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  • 2018/09/20 掲載

SDGsで貧困・健康問題をどう解決する?住友化学は蚊帳でマラリア対策に乗り出す

誰でもわかるSDGs解説

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SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)は国連が定めた17のゴールと169のターゲットから成り立ち、日本でも認知が広がってきました。本稿では「ゴール1(貧困)」「ゴール3(健康と福祉)」を取り上げます。世界では、毎年1億人が医療費の負担によって貧困化するなど貧困と健康は密接に結びついています。この2つのゴールを読み解きながら、国内外の状況や住友化学をはじめとする日本の取り組みについて紹介します。
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SDGsのゴール1「貧困」、ゴール3「健康と福祉」
(画像:国連広報センター)


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ゴール1「貧困をなくそう」は日本の問題でもある

 貧困の解消は、長年世界が最優先で取り組んできた課題です。

 現在、極度の貧困状態とされる1日1.25ドル未満で生活する人々は、世界で約8億人に上ります。1990年当時の19億人からは半減しましたが、依然として南アジアやサハラ以南のアフリカ地域では、十分な食料やきれいな飲み水、衛生施設を利用できない人々が多く存在しています。

 ゴール1の開発目標は、「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」です。ゴール1の下にあるターゲットには、絶対的貧困をなくすことに加え、雇用や教育、金融や資産へのアクセスの不平等の解消が明記されていることが特徴です。

 その理由は、社会的不平等が原因で女性は貧困状態に陥ることが多いからです。また、貧困層は居住地や居住環境がよくないことから、気候変動や災害などの影響を受けやすい立場に置かれており、こうした脆弱性を軽減することもターゲットとして明記されています。

 日本では、相対的貧困が社会問題化しています。相対的貧困とは、可処分所得のうち平均的な生活水準と比較して、さらにその半分(貧困線)に満たない人の割合を指します。厚労省によれば貧困線122万円以下の世帯は13.9%(平成28年)、子どもがいる現役世代のうち一人親のケースでは50.8%にも上り、1980年代より徐々に高まる傾向にあります。こうした背景には、1990年以降に非正規労働者の倍増や家計収入がほとんど上昇していないことなどが挙げられます。

 そして、親や世帯の経済的格差が子の教育格差や階層の固定化に連鎖する子どもの貧困の問題も顕在化しています。0~17歳の子ども約2062万人のうち、貧困状況にある子どもは約326万人、約6人に1人と推計されています。

 国は2013年「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を制定、2014年には「子供の貧困対策に関する大綱」を閣議決定して、官公民連携による支援策や制度の整備が進められています。経済同友会でも2017年3月に『子どもの貧困・機会格差の根本的な解決に向けて』という提言を公表するなど経済界にも問題意識が広がってきています。

 かつて、日本は「一億総中流」と呼ばれた時代がありましたが、その内実は徐々に変化しつつあります。しかし、人口減少社会においては、社会を支える層として「自ら働いて人間らしい生活を営むことができる」という、分厚い中間層の存在がなお不可欠です。GDPの約6割を占める消費の回復は、中間層の復活が鍵ともいえます。

 社会の安定や企業の持続的成長を支えるためにも、格差をできるだけ縮めていく方策が必要です。そのためには1人ひとりが働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)の実現が必要です。これは、ゴール8に相当する目標です。

急速に拡大する「子ども食堂」とは

 ゴール1「貧困をなくそう」に関する国内の取り組みとして、全国に広がる「子ども食堂」を取り上げます。

 農林水産省では、子ども食堂の定義を、「地域住民等(原文ママ)による民間発の取組として無料または安価で栄養のある食事や温かな団らんを提供する子供食堂等が広まっており、家庭における共食が難しい子供たちに対し、共食の機会を提供する取組(原文ママ)」としています。

 類似する活動にフードバンクがありますが、こちらはまだ食べられるにもかかわらず流通しなくなった食品を企業から提供を受けて生活困窮者に提供する取り組みです。

 子ども食堂は、食事の提供に加え、地域コミュニティでの子どもの居場所を確保する積極的な意義が認められ、近年急速に拡大しています。2018年4月「こども食堂安心・安全向上委員会」(代表 湯浅誠)の調査では、全国に少なくとも2286カ所が運営され、およそ100万人の子どもが利用している計算です。

 農水省の調査では、運営母体の約8割が自治体や社会福祉協議会の直営や委託ではない「独立した法人等による運営」であり、そのほとんどが地域や地区単位で自主的・自律的に行われています。そのため、運営はボランティアに支えられ、運営財源やスタッフの確保、教育機関や地域社会との連携や理解など恒常的な悩みを抱えています。

 いま、企業が子ども食堂の運営を積極的に支援する動きが広がっています。具体的には、社員ボランティアの提供、食材や食材購入費の提供、運営活動資金の提供、事務ノウハウの提供、会場の提供など多岐にわたります。

 たとえば、 キユーピーみらいたまご財団は、「みらいを生きる力を食を通じて育むこと」を理念とし、かねてから、食育や食を通じた居場所づくりなど、多様な社会課題の解決を支援しています。

 同財団は、2017年度から子ども食堂を運営している組織や団体への助成を通じて団体の立ち上げ支援や設備購入、そして活動定着に向けたネットワーク形成などを支援しています。また、「地域の居場所づくりサミット」の開催を通じて、関わる人々の連携や協働の可能性を拡げています。

 活動助成は、公益財団法人オリックス宮内財団も関西地区を中心に同様の支援に取り組んでいます。また、長野県では、地元JAから規格外農産物などの出荷できない農産物を譲り受ける取り組みや、直売所やAコープで購入した食材などの費用をキャッシュバックする形での支援もはじまっています。

 残念ながら、企業による支援は、自治体や社会福祉協議会などに比べるとまだ少ないのが現状です。しかし、食材の提供と会場の提供だけで運営費が大幅に楽になることも明らかになっています。

 食は、栄養機能だけでなく、興味・関心や意欲の向上など心身の健康に大きく寄与します。また、草の根の取り組みは、地域の顔が見える関係をつくり、子どものみならずお年寄りも含めた地域のコミュニティ形成に寄与します。貧困はなかなか目に見えにくい問題ですが、いま手元に実在する問題として、保健・福祉、労働、教育など複数の視点での社会一体となった取り組みが必要です。

【次ページ】「ハイテク蚊帳」でマラリアに立ち向かう住友化学
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