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  • 2018/07/31 掲載

夏野剛氏の2030年予測:「真逆の戦略」で日本は競争力をつかみ取れ!

連載:2030年への挑戦

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国連は2015年、貧困や飢餓の撲滅、質の高い教育など17の目標からなる「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals、以下SDGs)を掲げた。そして、そのゴールを2030年に設定している。この実現に向けて世界の中の日本はどう動くべきか。時代に先駆けてiモードなどに取り組んだ夏野剛氏はこの問いに「海外と国内向け、まったく正反対の戦略で大きなチャンスをつかみ取れ」という。一体どういうことか、詳しく話を聞いた。
聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 松尾慎司、執筆:吉田育代

聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 松尾慎司、執筆:吉田育代

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慶應義塾大学政策・メディア研究科 特別招聘教授 夏野剛氏

海外と国内で取るべき「真逆の戦略」とは?

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 2030年といえば、日本では少子高齢化社会がかなり進み、世界に類を見ない課題先進国になっているでしょう。一方、世界は新興国を中心にまだまだ経済発展していきます。世界が向き合う課題と日本が直面する課題がまったく異なるわけです。これはチャンスです。誰も経験したことがない事態を日本は真っ先に経験できるのですから。これを利用して、これからの日本は「両面作戦」を推進すべきです。

 両面作戦というのは、海外向けと国内向けでまったく正反対の戦略を持つということです。具体的には、海外では新興国向けに日本が今まで築き上げてきた成熟した仕組みを展開し、一方で、国内では世界最先端の少子高齢化社会に対応すべく、これまでとは違う新しい仕組みを構築するということです。

 2030年までの約10年、このような国内改革に思い切り力を入れれば、日本を追ってくる少子高齢化社会の国々、たとえば中国や韓国にそれらを展開できるため、またそれが大きなチャンスとなります。反対に失敗すれば、そのあと50年、日本は国際競争力を失って低迷を続けることになります。

 そんな器用なことができるのか? 大丈夫、日本にはお金があって、技術があります。海外に向けて展開できることはたくさんあります。たとえばエネルギー分野や環境分野。日本はすぐれた浄水技術を持っています。食糧開発もそうですし、教育に関しても、質が一定という点では完成された教育プログラムがあり、これが新興国に有効です。

 ただ一方で、国内作戦の実行に関しては、大きなマインドチェンジが必要です。平成の30年間、日本は失われた時間を過ごしてしまいました。

 特に後半の20年はひどく、ほとんど経済成長できませんでした。人口が大きく変化してないので、成長できなかったと言うことは生産性が上がらなかった、ということを意味します。それというのも、昭和時代に作られた仕組み、たとえば大企業という組織、雇用形態、年金制度など、できるだけ維持することに汲々としてきたからです。IT革命でテクノロジーは進化し、それを活用してきたにも関わらず、人類史上初めて、テクノロジーの大幅な進化が生産性の工場に繋がらない時代を作ってしまったのです。

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「日本は海外向けと国内向けでまったく正反対の戦略を持つ
『両面作戦』を推進するべき」と語る夏野氏

昭和を引きずった古い仕組みを企業は全面的に見直すべきだ

 今こそ日本は大きく変わる必要があり、昭和の時代に築き上げた仕組みを全面的に見直していかなければなりません。

 まず必要な発想はロングレンジの投資です。今、日本の上場企業だけで400兆円もの内部留保を持っているといわれていますが、こんなにもお金があるのはロングレンジの投資を嫌うからです。以前ならこれは日本の得意分野だったのに。

 たとえばアフリカ。今現在の為替レートではこの市場での売り上げが小さすぎるため、日本から人材を派遣するだけでもう採算が合いません。しかし、今後確実に所得は向上するし、消費レベルも上がってくるから、将来の市場であることはわかりきっているのに手を打てない。

 このマインドセットを完全に変えないことには今後の成長はありえません。僕からみれば(2030年を目標とした)SDGsですら近視眼的です。ショートレンジの投資のみで解決できそうな指標が並んでいますが、もっと長い目でとらえた指標も入れていくべきです。

 なぜこれを嫌うのか? これはサラリーマン経営者が増えているからで、彼らの任期期間はせいぜい4~6年。その間に結果を出せる施策のみに集中しようとして「大局観」を持てないのです。しかし、ロングレンジの投資は非常に重要なポイントで、これなしに日本の未来の競争力を考えることができません。

 もう一つ、経営者に提案したいのは、物事を“what if”で分析することです。これは過去を含めてそうです。“今まではそんなことを考えてもみなかったが、もし仮にそれが起こったら、または起こっていたとしたらどうか”と自問自答してみるのです。

 たとえば、あのときJALの経営不振を救わなかったとしたら、その後どうなったか。もしかしたらそこにいた人材がLCCをどんどん立ち上げて、日本は今ごろLCC大国になっていたかもしれません。

 もし、リーマンショック後、どこかの金融機関をそのまま破綻させていたらどうなっていたか。それがかえってイノベーションを促して、今ごろFinTech先進国となっていたかもしれません。

 僕は企業にも新陳代謝が必要だと考えています。大企業が潰れても人や雇用は残ります。守ることばかり考えず、壊して次へ行く、という発想を持たないと、結果的に不利益を被るのは国民全体です。

 業界団体が既得権益を守ろうと必死になるから、日本ではUberもAirbnbも思いどおり使えません。業界団体などという存在そのものが、昭和の発想で古いんです。

【次ページ】日本の社会そのものも大改革の必要あり
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