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アップルにとって2018年は、トランプ大統領の大型企業減税により500億ドル分の節税という巨額の「ボーナス」で大いに潤っただけでなく、米史上初の時価総額1兆ドル超えの偉業を達成した年でもあった。一方、主力のiPhone販売の減速、ハードウェア企業からサービスプロバイダーへの軸足移行の加速など質的な変化が明らかになった1年だった。また、米中貿易戦争の勃発による「中国というアキレス腱」は、大きく同社の命運を左右する。アップルは2019年にどのような方向に進むのか。
一兆ドル超えから一転、暗い影
アップルにとって2018年は、輝かしい記録を打ち立てた1年であった。8月2日、米国で242年間現れなかった時価総額が1兆ドル(約111兆円)を超える企業の1番手となったからだ。
さらに同社は、米トランプ政権が2017年12月に成立させた包括的税制改革法により、多大な恩恵を受けた。最高法人税率は35%から21%へと大幅に引き下げられ、アップルが海外での利益を米国に持ち帰る際の税率も、さらに低い15.5%になった。これにより、同社は500億ドル(約5兆5453億円)を節税できると試算された。
アップルは米国に持ち帰る現金の約12%に当たる300億ドル(約3兆3000億円)を向こう5年間で、米国内に新社屋の建設やデータセンターの増設に投資するほか、新規に2万人の従業員を雇用すると言明した。事実、2018年12月にはテキサス州オースティンで10億ドルを投じて新たな拠点を建設し、5000人を雇用すると発表している。米経済にマネーを還流させる肯定的な施策だ。
しかし、こうした絶好調の中でアップルには暗い影が忍び寄っていた。11月1日に公表された10~12月期の売上見通しは、XRなどiPhone新機種の不調を反映して、アナリスト予想の927億ドルを下回る890~930億ドル(約10兆~10兆5000億円)だった。
アップルの業績分析で最も信頼されるアナリストである、中国のTFインターナショナル証券所属の郭明錤(ミンチー・クオ)氏が12月14日に発表した予測では、2019年1~3月期のiPhone出荷台数予測が4700~5200万台から20%も引き下げられ、3800~4200万台になるとされた。2019年の通年では、予想を5~10%下回る1億8800万~1億9400万台に落ち込むとの弱気な分析だ。
スイス金融大手UBSが2018年10月に世界5か国で6900人を対象にした調査では、「新しいiPhoneを購入したい」と回答した人が2017年の21%から18%へと低下している。
こうした推測をアップル自体が認めたのが、1月2日の「アップルショック」だ。同社は、890億~930億ドルとしていた2018年10~12月期の売上見通しを大幅に下方修正して、従来のガイダンスを最大10%下回る840億ドルになると警告した。アップルは、中国における売上減速を主な理由に挙げた。これを受けてアップル株は約10%も下落し、これにつられた翌日のダウ平均は660ドル安となった。
2019年にはライバルのスマホOSであるアンドロイドが次世代通信規格である5Gを先行搭載することで、アップルに差をつけると論じる記事も現れた。一方で、米調査企業コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズ(CIRP)のアンケートでは、新機種のX、XSとXRの全体的な需要は比較的低いものの、従来より多くのアンドロイドユーザーが購入をしていると報告されており、予測はまだら模様である。
こうした中、アップルはiPhoneとiPad、およびMacの販売台数の公表を2019年度から停止することを明らかにした。この方針は、従来のハードウェア販売が主力の「量的業績」ではなく、ハードウェアとサービス両方によるアクティブユーザー当たりの売上利益率という「質的業績」で評価を得たいアップル経営陣の意向を反映している。
この基準は、ソーシャルメディア大手フェイスブックやケーブルテレビ・情報通信・メディアエンターテイメント大手のコムキャストも採用している。
アップルが進める評価基準の変更が投資家に受け入れられれば、飽和状態に達したスマホ市場において買い替えサイクルの長期化したiPhone販売台数の変動に毎四半期、市場が一喜一憂してアップルの株価が乱高下することもないというわけだ。経常的・反復的に生じるサービス収益が、売り切りのiPhoneに取って代わる日も近い。
これは、ハード売上の横ばい傾向や鈍化に対応して「サービス企業」へと急速に変化を遂げているアップルの、長期的な経営視野に立った業績の新しい計測方法であり、公開済みのアップル株の5%を保有する世界最大の投資会社バークシャー・ハサウェイの最高経営責任者(CEO)である「投資の神様」ことウォーレン・バフェット氏のような長期保有を前提とした投資を奨励しているようにも見える。
「サービス企業」化で高収益へ?
近年、アップルの製品はイノベーションや改善が最低限にとどまる一方で高価格化していることが批判を受けてきた。アップルの共同設立者の一人であるスティーブ・ジョブズの作り上げたブランドや世界観の賞味期間切れや、同社がユーザーを囲い込む「エコシステム」の限界が意識されるようになったと言えよう。
こうした中、米投資大手ジェフリーズのアナリストであるティモシー・オシェア氏は、アプリ販売のApp Store、オンライン決済のApplePay、クラウドストレージのiCloud、音楽ストリーミングのApple Musicから成るアップルのサービス部門が、現在の18%から2020年には25%に成長し、売上原価および直接経費を引いた同社の売上総利益の40%を占めるようになると予測する。
事実、別のジェフリーズの分析は2019年通年のiPhone売上台数予測を従来から3%下方修正しながらも、向こう5年間の売上総利益率は市場のコンセンサスである56%から上方修正した60~66%としており、サービス企業への移行がスムーズに進むと見ている。
特にApp Storeが向こう5年間で年平均成長率が19%と著しく伸び、2023年の売上は320億ドルを超え、売上総利益率は80%に達するとされる。一方、iPhoneやiPadを保有するユーザーでApple Musicのサブスクリプションを利用するのは全体の5%に過ぎず、伸びしろがある。そのため、Apple Musicは向こう5年間で年平均成長率が34%とより大きな成長が見込まれる。ただし、売上総利益率は19%とApp Store には及ばない。
競合8300万人の有料会員を擁するSpotifyに殴り込みをかけているApple Musicの会員数は5600万人と、数か月間で600万人以上増やしており、勢いがある。Spotifyの3500万曲を上回る4500万超という楽曲の豊富さ、そしてSpotifyでは聴けないアーティストのパフォーマンスを独占配信する強みがあり、Spotifyを逆転する日は近いように見える。
さらに、アップルは従来閉鎖的だった自社のエコシステムの壁を低くし、アマゾンのスマートスピーカーEchoでApple Musicを楽しめるようにした。サービス企業になるためには、ハードウェアの壁は越えなければならないからだ。また、スマホ分野で長年の仇敵である韓国サムスン電子製のスマートテレビで、動画ストリーミングのApple TVが視聴できるようになる。サービス企業になるためには、ハードウェアの壁は越えなければならないからだ。
また、新たなサブスクリプションサービスとして、新聞や雑誌の購読サービスを2019年に開始すると伝えられている。
こうした積極的な施策もあり、ジェフリーズの予測ではアップルの一株当たり利益が2023年に現在の2倍近くの22ドル19セントに達する。一部のアナリストがアップルのサービス企業化を「高収益化」と見ていることがわかる。
他方、アップルがサービス企業化する中で新聞や雑誌、個人や団体のポッドキャストの配信を増やすことは、アップルをフェイスブックやツイッターのような「メディア企業」にする。
たとえばアップルは8月に、白人至上主義団体を率いるアレックス・ジョーンズ氏のポッドキャストを閉鎖した。クックCEOは12月に改めて、「アップルのプラットフォーム上でヘイトを許さない」と述べた。
アップルはメディア企業や検閲への一歩を2018年に踏み出したのであり、事実上の言論の取り締まりによる批判や風評リスクも増えることは注意が必要だろう。
【次ページ】アップルは中国リスクに弱い、新規事業の可能性は?
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