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  • 2018/10/23 掲載

竹内郁雄 東大名誉教授に聞く、なぜ未踏の若手発掘はうまくいったのか

連載:2030年への挑戦

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国連は2015年に、2030年までの目標として「持続可能な開発目標(SDGs)」を発表した。労働人口が減少し、超高齢者社会を迎える日本。われわれが持続可能であるためには何が必要なのか。2000年から18年にわたり「未踏事業」で若手の発掘・育成に取り組んできた竹内郁雄氏(東京大学名誉教授、IPA未踏IT人材発掘・育成事業 統括プロジェクトマネージャー、一般社団法人未踏 代表理事、ギブリー技術顧問)に、未踏が果たしている役割と、持続可能な社会を実現する条件を聞いた。
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東京大学 名誉教授
IPA未踏IT人材発掘・育成事業 統括プロジェクトマネージャ
一般社団法人未踏 代表理事、ギブリー技術顧問
竹内郁雄氏

若手にこそイノベーションが必要

――イノベーションを生み出す若者の発掘・育成をする未踏事業に草創期から携わっておられます。まずは、竹内さんの未踏事業での役割を教えてください。

竹内氏:私は、未踏が始まった2000年から約10年間、現場のプロジェクトマネージャーとして若い人たちの面倒を直接見ていました。統括プロジェクトマネージャーの重要な役目は制度設計ですが、今でもしばしば合宿やミーティングの場に出かけ、若い人の話を聞いています。

 超高齢社会では若い人がイノベーションを起こさないと閉塞してしまいます。少数派である若い人の存在価値を“持続可能”にするためには、彼ら自身がイノベーションを起こして、自分たちの存在意義を確立していくことが重要です。

――この数年で未踏の役割はどう変化しましたか?

竹内氏:未踏は2000年にミレニアム・プロジェクトとして始まりました。当時、未踏以外にも数多くのプロジェクトがあったのですが、多くは3~4年で終了してしまいました。未踏だけが19年目に突入しています。未踏には、若い人を育てていくという教育的な面があります。「教育百年の計」という言葉が示す通り、この事業は5年で終わってはならないものなのです。

 とはいえ、最初から未踏だけが突出して注目されていたわけではありません。最初の5年間くらいは、(未踏の存在は)産業界にほとんど知られていませんでした。10年目くらいから、未踏出身者が社会で活躍することで、「未踏の人は優秀だ」と知るIT業界の関係者が増えてきたのです。

 その典型例がスタートアップ企業のPreferred Infrastructure(現:Preferred Networks)です。小さい企業ですが技術力が認められ、トヨタのような大企業から支援を受けました。「CEO(代表取締役兼CEO西川徹氏)は未踏出身だ」という評判が広がり、未踏の人材が世の中で目立つようになったのです。

 未踏は独創的な才能を持った人を個人として伸ばすプロジェクトです。将来は研究者になってもいいし、企業に入ってもいい。未踏出身者は、起業する人、企業に入る人、大学の先生になる人が、比較的均等にいるのです。人材流動性があまり高くない日本において、異業種コミュニティのようなものができることは、未踏のよいところだと思っています。

画像
未踏の仕組み
(出典:IPA


“奇人”である必要はない

――未踏の価値が広く認識されてきた一方で、未踏のような長期的な視座での取り組みが減ってきて、短期スパンで結果を期待されることが増えていると感じます。

竹内氏:ビジネス環境の変化はすごく速いので、1つのことに対してじっくり取り組めない状況はあります。しかし私は、大人が忍耐強く若い人の成長をサポートして、見守らなければならないと思っています。

 私が研究者になったころの方が、短期的な視点の人は少なかったように感じます。20世紀末までは、長期的に見守る姿勢が(産業界全体に)あったと思います。1980年代は大手電機メーカーが研究所をたくさん作りましたが、その後は徐々に減ってしまいました。これが短期的視点の始まりだったのかもしれません。

――成功する人に共通点はありますか。

竹内氏:未踏出身者も含めて、IT業界で成功する人には、とんでもない奇人はそんなにいません。社会的な適応力を身につけた人が多いんです。適応力がないと、よほどよい相棒がいない限り成功しないと思います。

 また、その時点での自分に満足せず、次のことをずっと考え続けられるハングリー精神も必要です。好奇心とハングリー精神が両輪になって動かされるのです。植物に水をやるようなもので、環境があればハングリー精神は出てくると思います。

 たとえば、私が代表理事を務める一般社団法人未踏では、「未踏ジュニア」というプロジェクトを2年ほど前から実施しています。17歳以下が対象で、小学校5、6年生と高校2年生が同じ場に集まります。すごい人の集団の中に投入されて刺激を受けることで、新しい技術に挑戦するガッツが出てくるのです。IPAの「セキュリティ・キャンプ」でも、同じことが起きています。これは22歳以下の学生を対象に4泊5日の合宿形式で行なっており、参加者同士のつながりがとても強いです。

――そういう場を用意できる取り組みはあまりないかもしれません。


竹内氏:今、企業もハッカソンやアイデアソンをしていますが、もう少し長期で行う必要があります。私が2016年に組織委員長をしていたJPHACKS(ジャパンハックス)には、「Hack Day」というイベントがあります。これは、2日間でものを作り、すごいアイデアを出した人は3週間後にAward Dayという本選に出られるというものです。何週間レベルで1つのプロジェクトに関わってモノを開発できるので、中身が濃いのが特徴です。

【次ページ】介護技術の進展で若い人が活躍できる環境を
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