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ドイツのコンチネンタル社は、自動車部品メーカーとして世界でトップ5に入る巨大企業だ。日本法人で代表取締役を務めるベルトールド・ウルフラム氏は、「いま日本は自動運転のフロントランナーになっている。国策として2020年の東京オリンピックまでに、自動運転の実現を目指しているからだ。我々も日本国内で実証実験を行い、本腰で取り組んでいる」と語り、同社のポートフォリオと自動運転技術について解説した。ウルフラム氏がポイントとして指摘するのが「センサー・フュージョン」と「Hi-Resolution Flash LIDAR」だ。
自動運転領域では今後、よりイノベーティブな技術が登場する
コンチネンタル社は、1871年にドイツ・ハノーバーで操業された世界屈指の自動車部品メーカーだ。2015年の売上高は約327億ユーロ(約3兆96700億円)で、世界55ヵ国に430拠点を配し、約21万人の従業員が働いている。
日本には13の拠点があり、1400名ほどの従業員が電動ブレーキの製造などを手がけ、国内での活動に力を注いでいる。同社は当初はタイヤメーカーとして発足したこともあり、売上の約3分の1がタイヤ関連だ。しかし近年、複数のエレクトロニクス関連企業を買収し、自動運転に求められるソフトウェア技術者も2万人に達しているそうだ。
「我々は実際に幅広いポートフォリオをそろえている。たとえば、タイヤ(26%)以外に、シャーシ&セーフティ(21%)、パワートレイン(18%)、インテリア(21%)、コンテック(14%)と、各部門でバランスのよい市場展開を図っている」(ウルフラム氏)
自動車・車両関係のビジネスでは「情報マネジメント」「安全性」「効率性」という3つのトレンドが同社の大きな柱になっている。これら各領域について、「第9回 オートモーティブ ワールド カンファレンス」に登壇したウルフラム氏は最新製品を交えながら説明した。
たとえば、計装機器を含めた情報マネジメントは、2016年のメルセデス・ベンツ・Eクラスの新モデルで採用されたそうだ。インフォテインメント・ディスプレイや、12.3インチの高精細なHDディスプレイなどがインテグレートされているという。
また安全面では、新しいインテリジェント電動油圧ブレーキシステム「MK C1」で実現。ブレーキブースターと電動ブレーキを組み合わせ、ブレーキ・バイ・ワイヤーを実現してくれるものだ。2016年には、イタリアのAlfa Romeo社の車両に提供された。
一方、効率性に関しては、48Vハイブリッド・ドライブを開発。これは乗用車で一般的な12V基準の電力環境を、人体に危険とされる60Vより低い48V仕様に変更し、効率化を図れるようにした技術だ。量産車に適用された事例として、業界で初めてルノーの車両に採用された。システム統合が容易になり、ハイパワー駆動と電動ブレーキを利用できる。コストのみならず、エミッションを低減し、燃費の向上にも貢献するという。
ウルフラム氏は「自動運転領域では、これら情報マネジメント・安全性・効率性のすべてについて取り組んでいる。よりイノベーティブな技術が登場するだろう」と強調した。
コンチネンタルが進める自動運転のロードマップと2つのプロジェクト
自動運転の目的は、もちろん事故をなくすことだ。日本は67年ぶりに年間の交通事故死亡者数が4000名を切った。そのうち、半数が65歳以上の高齢者を巻き込んだ事故だった。国内の交通事故は一時的に減っても、高齢者が関わる事故は増えた。またグローバルでは120万件の事故があり、増加傾向は変わらない。
「もしエアバスA380が毎日落ちる状況ならば、危なくて誰も乗れないだろう。同じレベルの犠牲者が交通事故で出ている。事故を減らすことは大きな課題だ」(ウルフラム氏)。
交通渋滞の問題もある。ドイツでは交通渋滞が原因で、約100億ユーロの経済的な損失が生じているという。渋滞だけでなく、駐車するにも余計な時間がかかる。時間も燃料も無駄だ。これは環境問題にもつながるものだ。
さらに先進国では、高齢者もどんどん増え続けている。2030年までに60歳以上が10億人を超えるという試算もある。したがって高齢者が安全に運転するために、直観的な「HMI」(Human Machine Interface)などによる運転支援技術が特に求められるだろう。
自動運転技術は、安全性や効率性に大きく寄与する。しかし一足飛びでなく、段階的に進展していく。「我々は、2016年からの部分的な自動運転に始まり、2020年にはハイウェイ自動走行、2025年までに市街地も含めた完全自動走行を実現するというロードマップを描いている」(ウルフラム氏)。
同社では現在、主要なプロジェクトのひとつとして、2018年までにドライバーがいなくても自動駐車が可能な「パーキングコンパニオン」を実現させようとしている。
「事故の40%は駐車時などの低速時に発生しているという報告もある。駐車場を探すために、低速で走れば渋滞も起きる。そこで、まずは自動駐車で駐車場を探す負担を減らしたいと考えている」(ウルフラム氏)
もうひとつのプロジェクトは高度支援技術の開発だ。人間によるモニタリングがなくても自動運転が可能で、何かトラブルがあったときだけ人間が介入するというシステムだ。これは2019年を目標に開発を進めている。
人間がシステムと対話する高度で直観的なHMIが必要
ウルフラム氏は、このような同社の自動運転のロードマップとビジョンを実現すべく、テスト走行車に用いられる要素技術について、「Sense」「Plan」「Act」というの切り口から解説した。
まずセンサーについては、LIDARやSurround Viwe360°Camera、Interior Camera、AR-HUD(Head Up Display)、IAM(Intelligent Antenna Module)のほか、道路と接触するタイヤも含まれる点が、同社の大きな特徴といえるだろう。ウルフラム氏は「我々のポートフォリオには、情報を検知する重要なセンサーとしてタイヤも入っている」と強調する。
自動運転の実現にあたり、事故を回避する先進運転支援システム「ADAS」(Advanced Driver Assistance System)を提供しているが、なかでも機械と人間がシステムと対話する高度で直観的なHMIが重要だ。クルマが、いま何をしているのかを把握することができるからだ。同氏は一例として、AR-HUDを挙げた。
AR-HUDは、プロジェクターのようにフロントガラス上に仮想現実の画像を情報として投影させるものだ。ガラス上に浮いて画像が見えるだけでなく、数m先の道路上に矢印のような指示などが表示され、道に迷うことなくナビゲーションしてくれるようになるという。
「ただし現状の課題は、このようなシステムはサイズが大きくなってしまい、フロント部に実装できないことだ。そこで我々はブレークスルーとなるホログラム技術を使った小型システムを開発している」(ウルフラム氏)
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