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- 2017/03/03 掲載
IoTで「笑った分だけ課金される」スペインのお笑い劇場に行ってみた
IoT活用の世界初「笑った分だけ従量課金」システム
2012年、スペイン政府は文化的事業に対する消費へ21%の税金を導入したため、バルセロナのコメディ劇場「Teatreneu」では客足が遠のき、3割の観客減と2割のチケット値下げを余儀なくされた。Teatreneuは、広告代理店シラノス・マッカーンと打開策を検討。その結果、「劇場の宣伝を増やすだけでは十分ではなく、これまでとは全く異なる顧客体験を提供しなければ客足を取り戻すことはできない」という結論に至った。
そこでTeatreneuが2013年に導入したのが、料金を支払って観劇する「Pay-Per-View(PPV)」ではなく、入場料無料で笑った分だけ料金を後払いする「Pay-Per-Laugh」という、従量課金の料金システムである。
このなんとも不思議なシステムを実現するために活用されているのが、センサー、モバイル、クラウドといった要素を組み合わせたIoTの技術である。まず、前の座席の背面に取り付けられたiPadを使い、内蔵カメラが観客の顔を捉える。
iPad内のアプリが観客の目や口、輪郭の変化を検知し、80%以上の確からしさで「笑った」と判定された場合に課金されるという仕組みだ。
iPadからサーバーに送られたデータをもとに誰が何回笑ったかが集計され、観客が劇場を出る際に、自分の笑顔の写真を受け取ると同時に、料金を支払う。
入場無料であり、かつ笑い過ぎて料金が高額にならないよう上限が24ユーロと定められているため、観客は気軽に観劇することができる。笑った画像をSNSで共有できるため、話題性も抜群である。
このシステムは、2014年カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルのモバイル部門で表彰を受けている。
従量課金制は廃止?も、300人収容の会場が超満員
2017年2月、Teatreneuのその後を探るため、筆者は同劇場を訪問した。結論から言うと、従量課金制の公演はもう開催されておらず、15~24ユーロ程度の固定課金となっていた。
しかし、バルセロナの中でも若者に人気があるグラシア地区の細い路地にある劇場には長蛇の列が並ぶ。かつて従量課金制の公演として行われていた演目「Impro-show」を選択し、最も大きな会場で即興劇を観覧した。
300人以上収容できる会場は満員であり、公演中、観客は手を叩いて笑い、大きな盛り上がりを見せた。
即興劇では会場と出演者が一緒になって公演を盛り上げる。観客が劇のテーマを叫んだり、事前に紙に書いた単語を無作為に選んだりして決まった案に従い、数分間の異なる劇が何度も演じられる。
バレンタインデー直後という時期もあり、カップルを檀上に招いて、その馴れ初めを聞き、その場で再現するという演出もあった。約80分間の公演の最後には、檀上から写真をとり、ツイッターでシェアされて終演となった。
+ que felices x el éxito de la #SemanadelAmor Gracias a todos los que nos habéis acompañado! #elmejorplan #ImproSelfie #planetaImpro #lovers pic.twitter.com/sUaE0BwoAM
— IMPRO SHOW (@improshowbcn) 2017年2月20日
残念だったのは、IoTを使った先進的なビジネスモデルの事例として紹介されている従量課金制の公演が廃止されてしまっていた、ということである。
廃止された本当の理由は聞くことができなかったが、そもそもの狙いは、減少した客足を取り戻すことだ。決して観客を大笑いさせて従量課金で儲けよう、という話ではない。
2013年に従量課金制の公演が開催された当時は同劇場が経営危機だった状況を考えると、少なくとも現在は劇場の人気は戻っている。
サッカーや映画など、娯楽の多いバルセロナで、これだけの活況を呈するのは、かなりの成果に思えるので、Teatreneuの当初の目的は達成したといえるだろう。
(いわゆる投げ銭ライブを除いて)かつて日本でも、料金後払い制のライブが行われた例がある。ダウンタウンの松本人志氏が料金後払い制のお笑いライブ「松風'95」を開催したのは1995年のことだ。
当時は「笑いの量」を定量化することは難しく、観客の自己申告によって支払う(課金する)しかなかった。結果として、このライブは大きな赤字になったと言われている。
その後、約20年が経ち、IoT技術の進化によってエンターテイメント業界で料金後払いという「笑いの量」を定量化できるようになりつつある。今であれば、松本氏が「松風'95」のような後払い制ライブを実現できるのではないだろうか。
IoTのサービス化を支える「画像認識技術」の進化
たとえば、フェイスブック上では友人の顔にタグ付けできるし、カメラアプリでは笑顔を検知してシャッターを切る仕組みもある。セキュリティ分野では、入国審査などで本人特定やブラックリストに乗った人物の検知といった応用が考えられている。
画像認識技術を活用した販売促進キャンペーンとして面白い事例が見受けられる。南アフリカのコーヒーブランドDouwe Egbertsは、カメラを搭載したコーヒーマシーンを国際空港に設置し、「あくびをすると無料でコーヒーがもらえる」キャンペーンを行った。
長距離移動で疲れた乗員・乗客という、本当にコーヒーが欲しい人へ商品を提供する「Bye bye red eye(赤い目にさよなら)」企画だ。Teatreneuの従量課金と同様に、顔認識技術が新たなチャンスを作っている。
また、米国ではFacedealと呼ばれるクーポン配信サービスが提案された。事前に顔写真を登録したユーザーが、Facedealのカメラを設置した店舗を訪問すると、ユーザーの顔を認識したシステムが最適なクーポンをスマートフォンへ送信してくれる。店舗を訪れたユーザーに何の負担もないため、IoT技術を使って利便性を高めるキャンペーン手法と言える。
【次ページ】IoTで従量課金のビジネスモデルを実現した例
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