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すき家のカレーや吉野家の鯖みそ定食など、牛丼チェーン各社が牛丼以外のメニューに力を入れている。背景にあるのは牛肉の値上がりである。中国がトランプ政権から圧力を受けて、牛肉の輸入を拡大したことから牛肉の価格が高騰。価格高騰は長期にわたって継続するとの見方が強まっている。アジア地域の旺盛な需要によって、日本は魚介類の調達が年々、難しくなっているが、魚介類に続いて、いよいよ牛丼も食べにくくなる時代が到来するのだろうか。
まんざらウソでもなかった吉野家のエイプリルフール
このところ牛丼チェーン各社が、牛丼以外のメニューに力を入れていることは多くの人が認識しているだろう。すき家は以前からカレーをメニューに揃え、好評を博していたが、吉野家も昨年11月に鯖みそ定食をスタート。牛丼以外のメニュー強化に乗り出した。
同社は4月1日に「牛丼の販売を終了し、代わりに鶏丼の販売を開始します」というエイプリルフールのツイートを行ってネット上の話題をさらったが、4月26日から本当に鶏すき丼の販売を開始している。
新メニューの投入は、顧客の多様なニーズに応えるという側面もあるが、最大の理由は牛肉価格の高騰で牛肉の入手が難しくなったからである。牛丼チェーンを取り巻く環境を客観的に眺めた場合、エイプリルフールのツイートもまんざらウソではない状況なのだ。
牛丼には主に米国産の輸入牛肉が使われているが、これまでは需要と供給のバランスがうまく均衡していた。その理由は、牛丼に使われるショートプレートという部位は脂身が多く、米国ではほとんど消費されず、日本だけが安値で買い取るという図式が成立していたからである。だが、ここ数年の間に、中国と東南アジア各国の所得水準が大幅に上昇し、こうした受給バランスが崩れ始めた。
受給のアンバランスをさらに加速するきっかけとなったのが、米中貿易戦争である。
トランプ米政権は莫大な貿易赤字を抱える中国をターゲットに敵対的な通商政策に乗り出そうとしている。昨年5月に米中首脳会談が行われ、中国と米国は貿易不均衡を是正する100日計画の作成に合意。これに伴って中国側は2017年7月に米国産牛肉の輸入解禁を表明した。
市場ではこうした動きを見越して、輸入解禁前後から牛肉の価格が急上昇を開始。2016年にはキロあたり600円以下だったショートプレートも一気に値上がりし、中国の輸入解禁前後には一時800円を突破。その後、多少は落ち着いたものの、現在でも800円近い水準での取引が続いている。
これまでショートプレートを輸入するのは日本だけだったが、ショートプレートは中国の火鍋にぴったりだということで、日本と並んで中国も輸入するようになった。火鍋の市場がそれほど大きいとは考えにくいが、何せ中国は人口の絶対数が圧倒的に多い。ある部位の輸入がちょっと増えただけでも、受給バランスは簡単に崩れてしまう。
長期的に見て、アジアでの需要過多が続く
では、牛肉が手に入りにくいという状況は今後も続いていくのだろうか。今回、ショートプレートが値上がりしたのは、中国の輸入解禁を受けて、米国の事業者が値上げをしたことが直接的な原因である。つまり、実需面での品不足というよりも、ビジネス上の駆け引きという面が強い。その証拠に、値下がりはしていないものの、値上がり後の価格は比較的安定的に推移している。
これに加えて牛丼チェーン各社は、値上がりの可能性がある場合には、長期契約を結ぶことが多く、価格動向の変化がすぐに商品価格に影響を及ぼすわけではない。
しかしながら、牛肉価格について今後も楽観視できないと見る関係者は多い。
中国経済は以前と比較すれば成長が鈍っているが、高成長が続いていることに変わりはない。しかも中国社会は急速に豊かになっており、国内消費はさらに拡大する可能性が高い。牛肉へのニーズは高まることはあっても減少することはないだろう。
東南アジアも状況は同じである。これまでの東南アジアは安価な労働力を提供する新興国だったが、急速に内需が育ってきており、先進国並みの消費経済が確立するのはそう先のことではなくなった。アジアの中において、日本だけが大量の食材を輸入するという時代は完全に過去のものとなっている。
畜産物は工業製品とは異なり、需要の増大に合わせて、すぐに生産量を拡大することができないため、需要過多になると価格が上昇しやすいという特徴がある。しかも牛肉の生産国は限られており、需要超過に対しては生産量の拡大ではなく、価格上昇で収益を最大化する方向に傾きやすい。マクロ的な環境を考えれば、長期的にも値上がり傾向が続くと考えた方が自然である。
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