンによる配達物の取扱量がフェデックスを超え、22年にはUPSをも超える」との予想を発表し、話題になった。

 だがコロナ危機でアマゾンが大混乱したところを見ると、もともと配送網のキャパシティーにさほど余裕がなかったことがうかがえる。加えて同社は革新的な配送の試みである、小型無人機ドローンを使った無人宅配サービス「プライムエアー」(Amazon Prime Air)や、自走式の無人6輪配送ロボット「スカウト」(Amazon Scout)を危機以前からテストして来たが今回の事態には間に合わず、また対応もできなかった。

 結果として、配送量を減らすためにグーグル検索への広告出稿を削減。他社向け集荷配達サービスも休止し、商品購入時に「あわせて買いたい」として表示していたおすすめ商品の提案を中止して、あえて商機を見送る作戦に出た。


次々と繰り出す挽回策

 もちろん、アマゾンとしても手をこまねいていたわけではない。3月中旬に配送網が乱れ始めると、即座に経費増覚悟のキャパシティー増強の投資を配送センターや物流面で断行し、17万5000人の臨時スタッフを新たに雇用したほか、傘下の高級生鮮大手であるホールフーズ・マーケット(Whole Foods Market)の実店舗からの配送を増やすなどの手を矢継ぎ早に打ち出した。

 さらに6月4日には、航空貨物部門の「アマゾンエアー」(Amazon Air)に12機の新しい貨物機を追加し、保有する貨物機の数を80機以上に増やした。加えて、米ケンタッキー州の空港においては、2021年の稼働をめどに新たな物流ハブ(拠点)を建設中である。

 アマゾンのシェア低下は恐らく一時的なものであり、ウォルマートなどに奪われた客を取り戻すための派手な作戦を打つだろう。例年の7月から9月に順延されたプライムデーにおける思い切った値付けなどが、その反転攻勢の大きな契機になろう。事実、シェアを落としたとはいえ同社のプライム会員数は3月中旬に10%も増加しており、コロナ危機で利用回数も増加している。

 9月開催予定のプライムデーでは、魅力的なディスカウントと、「Amazonパントリー」商品に太っ腹の配送料免除(プライム会員向けの食品・生活必需品サービスで、会員でも本来は有料配送)などを組み合わせることで、顧客は帰ってくるのではないか。ウォルマートにはマネができない、プライム会員向けの動画配信サービス「プライムビデオ」がロックダウン中に大変好評であったため、アマゾンのブランドに対する信用が高まった面もある。

 一方、ミネソタ州ミネアポリスの白人警官のデレク・ショービン容疑者(44)が黒人男性ジョージ・フロイド氏(享年46)を5月25日に圧死させ、全米に「黒人の命は大切」のデモや暴動が拡散した際に、アマゾンが運営するインディアナ州ゲリーの配送センター(DIN2)付近でトレーラーが襲撃された。これを受けて同社は、該当の施設およびイリノイ州シカゴの配送センターなどを一時閉鎖するなど迅速な対応を行い、従業員と施設の安全を確保した。

 加えて、ミネアポリス、ニューヨーク、シアトル、ロサンゼルス、マイアミなど暴動が激化した都市において、自前の物流ドライバーに対し、「宅配を即時停止せよ」と指令を出し、不測の事態を回避したことは特筆される。配送が通常通り行われた都市においても、夜間外出禁止令が発出される場合には、自社のドライバーたちに配送途中で帰宅をさせた。

 コロナ危機では混乱が見られたアマゾンだが、人種暴動においては従業員に対して迅速かつ適切に対処したと評価できよう。

【次ページ】ウォルマートはなぜコロナ危機で勝者となったのか
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