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- 2016/10/28 掲載
A.T.カーニー出身コンサルが、タイで「農作物流通」の仕組み化を目指す理由
食品流通/農業・齋藤祐介 さん
立派な畑があるのに物乞い。インドでの出会いを機に農学国際を専攻
――齋藤さんは大学院時代、「農学国際」を専攻されていたそうですね。「農学国際」とは、食料や環境などといった世界問題の解決策を探る農学をベースにした学問だそうですが、なぜそれを学ばれたんですか?齋藤氏:学部時代、休学してインドへインターンに行った経験が大きいですね。インドでは貧富の差が激しく、路上生活者もたくさんいます。私が農村部を訪れた時にも、ある1人の貧しい身なりをした物乞いに出会いました。
彼は英語を話せたので言葉を交わしてみると、その時に私たちの目の前に広がっていた畑が、彼のものだと言います。それを聞いて、「こんなにしっかりした畑があるのに、なぜ物乞いをしなければならないのだろう?」と、ただただ不思議に思いました。
原因は彼の怠慢なのか、農業技術の不足なのか、あるいはインドの制度や気候によるものなのか、結局のところ分かりません。ただ、いずれにしろ彼のような境遇の人が世界中にいて、次の世紀を迎える頃になっても状況はきっと改善されないままなのだろうと、直感しました。
そして、目の当たりにしたその問題の背景を理解して、少しでも解決に貢献したいと考えて、大学院では農学国際専攻に進学しました。
研究室では農業や国際開発に関して、品種改良や土壌、農業制度、開発経済まで、幅広く学びました。経済モデルを作りながら、研究対象地域だったフィリピンの米農家から卸、政府関係者まで、さまざまな人物にインタビューを行っていましたね。
さらに研究室とは別に、ベトナム農村部でのITを使った技術教育のプロジェクトへも参加するなど、大学院時代には今の仕事にも活かせる多彩な経験を積むことができました。
――学生時代、そうした大学院での学びとはまた別に、スタートアップ企業を立ち上げられていたとか。
齋藤氏:「mana.bo」という教育系サービスの開発を、創業メンバーの1人として手がけていました。小学生から高校生までが、スマホアプリで現役の難関大生から気軽に個別指導を受けられるというもので、ビジネスモデルの構築と初期のアプリ開発を中心に、さまざまな業務に関わっていました。
他の創業メンバーとは、もともとシリコンバレーへ行くためのビジネスコンテストで出会いましたが、「mana.bo」のビジネスを通して、無から有を生み出す貴重な経験ができました。アイディアとパソコンしかない状態から、みんなでオフィスに泊まりこんでサービスを作り上げたのは、良い思い出です。
自分一人でできることは限られていますが、優秀なメンバー、仲間と一緒なら、ゼロイチの事業を作れるということ、またその楽しさを学ぶことができました。
戦略的思考を磨くためコンサルへ。そこで訪れた思いがけず早い巣立ち
齋藤氏:実は、就職活動では農業関係の仕事に携わりたいと思って企業を探していたのですが、特に良い候補が見つかりませんでした。そこで、新卒ではビジネスの基礎力が身につくような会社に行こうと決めました。中でも当時は戦略的な思考を苦手としていたので、それを養えそうな業界はどこだろうと考えたところ、コンサル業界が頭に浮かびました。
A.T.カーニーでは、クロスボーダー(国際間)の経営統合や、消費財の価格戦略、コスト改善などのプロジェクトに関わっていました。本当に色々な経験をさせてもらいましたが、特に論点を整理する力が磨かれたと思っています。今でも仕事で難しい決断をする時には、A.T.カーニーで培った力が役に立っています。
――しばらくA.T.カーニーで戦略系のコンサルタントとして活躍された後、同社を退職して、アジアで今の農業食品関連のビジネスを起業されています。ここで、やりたかった農業関係の道に進まれたわけですね。
齋藤氏:現在の投資家に誘われたことが、きっかけでした。正直なところ、当時はもう少しコンサル業界にいたいと思っていました。いつかは卒業する予定でしたが、予想より早いタイミングで巣立ちの時が訪れました。
――起業にあたって、不安はなかったですか?
齋藤氏:少しはありましたよ。自分がやりたい「海外×農業」の領域でのビジネスはかなり難しく、結果を出すまでには相応の時間が必要になることが推測できました。だから、もっとしっかり準備するべきなのではないかという思いがありました。
でも、経験豊富で尊敬できる起業家と一緒に事業を進められる機会は滅多にないだろうと思い、起業を決意しました。
――起業当初は、シンガポールが拠点だったとか。なぜそこを選ばれたのでしょう?
齋藤氏:シンガポールには、東南アジア全域の市場を狙う人や、それに関連する情報が集まってくるためです。Empag は現在タイで活動していますが、今後は長期的に東南アジア複数国での事業展開を考えています。
――立ち上げ時の様子を伺えますか?
齋藤氏:シンガポールでは、貸しオフィスを利用していました。小さな部屋で、3人が座るといっぱいの状態。でもそんななか、10年後に自分たちがどうなっているのか?どう社会を変えているのか?などと、大きな話をしては期待に胸を膨らませていました。
それからタイに拠点を移した後も、当初はAirbnbで借りた部屋を自宅兼オフィスとして使っていました。部屋にはたくさんの人が出入りしていたので、管理人に怪しまれているのではないかと、正直心配していました(笑)。
【次ページ】タイで取り組む「新しい流通」の仕組み化
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