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スマートフォンの普及によって人びとが常に何らかの情報に触れている時代となった。Webの閲覧時間が増えるのに従ってWebメディアの数も増えているが、中には注目を集めることだけを目的としているものもあり、ユーザーからの信頼は低下している。これからWebメディアとユーザーとの関係は、どうなっていくのか。Webメディアを通時的に観測し、「情報の価値とその収益化」を研究してきた東京経済大 佐々木裕一 教授に、10年後となる「2030年のメディア」について聞いた。
ロングトレンドは「メディアから仕組みへ」
──過去から現在、そして未来にかけて、ロングトレンドの変化をどう見られていますか。
佐々木裕一氏(以下、佐々木氏):「メディアから仕組みへ」という流れになっていると思います。
少し話がそれますが、私は電通でキャリアをスタートして、そこからNTTデータのグループ会社に勤めました。それで分かったことは、インターネットを「メディア」として見る人と、「情報システム」と見る人では全然違うということです。
電通にいたころから90年代末まで、私はインターネットを、何らかの情報をユーザーに提供する「メディア」としてしか見ていませんでした。しかし、NTTデータグループに入ると、まず業務があって、それを自動化・効率化するためにインターネット上の「情報システム」を使うという考え方をしていて、新鮮でした。つまりインターネット上の仕組みによって、人と人とのやり取りや自分自身の何かを効率化する、という考え方です。
話を戻すと、メディアの理想は「発信される情報によって人びとの考え方が少し変わったり、行動に結び付いたりすること」です。ただ、今のWebメディアの現実はそうではない。多くのユーザーにとってメディアはただの暇つぶし用で、しかもそこにはろくでもない情報があふれています。一般ユーザー向けのメディアの収益化を助けるネット広告のイノベーションが先に進んだ事情もあるでしょう。
だからネットを活用した情報システムの役割の中心は今後、情報を受信するだけの「メディア」の役割から、人の行動を効率化する「仕組み」の役割へと移っていくと見ています。
Webメディアの多くの経営者は皆、中規模メディアをやっていても先細りということは分かっているのですが、ではどのようにして一般ユーザー向けに価値を提供するか、そこを模索している段階です。一気に「仕組み」化への流れが顕在化することはないと思いますが、いずれはそうなっていくでしょう。
“移動”が新たなテーマに、起点は“地図”だ
──その「仕組み化」に成功している企業はありますか?
佐々木氏:まず思いつくのは、メルカリですね。「CtoCでの物の売買を、オークションではなくワンプライス、しかもスマホで楽にする」という取り組みを、6、7年前から行っています。「物販」は仕組みの最たるもので、世界的にはアマゾンの土俵ですが、日本でのCtoC分野の一番手はメルカリです。
また物販に必須の「決済」。個人的には「マイクロペイメント(少額決済)」に注目しています。銀行手数料がかからない少額決済のシステムが確立すれば、かなりの潜在力を持つと考えています。ただ一方で、決済は汎用(はんよう)的なインフラであるため、あまり「仕組み」として理解されないという課題もあります。クレジットカード決済のシステムは普通の人からは何をやっているか見えにくい。
それから人の移動、「MaaS(Mobility as a Services)」も可能性はあると思います。イメージが付きづらいかもしれませんが、地図サービスあるいはメディアが起点になるのではという予測をしています。
今は、たとえば飲食店を選ぶときは「食べログ」を見るように、Webサイトの分野で絞って検索していると思います。ですが、いずれのサイトを見たとしても、移動する際にはまず地図を見ますよね。
すでにグーグルはそこに「Googleマップ」という手を打っています。Googleマップのような「地図」を起点として、そこにいろいろな情報が付加されて今とは違う形のポータルになる可能性は高いと見ています。
実際に日本語圏でも、Googleマップ上に飲食店がどんどんプロットされ、ストリートビューで店内まで公開しているお店も増え、地図でお店を検索する人も多くなってきました。「スーパーアプリ」(日常生活で使うさまざまなサービスが統合されたアプリ)をどういう形にすべきか事業者は模索していると思いますが、実は地図がそのコア機能になるかもしれません。
【次ページ】“ちゃんとしたメディア”が続いていく時代になる理由
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