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  • 2019/09/04 掲載

使われなさすぎ「企業版ふるさと納税」、減税幅9割で本当に変わるのか?

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地方自治体の事業に寄付した企業の税負担額を軽減する企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)の寄付額が伸び悩んでいる。2018年度の総額は34億円前後となる見込みで、年間5000億円を超す個人版ふるさと納税の受入額に遠く及ばない。北海学園大経済学部の西村宣彦教授(地方財政論)は伸び悩みの原因を「控除率が約6割にとどまり、返礼品もないため、企業にメリットが小さく、関心が広がりにくい」とみている。内閣府は打開策として減税幅を現行の約6割から約9割に引き上げるなどの制度見直しを2020年度税制改正要望に盛り込んだ。
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企業版ふるさと納税の寄付金で機械科を新設した岡山県玉野市の市立玉野商工高
(写真:筆者撮影)

三井E&Sホールディングスなどの寄付で高校に機械科新設

 瀬戸内海に面した岡山県玉野市玉の三井E&Sホールディングス(旧三井造船)玉野事業所。大正時代の1917年に創業して以来、造船の街・玉野を支えてきた工場だが、2018年から近くの市立玉野商工高機械科の生徒が定期的に通ってきている。玉野事業所に設けられた機械実習施設で作業を学ぶためだ。

 実習施設は鉄骨平屋建て165平方メートル。三井E&Sホールディングスが生徒の実習用に3500万円かけて建設した。内部には汎用旋盤やボール盤などさまざまな設備が並んでおり、生徒が三井E&Sホールディングスのベテラン作業員から操作の手ほどきを受けることもある。

 玉野商工高は2017年度まで玉野商業高という名だったが、2018年度から機械科を新設し、名称変更した。地域産業を支える人材を育成し、市内で就労する若者を増やすのが狙いで、財源には企業版ふるさと納税が充てられた。現在、機械科では1年生40人と2年生28人が学んでいる。

 玉野市によると、企業版ふるさと納税を活用してこの事業に寄付されたのは、2017年度が6社、7880万円、2018年度が4社、680万円。寄付金は実習設備の調達などに使用された。

 このうち、大口の寄付をしたのが、玉野市が創業地となる三井E&Sホールディングスで、創業100周年を迎えて地域貢献を考えていたことから、6500万円を提供した。実習施設の建設費を含めると総額1億円を投じた計算になる。

 人口約6万人の玉野市は若者の市外流出と人口減少に苦しめられている。三井E&Sホールディングスは「玉野市が地元で就労する若者を確保したいと考えているのに対し、弊社は人手不足で人材確保に苦労している。人材育成の必要性について双方の思惑が一致した」としている。

 この事例は企業版ふるさと納税の成功例に挙げられ、玉野市と三井E&Sホールディングスが内閣府の大臣表彰を受賞した。初の卒業生を送り出すのは2020年度末になるが、玉野市総合政策課は「市内で就労する若者を増やし、地域に活気を取り戻したい」と意気込んでいる。


実施自治体は全体の23%、2018年度の寄付額は34億円程度

 内閣府は玉野市以外の先進事例としてニトリホールディングスからの寄付でコンパクトシティを推進する北海道夕張市、ツルハ、武田薬品工業などからの寄付でサッカーナショナルトレーニングセンターのJヴィレッジ再整備を進める福島県などを挙げている。

自治体 事業 寄付企業
北海道夕張市 コンパクトシティの推進加速化と地域資源エネルギー調査 ニトリホールディングス
北海道美瑛町 日本で最も美しい村づくり推進による美瑛町活性化プロジェクト 北海道産地直送センター、ル・スティルなど
秋田県 世界遺産白神山地の保全を通じて「高質な田舎」を実現するプロジェクト アルビオン、アイビック、オリジナル設計
福島県 新生Jヴィレッジによる地方創生プロジェクト ツルハ、武田薬品工業など
茨城県境町 「河岸のまちさかい」復興プロジェクト ロイヤル化粧品など
石川県小松市 遊泉寺銅山跡活用プロジェクト 小松製作所
岐阜県、岐阜県各務原市 航空宇宙産業を支えるまち・ひと・しごと総合戦略、博物館を核とした航空宇宙産業都市魅力向上事業 JAぎふ、ライフサポート、川崎重工業など
兵庫県姫路市 姫路城周辺の保全・環境整備 イオン、ダイエーなど
島根県雲南市 「子ども×若者×大人チャレンジ」の連鎖による持続可能なまちづくり ベルテクノ
岡山県玉野市 たまの版地方創生人財育成プロジェクト 三井E&Sホールディングス、両備ホールディングスなど
広島県呉市 住みたい行きたいまちづくり事業 ディスコ
大分県杵築市 「世界農業遺産の里」が育む医薬生産基盤確立プロジェクト 龍角散

企業版ふるさと納税の主な事例
(出典:内閣府地方創生推進事務局「企業版ふるさと納税活用事例集」から筆者作成)

 内閣府は先進事例集を発行したほか、地方創生関係交付金の対象事業に寄付金充当を認めるなどして利用促進をPRしているものの、個人版のふるさと納税受入額が2018年度で5127億円に達したのに比べ、企業版ふるさと納税は34億円前後の見込み。伸び悩みは否めない。

 企業版ふるさと納税を募っている自治体は、都道府県と市町村を合わせて406しかなく、全自治体の23%にとどまっている。企業の寄付を募れるような事業が見当たらないなどとして実施を見送っている自治体が少なくないわけだ。

 企業版ふるさと納税は2019年度までの時限措置として2016年度に始まった。内閣府が認定した自治体の事業に企業が寄付すると、損金算入措置で約3割の税負担が軽減されるうえ、寄付額の3割が税額控除される仕組み。合計すると寄付額の約6割分の税負担が軽くなる。

 自治体は地域振興事業に企業の資金を呼び込むことができ、企業は創業地などへ寄付することで社会的貢献をアピールできるわけだが、普及を妨げる問題もある。

 1つは個人版の返礼品のような見返りがなく、企業が寄付のメリットを感じにくいことだ。さらに、企業が寄付する際、予算など詳細が固まっていないと申請ができず、企業の都合に合わせて申請するのも難しい。

【次ページ】国の補助金、交付金を受ける事業も認定の対象に
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