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倉庫需要が止まらない。首都圏であれば、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)周辺など少し郊外に足を運ぶと、巨大な物流倉庫が多数建設されていることに気がつくだろう。10万坪単位の倉庫面積を持ち、トラックが上層階まで往来可能なランプウェイ施設を備えた「メガ倉庫」と呼ばれる物流倉庫が、次々と建設されているのだ。その倉庫内の業務遂行に不可欠なのが「倉庫管理システム(WMS)」だ。本記事では、WMSとは何かを解説するとともに、そこから見えてくる物流の最新事情をレポートする。
WMS(倉庫管理システム)とは何か?
国土交通省の「倉庫統計季報」によれば、2018年度末の1~3類倉庫(建屋型常温の普通倉庫)の全国総床面積は、5455万8000平方メートルに及ぶ。2017年度には453万7000平方メートル、2018年度には227万5000平方メートルが増床された。
旺盛な倉庫需要の背景には、アマゾンや楽天を筆頭に衰えを知らぬ通販ビジネスの拠点としてのニーズに加え、物流改革を図り、業務効率化を狙うメーカーや小売、商社などが、機能性と利便性のより高い倉庫を求めていることもあるだろう。
こうした倉庫内での業務遂行に不可欠で、かつ物流改革を下支えするのが、WMS(倉庫管理システム)である。
WMSは、「Warehouse Management System」の頭文字を取ったものだ。倉庫内で行われるすべての業務の生産性を向上させ、品質を維持するシステムである。「Warehouse」とは倉庫のことで、日本語では「倉庫管理システム」と呼ばれる。
一般的に、物流の5大機能として「輸送」「保管」「荷役」「流通加工」「包装」が挙げられる(これに「情報処理」を加えることもある)。倉庫は、この物流5大機能のうち「輸送」を除く4つを主に担う。
WMSは、作業員(自動倉庫などの機械が行うケースも含む)が行う「保管」「荷役」「流通加工」「包装」などの“作業”と、倉庫内にある製品・貨物等の“モノ”を結びつけ、適切に管理することで、業務生産性の向上および標準化を実現し、業務品質を維持向上する役目を担う。
WMSが求められる理由
倉庫内で行われる業務は多く、また複雑化する傾向にある。たとえば、「保管」にあたる在庫管理は、入庫・出庫(出荷)を管理し、倉庫内に実在する“モノ”に対し、在庫数を把握し続ける必要がある。倉庫作業を経験したことがない方には、想像が難しいかもしれないが、倉庫内に実在するモノの現在庫数を管理することは意外と困難だ。
単純に考えれば、ある時点での在庫数に対し、足し算(入庫)と引き算(出庫)を行い続ければ現在庫数は算出される。たしかに「朝イチで入庫して、夕方に出荷する」といったリードタイムの比較的長い物流であれば、現在庫数の把握はそれほど難しくない。しかし、たとえば通販のように、入庫と出庫が1日中行われているケースでは、分単位で現在庫数を管理し続けることが必要となる。
「流通加工」もしかり。たとえば、カー用品店などで販売されている洗車セットなどは、倉庫内でセットアップされ、出荷される。それぞれ個別に入庫したバケツ、カーシャンプー、カーワックス、スポンジ、拭き取り用ウエスを1つの製品として出荷するのだ。こうなると、製品入荷数5に対し、製品出荷数は1であるから、単純な足し算引き算では、現在庫数の計算は立ち行かなくなる。
主に生産管理において用いられる考え方に「QCD」がある。QCDとは、「Quality(品質)」「Cost(費用)」「Delivery(納期)」の頭文字を取ったもので、それぞれが三すくみ(トレードオフ)の関係にある。品質を求めれば費用上昇と納期の長期化は避けがたく、費用を求めれば品質と納期が犠牲になる……といった具合だ。
生産管理においては、「QCD」のそれぞれを、いかにバランスよく保ちつつ、最も重要な「Quality(品質)」をマネジメントするかが課題になる。
これは、倉庫管理においても同様である。
倉庫管理とは、突き詰めれば「モノ」と「作業」をいかに効果的に管理するかだ。仮に100個の在庫に対し、100人の作業員をあてがえば、誤出荷や破損等の問題は抑えられるだろうし(≒「Quality(品質)」の向上)、出庫作業等も迅速に終わるだろう(≒「Delivery(納期)」の短縮)。しかし、これでは「Cost(費用)」となる人件費がかかりすぎる。実際に、このようなぜいたくな運用を行っている倉庫は存在しないであろう。
しかしここでWMSを導入すれば、以下のように倉庫管理におけるQCDを向上させ得る。
- ハンディターミナル(コードなどを読み取る小型の入力端末)を利用して在庫管理を行うことで、在庫差異を減らし、また作業時間を短縮できる。
- 流通加工や包装など、作業の進捗(しんちょく)や生産性をWMSによって管理分析することで、より適切な作業員の人員配置計画を立案する。
- 現在庫数(現物在庫数)を適切に管理することで、引当処理(注1)を円滑に行い、欠品を防ぎ、在庫の適正化を実現する。
- 誤出荷や在庫差異が発生した際にも、WMSの記録を確認することで、その原因を追求できる。
WMSを利用することで、倉庫業務のQCDの底上げを図り、適切な運用計画等の立案にも活用できるのだ。
注1:「引当処理」とは、在庫に対し、出荷数を割り当てていくこと。たとえば、在庫数20に対し出荷数5を引き当てると、残りの在庫数は15となる。「残りの在庫数」のことを「引当可能在庫数」や「有効在庫数」と呼ぶ。
WMSの代表的製品と、その選定の基準
現在、さまざまなWMS製品が販売されているが、実際にWMSを導入する際の選定基準を考えつつ、代表的なWMS製品を紹介しよう。
グローバルに事業展開をしており、かつ各国で利用するWMSを統一したい商社やメーカーのケースでは、WMSに対してもグローバル展開を行っている製品を選びたい。「国内拠点にしかサポート対応はできません」などと言われては困るからだ。
代表的な企業は、マンハッタン・アソシエイツやインフォアだ。インフォアは世界中で6.8万社を超える顧客を持つ。対するマンハッタン・アソシエイツは、ガートナーのマジック・クアドラント(同社が定期的に行うマーケットリサーチ)において、11年連続で「リーダー」の評価を獲得している企業だ。どちらもワールドワイドのサポート体制を持ち、当然ながらマルチ言語/マルチ通貨に対応している。
一方の国産WMSは、物流系システム会社のWMS製品などが考えられる。「ONEsLOGI」(日立物流ソフトウェア)、「SLIMS」(セイノー情報サービス)などが該当する。それぞれ国内物流大手の日立物流、西濃運輸のシステム子会社が開発したWMSであり、システム開発能力も高い。カスタマイズを想定するのであれば、開発能力の高さは選定する上でも安心感につながる。
WMSの構築環境は、オンプレミスとクラウドのどちらにするかを考える必要がある。オンプレミス製品はどうしても高額になりがちだが、カスタマイズの柔軟性などが魅力だ。対してクラウド製品は、カスタマイズがしにくい製品が多いものの、比較的安価な製品が多い。
「ロジザードZERO」(ロジザード)や「クラウドトーマス」(関通)は、クラウド型WMSの代表だ。たとえば、「クラウドトーマス」の場合、月額7.5万円(2019年12月執筆時点)から利用が可能だ。小規模な事業者からでも利用しやすい上、WMSへのニーズが拡大すれば、規模に合わせて契約形態を見直せることも、クラウド型WMSの魅力である。
一昔前であれば、WMS導入は数百万円規模からの投資が必要であったが、現在は安価なWMSも増え、また性能や機能の選択肢も増えてきた。音声ピッキングやスマートフォンをハンディターミナルとして活用できるなど、新しいテクノロジーに対応可能な製品も増えている。
「導入の費用対効果が合わない」という理由から、これまでWMS導入を見送ってきた中小倉庫会社や出荷量の少ない現場などでも、WMSを利用しやすい環境が整ってきたといえる。
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