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  • 2016/07/12 掲載

バングラデシュで「貧困」と「教育」の問題に立ち向かう、日本人起業家の志

教育IT事業 上田代里子 さん

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バングラデシュは学生人口が3000万人に上るにもかかわらず、公教育のシステムが充実しておらず、貧困によって満足に教育が受けられない子どもたちも多いという。貧富の差に関わらず未来を主体的に選択できる社会を目指し、バングラデシュで教育IT企業「Venturas Ltd」を起業した上田 代里子氏に、バングラデシュの教育の実態やビジネス環境について話を伺った。
レバテックフリーランス 「世界のフリーランス


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バングラデシュの貧困改善を目指す日本人起業家の志とは

バングラデシュの貧困改善を目指して

――2013年にネクスウェイを退社後、貧困改善を目的にバングラデシュに渡ったと伺っています。なぜ、行き先にバングラデシュを選ばれたのでしょうか。

上田氏:ムハマド・ユヌス博士がノーベル平和賞を受賞したことで、「マイクロファイナンス×バングラデシュ」というアイデアを知ったことと、2011年に1か月ほど会社から休みをもらってバングラデシュを訪れたとき、非常に面白い国だと思ったからです。そのときは、ダッカにある大学の外国人向け短期集中コースで、マイクロファイナンス(小規模金融)を学びました。

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上田 代里子 氏(写真右)

 民間セクターが貧困層にはほとんどサービスを届けていないからこそ、貧困層に小口の融資や貯金などのサービスを提供するマイクロファイナンスのようなモデルが、BOPビジネス、すなわち貧困層を対象としたビジネスとして社会的影響を与えることができると知りました。

 また、当時通っていたコースはBRACという、世界一規模が大きいと言われるNGO団体が提供していたのですが、この団体はバングラデシュ全土で様々なビジネスを展開し、数十万人の雇用を生んでいます。NGOがここまで国民に強い影響を与える国というのも聞いたことがなく、非常にユニークな国だと思い興味を持ちました。

バングラデシュの貧困改善のために必要な「3つ」のこと

――バングラデシュに渡った後、どのような活動に取り組まれたのでしょうか。

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上田氏:大学時代の友人が四国で毎年企画していた国際サイクリングイベントのアイデアを知る機会があり、友人もそのコンセプトを世界に展開したいという意志があったので、そのイベントのバングラデシュ版を開催することに決めました。

 当時の私にとって、何をするかはさほど重要ではありませんでした。ただ、誰かが始めたものではなく、自分でゼロから始めた事業をやりきる必要があると考えていたんです。というのも、私の目的である途上国の貧困改善につながるビジネスを展開するには、以下の3つの必要性を感じたからです。

・特定の途上国に身を置いて、そこで生活する人々が抱える問題や社会問題を知ること
・途上国で何かをゼロから立ち上げることがどれほど大変なのかを経験し、自分に何ができるのか、何が足りないのかを知ること
・何をするにも人との繋がりが必要であるため、現地で人間関係を形成していくこと

 これらのことを達成するために、私は国際サイクリングイベント「Bangladesh Discovery Ride2014」を立ち上げました。具体的には、バングラデシュから50人、世界中から50人のサイクリストを呼び、計100人で4泊5日間かけて200kmの道のりを自転車で旅する、というイベントです。私は発起人として、イベントの企画運営とすべての指揮実行を担当し、現地の様々な人を巻込みながら準備を進めていきました。

 世界15か国と国内あわせて約90名のサイクリストが参加し、イベントは大成功でした。参加者の達成感も大きかったようで、本当に良かったです。

 また、イベントのテーマとして「女性のエンパワメント」「環境美化」「国際交流」の3点を設定していたのですが、女性サイクリストが全体の4割近くいたことは「女性のエンパワメント」に貢献できたと思っています。

 ムスリム国のバングラデシュでは女性のタブーが多く、自転車に乗るという権利もほとんどない社会です。そんな中、参加してくれたムスリム女性サイクリストたちの変化にはすばらしいものがありました。

 「女性だから自転車に乗ってはいけない」というメンタリティが、200km完走できたことにより大きな自信となり「もっと大きなことにチャレンジしたい。女性であることが何かにチャレンジすることのハードルになるわけではない」と思えるようになっていました。

 パキスタンやアフガニスタンから参加したムスリム女性サイクリストもいて、彼女たちの国でもポジティブなニュースとして取り上げられたようです。

貧富の差が教育の質に直結する現実

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――2015年より、シンガポールに拠点を置き、東南アジアで産業の創造を図るREAPRAグループに参画し、教育IT事業を提供する「Venturas Ltd」を設立されたそうですね。会社の事業内容について教えてください。

上田氏:バングラデシュの現地中高生向けにモバイルを活用した学習サービスアプリ「Janoki?」を提供しています。

 「Venturas Ltd」のミッションは「すべての人が、境遇に関わらず未来を主体的に選択できる社会を作る」ことです。バングラデシュは学生人口が3000万人に上るにもかかわらず、公教育のシステムが充実していません。質の高い授業を受けるために子どもたちはお金を払い、塾に通っています。

 この学校外支出額の割合は高く、所得に関わらず家庭所得全体の約20~40%を占めており、国民の家計を圧迫しています。また、授業費の高い塾ほど先生の質も高く、たくさんお金をかければかけるほど質の良い教育を受けられ、良い学校に進学でき、高い収入が得られるようになる、という社会システムになってしまっています。

 私たちは「質の良い教育を民主化すること」をスローガンに掲げ、全ての子どもたちが低価格で良い授業をうけ、所得に関わらず自由に未来を選べるようになることを支援したいと思っています。

 2016年にパイロット版のAndroid Appsをリリースしましたが、リリース後約2か月で6000人以上の学生ユーザーを獲得しました。中高生向けの学習アプリとしてはバングラデシュ史上最速のユーザー獲得スピードだということで、国内のメディアにも何度も取り上げられています。

 今後、プロダクトを磨くとともに、より広く・早く、質の高いコンテンツを届けるためのモデルを磨いていこうとしているところです。今後3年で、バングラデシュにおけるe-learningのデファクトスタンダードになることを目標にしています。

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――良い教育を受けるにはたくさんのお金が必要、とのことですが、バングラデシュは貧富の差は激しいのでしょうか?給与水準についても教えてください。

上田氏:貧富の差は激しいですね。給与で言うと、普通の新卒のオフィスワーカーで(注1)平均約1.5万タカ(約2.05万円)ですが、低所得者が就く清掃員やメイド、土木建設員、リキシャ(人力車のドライバー)などだと、日払いで数百タカ、月給約1万タカ(約1.45万円)です。

(注1)2016年5月5日 バングラデシュタカ/円 1.3668の為替レートで計算。以下、すべて同じ。

 その一方で、腕のいいプログラマーは市場価値が高く、新卒3年目で5~6万タカ(約6.8~8.2万円)もらっている人もいます。プロジェクトマネージャーレベルになると、20万タカ(約27.3万)以上稼ぐ人材もいますね。

【次ページ】バングラデシュで働く上で知っておくべきルールや価値観
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