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過疎地の高校を魅力的な存在に立て直し、地方創生の拠点に変える島根県発の高校魅力化プロジェクトが全国に広がってきた。首都圏や京阪神など都会から生徒を集めるとともに、地域課題の解決型学習など特色ある教育に力を入れている。政府は年末に策定する地方創生の第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略でプロジェクトを柱に位置づける方針。青山学院大教育人間科学部の樋田大二郎教授(教育社会学)は「高校生が固定観念のない目で地域資源を掘り起こすだけでなく、住民も高校生の姿勢から柔軟な発想と頑張る勇気を得られ、地域の発展につながる」とプロジェクトに期待する。
学校存続の危機感じ、徳島・海部高校でも始動
「海がきれいで人情いっぱい。高校時代を徳島で過ごしませんか」
東京都千代田区のホテルであった都立中学高校受験相談会。その一角に徳島県海陽町の県立海部高校がブースを設け、藤川卓司校長が学校の魅力をPRする。海部高校のブースには10組、18人の生徒と保護者が訪れ、熱心に話を聞いていた。
海部高校は2004年、海部郡内の県立3高校が統合されてスタートし、2018年度からプロジェクトに取り組んでいる。理数科学科が2017年度、募集定員の半分しか入学生を集められず、将来の高校存続に危機感を募らせたのがきっかけだ。
海陽町は徳島県最南端にある農漁村。1950年には2万人を超す住民がいたが、2015年の国勢調査で約9200人まで減り、2040年には約5500人になると予測されている。
全人口に占める65歳以上のお年寄りの割合を示す高齢化率は2015年で41.8%。高齢化と人口減少の中、子どもの数が急減している。
プロジェクトでは先進例を参考に、県外から生徒募集を始めた。普通科、情報ビジネス科、数理科学科の3科で3学年合計約300人の小規模校だが、2年生は高知県から18人、1年生は高知、兵庫の両県と大阪府から12人が学んでいる。
男子バスケットボール部は県外出身者を中心にチームを編成し、全国大会に出場した。エースとして活躍するのが、数理科学部2年で身長193センチの細川翔平さん(17)。高知県南国市から入学しており「地域の人が応援してくれ、ありがたい。進学しても第2の故郷にしたい」と喜んでいる。
カリキュラムは遠隔授業やオンライン英会話で都会に負けない教育の質向上を図るとともに、生徒が地域に出掛けて課題解決や町のPR動画作成などに取り組んでいる。藤川校長は「進学や就職で町外へ出た生徒がいつか町へ戻り、地域課題を解決できるようになってほしい」と狙いを語る。
奈良県奈良市で開かれた全国高校生英語弁論大会では、数理科学科2年の谷口美空さん(17)が日本国際協力センター理事長賞を受ける活躍を見せた。谷口さんは海陽町宍喰地区出身。「色々な体験ができる海部高校に来て良かった」と笑顔を見せた。
プロジェクトには海陽町が全面協力し、毎年1,000万円程度の補助を出すほか、課題解決型学習に住民を挙げて力添えしている。三浦良海陽町教育長は「高校の危機は町の危機。県と町という行政の枠組みを超えて支援していきたい」と語った。
政府は第2期地方創生の柱に位置づけ
政府は6月、2020年度から2024年度を期間とする第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略の基本方針を閣議決定した。
定住や観光と異なる形で特定の地域とかかわる関係人口の創出や、ビッグデータなど最先端技術を生活基盤に導入する「ソサエティー5.0」の実現などとともに、プロジェクトを地方創生第2期の柱にしている。
基本方針では、プロジェクトを地域の将来を支える人材育成のための高校改革と位置づけた。地域課題の解決を通じた探究的な学びの実践、遠隔授業など先端技術を活用した教育の質向上、高校と地域の協働体制構築、全国から生徒を受け入れる地域留学の推進を目標に掲げている。
文部科学省によると、少子高齢化の進行で若者人口が減少し、離島や中山間地で高校を維持できなくなる事例が相次いでいる。2013年度から2017年度にかけて全国で毎年、35~47の公立高校が廃校となった。
高校が地域からなくなると、それを機に地域を離れる家族が出る。残された地域も高校生の姿が消え、活力を失う。高校で働く人がいなくなるだけでなく、高校に物品を納入する業者も影響を受ける。その結果、人口減少と地域の衰退に拍車がかかるわけだ。
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