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2015年9月、国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ(以下、2030アジェンダ)」の中核をなす行動目標であるSDGs。今回は「ゴール5(ジェンダー平等)」「ゴール10(不平等の是正)」を取り上げます。この2つの目標はどちらも人権に深く関わっています。最近では、格差や不平等の是正が経済や社会に良いインパクトをもたらすことも分かってきました。この2つの持続可能目標を読み解きながら、国内外の状況や企業の取り組みを紹介していきます。
ゴール5:「ジェンダー平等」では“女性活躍”がキーワード
すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。
これは、1948年12月国連総会で採択された「
世界人権宣言」の第一条に記された基本的人権の考え方です。人は生物学的な性別の違いを除いて、すべて平等であることを説いています。SDGsでもこの考えに基づき、誰もが性別に関わらず平等に機会を与えられる「ジェンダー平等」な社会を実現を目指しています。
そもそも、ジェンダーとはどういう意味でしょうか。ジェンダーとは「社会的・文化的な性別」のことをいいます。社会が定義する「女らしさ」や「男らしさ」と言い表すこともできます。
分かりやすい例として、トイレの表示があります。女性は「スカートで赤色」、男性は「ズボンで青色」。これは社会的に定義された性差を表したものです。「おじいさんはしばかりに、おばあさんは川に洗濯に」という昔話の一説には、「男性は外で働き、女性は家を守るもの」という日本の伝統的な社会通念が透けて見えてくるようです。こうした性差による違いは、とりわけ女性の社会的な立場における「見えない壁」となり、さまざまな差別や不平等を生んできていました。
SDG5(ゴール5)の開発目標は、「ジェンダー平等を達成し、すべての女性および女児の能力強化を行う」ことです。ターゲットには「女性差別の完全撤廃」「暴力の排除」「望まない結婚の撤廃」「女性の能力強化や社会進出の向上」などが明記されています。宗教上の理由からもいまだ女性の権利や役割は大きく制限、または限定されているのが現状です。世界90ヵ国の統計によると、女性は男性に比べて、約3倍の時間を無償の家事と育児・介護に費やしているとの報告もあります。
日本でも、積極的に育児に関わる男性をわざわざ「育メン」と名付けてしまうほど、いまだ育児や家事の負担が女性に重くのしかかっているのが現状です。日本における女性就業の特徴の1つとして「
M字カーブ」現象が挙げられます。出産や育児を機に離職した後、再就職できない女性も多く、30代の就業率が低くなることにより、アルファベットのM字の形状に似た曲線を描くというものです。
また、女性雇用者の半数以上が非正規雇用であることも社会的な課題となっています。働いていない人の中で就職を希望する女性は300万人を超えると推計され、人口減少時代において女性の社会進出を制度や家族、地域が支え合うことが急務となっています。
日本は現状、ジェンダー後進国といわざるを得ません。具体的な調査結果にも現れています。男女格差の大きさを示す「
ジェンダーギャップ指数」(Gender Gap Index:GGI)では、 2018年は世界149カ国中110位、主要7カ国では最下位となっています。
そうした現状を解決するために2015年に制定された「女性活躍推進法」では、女性の管理職比率30%を目標としています。しかし、現状は11.3%にすぎません。ただし、推進法を契機に、企業の女性採用人数や昇進状況などがデータベース化されるようになりました(厚生労働省「
女性の活躍推進企業データベース」)。
また、年金積立金管理運用独立行政法人(
GPIF)などがESG投資の一環として、こうしたデータベースを活用して女性活躍に関する指標を設けて、評価を行う取り組みも始まっています。ジェンダー格差の解消は日本のGDPを約60兆円も押し上げるとの推計もあります。活力のある社会のためにも、働き方改革、固定観念からの脱却など多様な意識・行動変革が求められています。
ゴール10:日本の不平等は社会的格差と経済的格差の2つ
世界にはさまざまな不平等が存在します。生まれながらにして誰もが平等であるとする人権の考え方に基づけば、性別、年齢、障がいの有無、性的指向、人種、階級、宗教などを理由に、人の尊厳や教育、就業機会を奪ってはなりません。世界中で不平等の是正に対する取り組みが進められています。
また、経済的な不平等の拡大は、社会の不安定化につながることが指摘されています。近代資本主義社会においては、消費を支える重厚な中間層の存在が欠かせません。しかし、近年の「所得の再配分機能の低下」や「経済のグローバル化」により「持つ者」と「持たざる者」の格差が拡大しています。
2017年に創出された富の82%が最富裕層上位1%の手に入り、世界人口の約半分37億人が手にした富の割合は1%にも満たないとの報告もあります。不平等の拡大は、こうした状況をコントロールできない政治不信へと転化され、平等の価値を重んじる民主主義に対する諦めや社会の分断に連鎖しかねません。
SDG10(ゴール10)の開発目標は、「各国内および各国間の不平等を是正する」ことです。ターゲットには「経済的格差・社会的格差の是正」「金融市場や金融機関への規制とモニタリング」「開発途上国の地位向上」「移民対策」などが明記されています。法人税や所得税などの税率がゼロか極めて低い国や地域に資本を移動させる不透明なお金の流れ(タックスヘイブン)も不平等の温床になっています。
日本では、主にジェンダーやLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)、障がい者など社会的な格差に関する問題と、相対的貧困や非正規雇用、ワーキング・プアなど経済的な格差や、それに伴う教育や健康の格差の問題を抱えています。
人口約9%程度のLGBTについては、企業や行政の取り組みも増えてきました。たとえば、保険やローン、家の賃貸、携帯の家族割りなど契約に基づくものは、その対象は家族や配偶者など男女を基本としていましたが、これを同性パートナーまで範囲を拡大する動きも急速に広がっています。
一方で経済的な格差は、現在もなお進行中の問題です。雇用者の約3人に1人が非正規、約4人に1人(約1100万人)がフルタイムで働いても年収200万円以下の生活保護の水準以下の収入しか得られない「働く貧困層」と位置づけられています。
ユニクロ、高島屋、日本生命など大手企業には、将来の人手不足を見越して非正規雇用を正規に置き換える動きも見られますが、非正規と正規の賃金格差は年収ベースで約1.8倍(2016年)にもなります。こうした経済的な格差は個人の努力の問題に置き換えられがちです。しかし、経済的な将来不安による未婚者の増加や出生率の低下は、労働生産、納税、社会保障といった国の基礎体力を徐々に奪っていきます。人口減少時代において、多様性と活力ある社会経済を生み出す基盤として、格差や不平等の問題にどう取り組みむべきか、現世代の私たちに重い宿題が課せられています
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