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  • 2018/05/24 掲載

約3割が「就労率0%」の衝撃 障がい者就労移行支援施設の現実

アーネストキャリア 水野 聰氏に聞く

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2018年度より施行された「障害者雇用促進法」の法改正は、障がい者雇用にどのようなインパクトをもたらすのか。一般雇用とは取り巻く事情も異なる“障がい者就労”について、これを専門に扱う事業者の動きも活発化している。IT/Web業界への障がい者就労移行支援に特化するアーネストキャリア代表の水野 聰氏と、同社との協業をスタートさせるSBヒューマンキャピタル取締役兼アーネスト取締役の工藤 泰正氏に、障がい者雇用の「現実」と「これから」を聞いた。
聞き手・構成:編集部 中島 正頼、執筆:Miho Iizuka
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IT/Web業界に特化した就労移行支援を行う、アーネストキャリア 代表 水野 聰氏。
大学卒業後リクルートへ入社し、海外旅行や海外ウエディング等の営業を担当。その後、外資系IT企業での広告営業や人材会社でのネット媒体立ち上げ等の責任者を歴任し、現職

障がい者の雇用促進を「ポジティブ」に捉えることは可能か

 障がい者の雇用創出は、国の社会福祉政策の1つである。行政機関での公務員採用のほか、民間企業の社会責任活動(CSR)を担う特例子会社設立を補助するなど、ある意味では非営利な側面も容認しながら、持ちつ持たれつの関係で推し進められてきた。

 戦後、東京オリンピック開催前の1960年(昭和36年)に「障害者雇用促進法」の前身「身体障害者雇用促進法」が制定され、1978年に身体障がい者の雇用義務化が定められた。以降の法改正履歴を追うと、雇用率の引き上げや義務化、障がいの範囲や就労移行支援制度に至るまで、徐々に受け入れ体制の確立や就労環境の改善が図られるよう、国側もさまざまなアプローチを取り入れている。

 しかし依然として障がい者雇用は”義務”として捉えられ、生産性は黙殺されてきたのが現実だ。行政・民間問わず、一般社員とは一線引いたうえで、独立した部署や作業ラインで労務管理を行うケースも多い。関わる人々が大きな志を持って取り組んでいたとしても、年次目標が達成できてさえしまえば、積極的な雇用や利益創出に働きかける空気感でもない。働く側も働かせる側も、決められた枠の中へ委ねてきたともいえる。

 そのような状況下、2016年に国際条約や関係法制の変化に後押しされるかたちで、障がい者に対する職業の安定供給、職業人として均等な機会を与える「差別禁止規定」や「合理的配慮」の概念が導入された。2018年度から施行された今回の法改正では、法定雇用率引き上げや「精神障がい者」雇用が義務づけられ、今後2033年までに、さらなる数値目標の上昇が予告されている。どうやらこれまでの流れとは違うものを感じている企業も多いようだ。

 厚生労働省の発表資料によると、民間企業における法定雇用率2.0%に対し、2017年の実雇用率は1.97%、達成企業は50.0%。リソースに余裕のない中小企業、情報通信業などでの未達成が目立つ。こうした状況について水野氏は、以下のように指摘する。

「障がい者雇用1人あたり月額5万円前後のペナルティを支払えばよいからと、2.0%のときですら、およそ半分近くが法定雇用率を満たしていないのが現状です。それが2018年4月から2.2%になり、2021年4月までには2.3%へ引き上げが予告されています。また、雇用義務が発生する事業所の人数規模も4月からは50名から45.5名となって、現在対象は9万社以上です。今後も対象となる企業が広がるのは確実だと考えています」(水野氏)

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2018年4月1日から障がい者の法定雇用率が引き上げられ、2021年にはさらに0.1%引き上げが決定している

 一方で、働き方改革気運の中、一部の定量業務に対しては、AI(Artificial Intelligence)やRPA(Robotic Process Automation)の導入検討も進められている。一般社員に対しても“個の生産性”が求められる中、雇用機会均等の義務付けをポジティブにクリアするためには、「ペナルティを払ってでも面倒ごとにはフタをしたい」「機会コストで相殺したい」とも言っていられない。同じ障がい者を採用するのであれば、法定雇用率をクリアするだけでなく、職業人としても利益をもたらしてくれる生産性の高い人を雇いたいと思うのが企業側の正直なところだろう。

 ただし、どれだけ頭で理解していたとしても、実際にこれまで接したことのないタイプの社員を受け入れるとなると、企業側にとっては想定できないことが多すぎる。すべての障がい者がハイスペックなスキルを持ち合わせているわけでもない。これは一般の社員とも何ら変わりないことではあるが、多様な個性や出入りするリソースに対し、フレキシブルに教育やマネジメントができる人間が少ない。

支援施設のうち約3割は「就労率0%」 20%超えすら約半分

 一方で、働く側である障がい者の現状はどうだろうか。

 2016年度の数字にはなるが、雇用施策の対象となる障がい者(18歳~64歳の在宅者)は約354万人。内訳は身体111万人、知的41万人、精神202万人となっている。2017年末の発表資料によると、民間企業で雇用されている障がい者は495,795人(※人数カウントには独自の計算式があり、実人員としては406,981人)。うち、民間企業に就労できている比率は約15%である。実雇用率は14年連続右肩上がりとはいえ、精神障がい者の雇用水準の低さが指摘されている。

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雇用障がい者数と実雇用率の推移
(出典:「障害者雇用のご案内」(PDF)厚生労働省)

 これに対し、障がい者が就労するための支援施設は、全国に17,000件以上存在する。これら「障害者総合支援法」に基づき展開される「就労系障害福祉サービス(就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型)」では、就労を希望する障がい者に対して職業訓練・職場探し・職場への定着支援・企業実習など、一般企業で働くにあたって必要なサポートを行っている。

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就労移行支援には3つのスタイルがある。就労移行支援、A型、B型、それぞれの担う役割は少しずつ異なる
(出典:「障害者の就労支援対策の状況」厚生労働省)

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 そして実際の就労率でみると、障がい者特別支援学校から一般企業へは約29.4%、就労移行支援サービス利用者からは約22.4%。これはなかなか捉えどころの難しい数字だ。

 水野氏は、「就労移行支援事業を行っている事業所は全国で3,300ほど。現在も増え続けています」としたうえで、以下のように説明する。

「実は、施設利用者の20%以上を就労させているのが全事業社の約51%。10%以上を就労させているのは13%くらいです。言い方を変えると、約3割の事業者では就労率が0%で、施設に通っていただいても就労にはまず至らないのが現状なんです。さまざまな要因はありますが、支援事業所として課せられている義務や目的を考えると、この現状は良くない。今後は制度自体の見直しが図られるはずです。そうなると事業採算性の面で淘汰されるところも出てくると思います」(水野氏)

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(出典「平成30年度定着支援事業・報酬改定について」(PDF)厚生労働省)

 これまでもハローワークが中心となり、職業能力開発校、社会福祉法人、NPO法人、民間教育訓練機関、就労移行支援事業所など、多様な委託訓練先がそれぞれ障害の状態にあわせた職業訓練のカリキュラムを準備してはいる。しかし、それが望むような就労サポートに繋がっているとは言い切れない。一般企業のビジネスシーンに必要とされる人材が、単純スキル以外にどのような素養を身に着けておくべきなのか。あらゆるニーズにマッチする、個の生産性も見据えたサポートがより必要とされているのだ。

【次ページ】なぜIT/Web業界に特化したのか? 真面目に教育すると採算が取れなくなる難しさ
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