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米アップルが、今後の決算発表において販売台数の公表を取りやめる方針を明らかにしたことで、株式市場に動揺が広がっている。上場企業がこれまで開示していた情報を開示しなくなるのは、その事業が転換点に差し掛かっているケースが多い。上場企業の開示情報は投資家だけのものではなく、消費者や労働者にとっても重要である。企業が公器だというなら、情報はできるだけ広範囲に開示されるべきものであり、投資家はもちろん、消費者や労働者も粘り強く企業に対して情報開示を求めていくのが望ましい。
アップルショックの最大の原因は開示取りやめ?
アップルが11月1日に発表した2018年7~9月期決算は、売上高が前年同期比19.6%増の629億ドル(約7兆1200億円)、純利益は31.8%増の141億2500万ドルと、7四半期連続の増収増益だった。一見すると絶好調の決算であり、株価もさらに上昇するかと思われたが、結果はまったく逆であった。
米国の株式市場全体が10月以降、軟調に推移しているという理由もあるが、アップルの株価は決算発表直後から大幅に下落している。決算自体は良好だったが、主力のiPhoneの販売台数は4689万台とほぼ横ばいとなっており、単価の上昇によって何とか増収増益を実現したのは明白であった。
こうした中、次回の決算から販売台数を公表しない方針が示されたことで、多くの投資家が今後の販売戦略に不安を感じ、株式を売却したものと思われる。同社では「販売台数は業績を示す適切なデータではなくなっている」と説明しているが、額面通りに受け取る人は少数派だろう。
上場企業がこれまで開示していた情報を開示しなくなるのは、業績の伸び悩みが懸念されるタイミングである、というのは投資の世界ではほぼ常識といってよい。
アップルの場合、基本的にiPhoneというハードウェアを売る典型的な製造業であり、iPhoneにほぼすべてを依存する一本足打法の経営となっている。主力製品の販売台数が分からないというのは、投資家のみならず、同社のステークホルダー全員にとってマイナス要因といってよいだろう。
開示を取りやめれば、販売台数についてアナリストや記者から厳しい質問を受けることはなくなるかもしれないが、業績面でよほどの数字を残さなければ投資家からの評価は下がる。アップル側が公表を取りやめても、調査会社などは独自にデータを算出して数字を公表するので、おおよその台数は分かってしまう。
このまま株価が低調に推移した場合、台数の公表をやめた時が株価のピークという結果になる可能性は高いだろう(それが株価下落の直接的原因でないとしても)。
楽天もECサイト事業の開示をやめた時が株価のピーク
著名企業による開示取りやめが株価の折り返し地点になったというケースは日本でも観察されている。
楽天は、主力のECサイト「楽天市場」の流通総額を開示していたが、2015年の第3四半期から楽天市場単体での開示をやめてしまった(楽天トラベルを加算)。楽天市場単体の開示に意味がなくなったというのが楽天側の説明だが、楽天市場の伸びが鈍化したことが、開示をやめた原因との認識がもっぱらである。
その後、2016年12月期は大幅な営業減益となり、株価は2015年をピークに下落を開始。現在では1000円以下と半分になっている。もっとも全社的な業績という点では、クレジットカードやネット銀行など金融事業が拡大し、2017年12月には営業利益が大幅に増大している。
だが、同社は国内でEC事業を展開する企業イメージが強く、国内EC事業の営業利益が伸びないと投資家は強く反応しない。楽天は2017年末に携帯電話事業への参入を発表し、国内事業のテコ入れを図っているが、これが吉と出るのか凶と出るのか、現時点では何ともいえない。
携帯電話事業は先行投資が大きく、すぐに高収益事業に育てられる保証はない。しかも安倍政権が携帯電話料金の引き下げを強く迫っており、後発の楽天は、当初の予定以上に低価格でのサービス提供を余儀なくされる可能性もある。
アップルと同様、開示の取りやめが直接的な株価下落の原因になったわけではないだろうが、長期的には開示取りやめのタイミングが株価の折り返し地点になったという現実は否めない。
投資家が損失を被ると年金が減額されるという厳しい現実
企業の情報開示については、あまり細かい情報を開示すると、市場の関心が短期的な部分に集中し、その数字に一喜一憂するのでよくないとの意見もある。販売台数や流通総額を開示すると、その数字ばかりに注目が集まり、長期戦略が正しく理解されないという。
一見すると正しい意見に思えるが、このロジックには大きな落とし穴があるので要注意だ。
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