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日本企業が固執する「シェア至上主義」と「価格戦略の軽視」のまずさについては本連載の
前回で述べた通り。連載の第2回目は「価格戦争」についてお話しする。値下げするなどして価格戦争に勝った企業は果たしてその後、順調に利益を伸ばすことができているのだろうか。デルやマースクの事例をもとに、考えてみよう。
8割の日本企業が価格戦争に陥っている事実
グローバル・プライシング・スタディの中で、“現在価格戦争に巻き込まれていますか?”という質問を行った。日本企業は価格戦争が起こっていると答えた割合が世界で最も高く8割にも達するという驚きの結果であった。またさらに興味深かったのが、“誰がその価格戦争を仕掛けたと思いますか?”という問いに対して、価格戦争は他社が仕掛けたと認識している割合が実に9割を超えたことである。
筆者は価格戦略のコンサルティングで営業の方に対するインタビューを数多く実施するが、その際によく耳にするのが、「競合がとんでもない低価格を提示してくるので、受注のためにはこちらも大幅な値引きを提示せざるを得ない」、「値段のたたき合いになるのは、健全な利益を無視してディスカウント提供してくる競合のせいだ」といった発言である。
こういった発言は、自身の提供した異常なほど大きなディスカウントを正当化する際に用いられる傾向があるように感じる。もしこの競合企業の側にインタビューをする機会があるとすれば、多分、競合の営業もまったく同じように答えるのではないだろうか。つまり、この調査結果からも分かるように、企業は競合に対し価格戦争を仕掛けていると捉えれらるような行動を頻繁とっており、往々にしてこれを十分に意識せずに行っているのである。
価格戦争は企業にとっては不毛である。たとえば、コンパクト・デジタルカメラは十数年前は5万円を超えるものが主流であったが、現在はその頃と比べてはるかに高スペックであるにも関わらず、実売価格が1万円を切るものまであるし、外食チェーン店の牛丼は価格戦争の末、一時は250円近辺で販売されていたこともある。
他にも薄型テレビ、パソコン等、価格戦争の例としては枚挙にいとまがないが、どれも業界の収益性は非常に低い。
前回の記事でも触れたが、企業は値段を下げて、市場シェアや売り上げを伸ばす、もしくは維持したいという誘惑に常に駆られている。
したがって、値下げが競合による対抗値下げを招いて、価格戦争を引き起こすリスクは見過ごされる。また、攻撃的な値下げによって、圧倒的な市場シェアを獲得し、競合の市場からの撤退をもくろむ場合すらある。しかしながら、こういった企業の行動は自社を含む業界全体の収益性を損ねる結果に終わる可能性が高い。少し前の話になるが、海外の事例として、デルがコンパックに仕掛けた価格戦争を取り上げてみる。
デルvs.コンパックの価格戦争
1990年代の後半、デルとコンパックはパソコン市場で激しく競合していた。この2社は市場シェアのトップ争いを行っていたが、ビジネスモデルの違いから、デルはコンパックよりも15%程度原価が低く、この有利なコスト構造を活用しコンパックに対して価格戦争を仕掛けた。デルのこの行動はどのような結果をもたらしたか。
デルは4%市場シェアを伸ばしたが、自らが仕掛けた価格戦争の代償として約10億ドル(約1,350億円)の利益を犠牲にすることとなった。この価格戦争により、コンパックをPC市場から完全に撤退させることができたのであれば、中長期的な観点から意味があったかもしれないが、実際にはヒューレット・パッカードがコンパックを吸収合併することにより、コンパックのPCは別の会社の下で実質的に存在し続けることになった。現在も続くPC市場の低収益性を見ても分かる通り、価格戦争を仕掛けたことにより支払った代償と比べ、得たものは極めて小さいと言わざるを得ない。
このように価格戦争は企業の利益の観点からは不毛であるが、もし、価格戦争を引き起こしてしまった、もしくは不運にも価格戦争に巻き込まれたしまった場合、そこから脱却するためには何を行うべきだろうか。そのヒントが海運業界で起こった価格戦争にある。
【次ページ】価格戦争に巻き込まれてしまった場合、行うべき4つの戦略
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